世界で最も有名な旅客機のひとつである「ボーイング747」には、やけに胴体が短いモデルが存在します。なぜこのような形になったのでしょうか。
「ジャンボ・ジェット」ことボーイング747シリーズは、世界で最も有名な旅客機のひとつで、生産終了後の2025年現在も根強いファンがいる機種です。特徴はその前方のみが“コブ”のように2階建てとなった形状と、70mを超える長い胴体。これまでの民間航空の歴史においても“超大型機”に分類されます。
NASAとDLRが保有していたボーイング747SP、「SOFIA」(画像:NASA)。
しかし、普通の747と比べても著しく胴体が短い、不思議な形状の747も存在します。そのモデルが「747SP」です。なぜ超大型の利点である機体を、わざわざ小さくしたのでしょうか。
747SPの特徴は、基本シリーズ(747-8以外のシリーズ)より約14m短い胴体にもかかわらず、ほかのシリーズより垂直尾翼や水平尾翼が大きいこと。本来の747のルックスとは、明らかに異なるものです。この機の初期発注者「ローンチカスタマー」のひとつが、かつてあったアメリカの巨大航空会社パン・アメリカン航空で、とある明確な目的のもと開発された747の派生型となります。
当時の747は、例えば東京~ニューヨーク線で直行便を飛ばすことができず、一度どこかで給油のための着陸を余儀なくされていたのです。そこで新たな747シリーズの派生型に求められたのが、航続距離の延長です。
こうしてボーイング747SPは、747シリーズの初期型である747-100よりも1500km以上長い1万656kmの航続距離を実現しました。パンナムに納入された初号機は1976年、アンカレッジ(アラスカ)経由が一般的だった東京~ニューヨーク線で直行便を就航させます。
ただ、この747SPの売れ行きはイマイチで、製造機数は45機にとどまりました。というのも、747初期タイプの形をほぼそのままに、燃料タンク容量増加とエンジン変更で航続距離を延ばした改良型の「747-200B」が登場したためです。同じくらい(厳密には-200Bが多少上回る)の航続距離でありながら、人は多く乗せられない747SPは高い需要を得られなかったのです。対し747-200Bは200機以上が売れ、JAL(日本航空)やANA(全日空)でも導入されました。
商業的には成功とはいえなかった747SPですが、そののちのシリーズにも引き継がれる、思わぬ副産物を生み出します。同機の形は、「ジャンボ」の特徴である2階席のコブ(アッパーデッキ)はそのままに、1階の部分にあたる胴体を短縮したものでした。
この結果に基づいて、コブを伸ばすことで同様の効果が得られるのではと開発されたのが、アッパーデッキ延長型の「747-300」です。それ以降747シリーズのコブは長くなり、ベストセラーの「ハイテクジャンボ」こと747-400、そして最終派生型となった747-8まで引き継がれることになりました。