米大統領選で注目を集めるドナルド・トランプ氏のプライベートジェットは、ボーイング757型機。日本の航空会社はボーイング社の旅客機を多く導入していますが、実はこの757型機だけ、1機も採用していません。
2016年11月のアメリカ大統領選に向け、いま進められている候補者選び。そこで発言などから注目を集めているドナルド・トランプ氏は、中型の旅客機ボーイング757を“プライベートジェット”として保有しています。
この757型機をエアライン各社が旅客機として使用する場合、座席仕様は通常180から200席ほどですが、彼の「トランプ フォース ワン」とも称される自家用の757型機はたったの43席しかなく、空間を贅沢に使用。ダイニングやラウンジ、ベッドルームまでもが装備されており、「不動産王」と呼ばれるだけあって、公私ともに豪勢な生活を送っているであろうことをうかがわせます。ちなみに「トランプ フォース ワン」は、アメリカ大統領が搭乗した空軍機に与えられるコールサイン「エア フォース ワン」をもじったものです。
757型機は、アメリカの航空機メーカーであるボーイング社が、短中距離のベストセラー・727型機の代替モデルとして1978(昭和53)年に開発を始めた機材です。登場すると世界市場で人気を博し、いまもなお運航されています。
しかし日本の航空会社は、この757型機を1機も導入していません。
日本の航空会社が運航する機材は圧倒的にボーイング社製が多く、これまで各社が727、737、747、767、777、787と順を追うように導入してきました。にもかかわらず、なぜ757型機だけ採用されなかったのでしょうか。
757ではなく、もうひとつのほうを採用した日本の航空会社1970年代後半、ボーイング社は1980年代以降に運航される200席級の旅客機として、2機種の開発を計画していました。
2機種の同時開発は、「その機種の将来を左右する」ともいえる最初の発注数が分散するなどリスクが高く、一時は767型機に的が絞られました。しかし、アメリカのイースタン航空やブリティッシュ・エアウェイズがワイドボディ機の経済性の低さを主張したことにより、757型機の開発が復活します。
このあいだ、767型機の開発は着々と進行。日本のメーカーや航空会社も参画し、開発段階から各社の経験を踏まえた意見が広く取り入れられていきます。
そして767型機はJAL(日本航空)やANA(全日空)を中心とした日本の航空会社に、全製造数の約15%にあたる164機(2015年6月末現在)が納入され、日本の主要幹線や国際線で活躍する機材になりました。
JALによると、767型機は「積載力や航続力の高さに比して離着陸や上昇・下降に要する距離が大幅に短くてすみ、そのうえ騒音の低減も期待できる」「デジタルエレクトロニクスを全面的に採用したことにより、2名での乗員編成が可能」といった特徴を持つことから、導入へ至ったとのこと。
しかし、なぜ757型機ではなく767型機が選ばれたのか、という点についてはJAL、ANA両社ともに当時の資料が残っていないといい、明確な回答は得られませんでした。ただ、次のような理由が推測できます。
日本の事情に合わなかった757、しかし日本で見ることは可能日本では1970年代後半、マクドネル・ダグラス社のDC-10型機やボーイング社の747SR型機など、機材の大型化が進行しました。空港の発着回数を増やすことが難しいなか、旅行需要が爆発的に高まっていたため、一度に多くの乗客を運べる機材が必要とされたのです。
一方で、737型機などの小型ジェット機も、離島路線や地方路線を中心に導入されました。
757型機は、胴体がこの737型機よりひとまわり大きいものの、同様の通路と座席配置を持つ「ナローボディ」の機材です。
それに対し757型機と同時期に開発され、日本の航空会社が多く採用した767型機は、2人・通路・3人・通路・2人という座席配置の「ワイドボディ」を持ち、座席数230ほどの中型機です(767型機は「セミワイドボディ」ともされる)。
737型機よりひとまわり大きく、767型機より通路や座席数が少ない757型機は、両機種の中間的な存在といえます。そして限られた発着回数のなか、多くの乗客を運ぶ必要のあった時代、日本では通路が複数あり乗客の動線確保が容易で座席数も多い767型機のほうが適していた――それが、国内航空各社が757型機ではなく767型機を選んだ理由のひとつと考えられます。
757型機は、エアバスA320シリーズや737型機の大型化によって需要が停滞。ついに日本の航空会社へ導入されることなく、2005(平成17)年に製造が中止されました。
しかし世界ではいまもなお飛び続け、日本では現在、デルタ航空が国際線への乗継便として設定する関西~成田線や、成田を発着するパラオやグアムなどへのリゾート路線を中心に、757型機を運航しています。