近年、日本周辺で活動が活発化している中国軍機。なかでも無人機の飛来数が増えてきています。
統合幕僚監部は2025年4月10日、昨年度における航空自衛隊戦闘機の外国機に対する緊急発進(スクランブル)回数を704回と発表しました。2023年度から35回増加しており、航空自衛隊の負担増が浮彫りとなっています。
航空自衛隊のF-15J戦闘機(画像:航空自衛隊)
緊急発進の対象となった国・地域の内訳は中国464回、ロシア237回、その他3回で、中国機に対する緊急発進の回数は2021年度の711回に比べれば減少してはいるものの、2020年度から5年連続で400回を超えています。
なかでも統合幕僚監部が特筆事項として挙げているのが、中国のUAS(無人航空機システム)に対する緊急発進回数の増加です。2023年度は8回でしたが、2024年度は約3倍の23回に増えました。
吉田桂秀統合幕僚長は4月10日に行われた記者会見で、中国のUASに対する緊急発進の増加について「試行的な飛行から、運用できる態勢になったのではないかと認識しており、たいへん注視している」と述べています。
航空自衛隊の方面隊の中で、最も緊急発進回数が多いのは沖縄県那覇市の那覇基地に司令部を置く南西航空方面隊で、2024年度の緊急発進回数は全回数の約6割のあたる411回に達しています。
2020年度から2024年度まで、他の方面隊の緊急発進回数はおおむね数十回から100回台程度で推移していますが、南西航空方面隊の緊急発進回数は5か年度連続で400回を突破しており、同隊に配備されている戦闘機と、戦闘機を運用する航空自衛隊員の負担は大きなものとなっています。
2025年4月現在、南西航空方面隊で戦闘機を運用する第9航空団には、F-15J/DJ戦闘機が配備されています。防衛省はF-15J/DJの運用コストを明らかにしていませんが、2022年11月にアメリカのGAO(会計検査院)はF-15J/DJの原型機であるF-15C/Dの1飛行時間に要するコストを発表しています。
これによると、F-15C/Dの1飛行時間あたりの運用コストは3万8668ドル(約555万円)で、おそらく航空自衛隊のF-15J/DJの運用コストもこれに近いものと考えられます。
戦闘機や爆撃機のような、日本を攻撃してくる可能性のある航空機に対する緊急発進はF-15J/DJなどの戦闘機でなければ対処できませんが、情報収集などを目的とする航空機、ましてやUASのような航空機に対して1飛行時間あたり数百万円の運用コストを要する戦闘機で対処することは、経済的な観点からすると割に合う話ではありません。
中国もその点を承知しており、日本や台湾などに情報収集用の航空機をわざと接近させて、対処にあたる空軍を経済的にも疲弊させる手法をとっています。
内倉浩航空幕僚長は4月3日に行われた記者会見で、情報収集用UASのような、戦闘機を使う必要性が低い「非対称」な目標に対する緊急発進の新たな手段を模索しており、有人戦闘機ではなくUASで緊急発進に対応することも有力なオプションの一つだと述べています。
過去にも同様の検討が…!?実のところ、航空自衛隊は過去にもUASによる緊急発進を検討したことがあります。

M-346練習機の軽戦闘機型「M-346FA」。機種部にレーダーを搭載しており、空対空戦闘にも対応できる。M-346からは練習機としても使用できる「M-346FT」も開発されている(竹内 修撮影)
それは、航空自衛隊が運用するF-15J/DJの後継機選定が取りざたされていたころの出来事です。合計213機が導入されたF-15J/DJのうち、110機は能力向上改修に適さない、いわゆる「Pre-MSIP機」でした。当時の安倍内閣の政治判断で、2018(平成30)年末にPre-MSIP機の後継機はF-35A/B戦闘機が導入されることになったのですが、政府と防衛省の一部には将来のパイロット確保が困難になることなどから、Pre-MSIP機の後継機は導入しないという考え方も存在していました。
航空自衛隊は、Pre-MSIP機の後継機が導入されないという最悪の事態をにらんで、当時の防衛大綱で定められていた戦闘機保有数の上限、いわゆる「定数」に入らない、ジェネラル・アトミクス・エアロノーティカル・システムズ(GA-ASI)のジェットエンジンを動力とするUAS「アベンジャー」を導入して、緊急発進の任に充てることを考えていたようです。
これが検討されていた2010年代半ばには、まだ中国のUASは現在ほど活発に活動していなかったので、おそらく情報収集機などの有人航空機を対象とする緊急発進を想定していたものと考えられますが、非対称目標に対する緊急発進にUASを使用するという考え方は合理的だと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。
とはいえ、航空自衛隊は2025年4月現在、緊急発進に適したUASを保有していません。
T-4練習機の後継機として名前が取りざたされているM-346やT-50などには軽戦闘機型が開発されていますので、F-15J/DJなどに比べて運用コストが低く、練習機との機種統一で運用コストの低減が見込めます。こうした軽戦闘機を当面の間緊急発進の任に充て、その間に緊急発進に適したUASの整備を行っていくという手法も、経済的な損失を極力抑えながら、領空の安全を確保する上で検討していくべきだと筆者は思います。