優れた鉄道旅行を表彰する2024年度の第14回「鉄旅オブザイヤー」の部門賞が2025年4月1日に発表されました。旅行会社がプロとしての“腕”を競うグランプリを通じ、鉄道旅行そのもののトレンドが見えてきます。

「鉄道旅行のアカデミー賞」14回目

 優れた鉄道旅行を表彰する2024年度の第14回「鉄旅オブザイヤー」の部門賞が2025年4月1日に発表されました。ここから、鉄道旅行で拡大しそうな“トレンド”が見えてきます。

だから旅行会社は「鉄道」に力を入れる! プロの手腕を競う「鉄...の画像はこちら >>

オール2階建て客車「カシオペア」E26系を引く電気機関車EF81。「カシオペア紀行」の名でツアー専用臨時列車として運行される(大塚圭一郎撮影)

「鉄道旅行のアカデミー賞」とテレビ番組で紹介された鉄旅オブザイヤーは、旅行業界でつくる実行委員会が主催し、後援にJR旅客6社全てと日本民営鉄道協会、日本旅行業協会といった鉄道・旅行業界の主要企業・団体がそろう鉄道旅行のオールスター戦です。2011年度から毎年実施しており、第14回のグランプリは25年4月16日に鉄道博物館(さいたま市)で発表されます。

 旅行会社のツアーを対象にした旅行会社部門は筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)を含めた計10人の外部審査員が、旅行のプロとしての企画力が感じられるか、独創性、乗車する列車や路線の魅力度などを60点満点で採点。

 第14回は2024年に催行された国内の鉄道旅行が対象になり、前回より19件増の84件の応募がありました。4つの部門賞に決まったのは次の通りです。

・エスコート部門賞(団体旅行が対象):東急スポーツシステム/TSSキッズツアー「伊豆急行アドベンチャーツアー【謎解きトレインラリーコース/伊豆急クイズ王コース】」
・パーソナル部門賞(個人旅行が対象):名鉄観光サービス「岡ジャズトレインジャズ鑑賞」
・DC部門賞(デスティネーションキャンペーン開催地が対象):日本旅行「北陸デスティネーションキャンペーン 北陸三県連携観光列車 北陸三県をつなぐ一万三千尺物語紀行」
・鉄ちゃん部門賞(鉄道愛好家向けの旅行):読売旅行「ひたちなか海浜鉄道キハ205『最初で最後』の夜行列車 2日間」

 授賞式での受賞者のプレゼンテーションも評価した上で、当日の決戦投票でグランプリが決まります。

キーワードは「今でしょ」と「ならでは」、そして…

 グランプリを近年受賞したのは、「今でしょ」と「ならでは」、そして「三方よし」の三拍子そろったツアーです。

だから旅行会社は「鉄道」に力を入れる! プロの手腕を競う「鉄旅オブザイヤー」まもなく決定 三方良しの“神企画”とは
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さいたま市の鉄道博物館で開かれた2023年度の鉄旅オブザイヤーでグランプリを受けた日本旅行社員ら(鉄旅オブザイヤー実行委員会提供)

「今でしょ」は、その時の世相や流行に合ったタイムリーなプランであること。2つ目の「ならでは」は、旅行会社の強みである企画力と手配力を発揮し、顧客満足度を高める工夫が凝らされた旅行会社ならではの「プロの仕事」を実感できるという点です。

 特に2つ目は、インターネットで移動手段や宿泊先を予約する旅行者が広がってきた中で、旅行会社のレゾンデートル(存在意義)が問われるポイントだと言っても過言ではありません。

 3点目の「三方よし」は売り手、買い手、世間の3者が満足できる取引でなければならないという「近江商人」の経営哲学です。ツアーならば売り手の旅行会社、参加者、そして旅行先の地域経済の全てに満足感を与える商品であることが求められます。

 たとえば2023年度のグランプリ「北陸新幹線乗務員お仕事体験ツアー」は、24年3月の北陸新幹線金沢―敦賀間延伸を控えた「今でしょ」と呼べる絶妙なタイミングでした。参加した子どもたちがJR西日本金沢新幹線列車区のシミュレーターで運転士の仕事を疑似体験したり、北陸新幹線のW7系で車掌のように車内放送と検札をしたりと普通は味わえない「お仕事体験」ができるという旅行会社「ならでは」の企画でした。

 主催の日本旅行は「もてなす側も、もてなされる側も笑顔の絶えない素敵なツアーとなりました」と説明します。1泊2日の行程のうち1日目は金沢市での夕食とフリータイムを設定したため、参加者が地元で消費する「三方よし」の内容でした。

 日本の鉄道開業150年を記念してJRグループと日本旅行が催行した2022年度のグランプリ「鉄道開業150年記念 JRグループ×日本旅行共同企画 JRでめぐる日本列島周遊の旅14日間」は、参加費が1人150万円以上と高額です。それでも成功を収めました。

 授賞式では筆者の「『鉄道旅行の集大成』と呼ぶべき絢爛豪華な商品です」とのコメントを紹介していただきました。定期運行を既に終えたJR東日本のオール2階建て寝台客車「カシオペア」や、JR九州の料理を楽しめる観光列車「或る列車」などの人気が高い列車への乗車体験を提供し、宿泊先も大分県・由布院温泉の亀の井別荘など指折りの施設ばかりで、3つのキーワード全てを網羅しました。

グランプリは一騎打ち?

 部門賞を事前に発表し、グランプリを授賞式当日の決選投票を決めるようになった2020年度以降、筆者はラジオ番組または連載コラムでグランプリを予想しています。

うち、20~22年度すなわち75%を的中させました。

 2024年度は、DC部門賞にノミネートされている日本旅行の「北陸三県をつなぐ一万三千尺物語紀行」か、鉄ちゃん部門賞の読売旅行「ひたちなか海浜鉄道キハ205『最初で最後』の夜行列車」のどちらかが受賞すると見込んでいます。

 これらの商品は三拍子そろっており、「今でしょ」と呼ぶべきタイムリーな企画なのが決め手です。富山県の第三セクター鉄道「あいの風とやま鉄道」の料理を味わえる列車「一万三千尺物語」を北陸三県で運行したツアーには、募集人数の4倍弱に当たる449人が応募し、能登半島地震からの旅行需要回復に一役買いました。

 一方、ひたちなか海浜鉄道の旅行商品で貸し切ったキハ205は、1965年に製造された「ほぼ還暦」の車両です。退役を控え、惜別の思いを抱えてじっくり乗車したいという愛好家のニーズをくみ上げたと受け止めています。

 オンライン旅行代理店(OTA)の拡大に押されて大手旅行会社でも生き残りが厳しくなる中で、鉄旅オブザイヤーの受賞ツアーは「旅行のプロ」ならではの鋭い視点を生かした企画を世に出せば、収益を得ながらも顧客満足度を高めることができ、能登半島地震といった自然災害の被災地の復興を後押しして地域経済を盛り上げられると証明しています。こうした好企画に追随し、優れた旅行商品が続々と世に出ることを強く期待しています。

 筆者は勤務先の福岡支社、ワシントン支局に赴任していたため2018~23年度の授賞式は残念ながら欠席しましたが、24年度は7年ぶりに出席する予定です。プレゼンテーションもしっかりと拝見して評価した上で、決選投票で納得のいく1票を投じたいと思います。

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