世界最強の空軍と揶揄されるアメリカ空軍ですが、それを支えるのに不可欠な空中警戒管制能力が過去最低の水準になろうとしています。理由はE-3AWACSの老朽化だとか。
今や戦争に不可欠な装備/兵器といえるレーダー。とりわけ空が主戦場の空軍にとっては、飛行場の航空管制から、領空警戒、さらには航空機搭載の機上用に至るまで、レーダーがないと、夜の海を灯火もなく航行するに等しいと言えるほどです。
アメリカ空軍のE-3G「セントリー」AWACS。1970年代の導入開始だが2020年までにBlock 40/45アップグレードが行われ搭載システムは一新された(画像:アメリカ空軍)。
情報の優位が勝敗を分かつ21世紀の空中戦において、空中監視・指揮機能の不在は致命的な「戦術的盲目」を意味します。そうしたなか、敵を探知し、味方を統制し、空域全体を掌握する、これら複雑かつ高度な機能を一手に担う存在が、空中警戒管制機(AWACS)です。その最も高性能な機種としてアメリカ空軍が長年運用してきたのが、E-3「セントリー」です。
E-3は冷戦の最中である1970年代に登場し、以後、湾岸戦争、ユーゴスラビア空爆、アフガニスタン、リビア、イエメンといったアメリカ軍の主要軍事作戦において、常に空中指揮の中枢を担ってきました。旅客機であるボーイング707を母体に設計された本機は、機体上部に搭載した回転式のレーダードームが特徴ですが、これにより360度全方位の空域監視が可能です。最大滞空時間は約10時間に達し、空中給油によってさらに延長できます。その機能は索敵に留まらず、味方航空機への戦術指揮、リンク16をはじめとするデータリンクによる情報共有、さらには陸海軍との共同作戦を支える情報融合の中核として、まさに「空の中枢神経系」と言って過言ではないでしょう。
しかし、こうしたE-3の輝かしい実績も、いまや急速な老朽化の前に陰りを見せています。
この機数減少は、アメリカ軍全体の指揮統制機能に本質的な空白が生じる危険をはらんでいますが、こうなってしまった理由は、すでに製造から半世紀近くを経ており、構造的疲労や部品供給の困難、メンテナンスの負担増など、もはや物理的な限界に直面しているからです。
この現実を受け、アメリカ空軍は次世代AWACSとしてE-7「ウェッジテイル」の導入を決定しました。E-7は実績ある商用機ボーイング737-700を母体とし、固定式の高性能フェーズドアレイ・レーダー「MESA」を装備します。
航空自衛隊の早期警戒能力スゲーな!高リフレッシュレートでの空域監視能力、卓越した情報処理能力、通信ネットワークの柔軟性などを備えたE-7「ウェッジテイル」は、すでにオーストラリアや韓国、トルコで本格運用されており、イギリスが発注済みなほか、NATO(北大西洋条約機構)の共同運用機としても採用が決まっています。

アメリカ空軍向けE-7の完成予想CG。ボーイング737ベースであり、固定式のレーダーを搭載している点がE-3と大きく異なっている(画像:アメリカ空軍)。
なお、同機はボーイング737というベストセラー旅客機を基にしていることから、整備性と運用コストの両面において、優位性を発揮していると断言できます。
しかしながら、E-7のアメリカ空軍への導入は2027年から本格化する予定であり、空白期間は今後数年にわたって続く見通しです。最大26機の導入が予定されていますが、全機の配備完了には約10年を要するともされ、その間、既存のE-3を酷使せざるを得ないという、きわめて過酷な時期が待ち受けているのです。
一方、我が国に目を転じてみると、航空自衛隊の陣容は時比べ物にならないほど充実していると言えるでしょう。
中長期的には、E-7の導入によってこの問題は一定の解消が期待されます。しかし、アメリカ空軍はE-3からE-7への「移行期」という名の空白を、いかにして乗り越えるのか。既存機の稼働率アップに向けた整備体制の刷新、E-2を擁する海軍との統合作戦、さらにはNATOや同盟国との共同運用による部分的な機能補完などの代替策が、いずれも喫緊の課題となっています。
空の覇権は、戦闘機や爆撃機の保有数だけでは決まりません。空全体の情報をいかに掌握し、いかに活用し得るかという点が重要です。E-3という時代の遺産から、E-7という新時代の中枢へ、アメリカ空軍の将来を左右するこの転換期を目前にしたとき、改めて「空の眼」がいかに価値あるものであったのかを、アメリカ自身が痛感することになるのかもしれません。