古い車両が走るのが一つの魅力でもあったローカル線で、車両の引退や、コストがかかっても車両を“新造”するケースが相次いでいます。苦しい懐事情のなかで、各社はどのように車両の入れ替えを判断しているのでしょうか。

車両は「転がる資産」 長く使うのは当たり前!だが…

 ローカル鉄道では懐かしい車両の活躍が話題になります。筆者(山田和昭:日本鉄道マーケティング代表、元若桜鉄道社長)も青春時代にデビューした国鉄やJR、大手私鉄の車両が地方で活躍する姿にはエールを送りたくなります。ただ、そうした車両事情にやや異変も起こっています。

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引退したいすみ鉄道のキハ52。観光の目玉として導入されたが、維持困難になった(画像:PIXTA)。

 移籍車両ばかりだったローカル鉄道でも、最近では車両の“新造”が相次いでいます。また、いすみ鉄道の国鉄形キハ52が2025年4月に老朽化のため引退するなど、古い車両の維持もハードルが上がっています。このような車両の入れ替わりは、どのような事情でおきるのでしょう。

 鉄道車両は英語で「転がる資産」を意味するRolling Stocks と呼ばれるように、高価な鉄道車両は消耗品ではなく建物に似た資産として扱われ、長く使われます。

 ただ、走行・制御部は機械なので消耗がありメンテナンスが必要ですし、雨雪・砂塵や寒暖など厳しい屋外環境で長年使われるのでサビなどの腐食も進みます。客室は建築物のような居住性が求められますが、振動や騒音に晒され、生活水準が上がるにつれて求められる性能も上がっていきます。鉄道車両は、航行中も常にメンテナンスしながら運航される船に近い乗りものです。

1か所の故障が全線に、日本の鉄道車両は「信頼性」が大事

 鉄道車両は故障しても路肩に置いてレッカーを待つことができませんので、側線などに待避させますが、特に日本の鉄道は側線などが切り詰められているので、全線が麻痺してしまうこともあります。ドア1枚の故障でも全線の乱れに広がってしまうので、何万回動かしても故障しない高い信頼性が求められます。

 そのため、車両は頑丈かつ単純に造ることとなり、その結果として長持ちもするので、高価な車両を長く使うことが続きました。

 欧米の場合、多少の故障は予備でカバーし、5重連の機関車でも1両は故障しているといった事もあります。余裕を切り詰めて信頼性を上げる方にコストをかけるのか、資産に冗長性を持たせ故障があっても動き続けるようにするのか、環境に応じた考え方の違いです。

燃費がいいより「メンテがしやすい」が大事なワケ

 ローカル鉄道の場合、大手と状況が異なります。車両数が少なく、動力費の比率が小さくなり、メンテナンスの設備や人件費の比率が高くなります。つまり燃費の良さよりも、単純で壊れづらく修理しやすい車両が望ましいのです。修理に時間がかかると、その分の予備車両が必要となり、資産を増やさなければなりません。

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真岡鉄道のSL。2020年にはSL1両を東武鉄道に譲渡している(画像:PIXTA)。

 また、価格が安い中古車両を手に入れたいのですが、路線の条件に合う仕様の車両がタイミング良く出ることはなかなか無く、探し回ってご縁を見つけるのが実態です。

それも難しくなると、多少合わなくても我慢するか、小改造などでしのぐことも多くなってきました。軽くて小さな車両の方が線路への負担は少ないのですが、やむなく輸送量に対して大きな車両を入れることもあります。

 究極の中古車両はSL(蒸気機関車)です。ほぼ全ての部品がメーカーから供給されないので、自社で作って交換するしかありません。このため、鉄部品を鋳造するコークス炉を備えたり、細密な機械加工をしたりと、車両メーカーレベルの設備・技術・要員が要求されます。SLを走らせるのは、運転も難しいですが、メンテナンスはさらに難しいのです。

修繕か新造か? 職人技が消える

 中古車両は購入価格が安いものの、腐食が進んでいて補修が必要なことがあるほか、交換部品の供給がいつまで続くかという問題も伴います。代替部品を合わせるなど工夫も必要ですし、歪みや腐食の修繕は技術を要します。雨漏りなど故障箇所の特定も簡単ではない場合もあります。

 こうした車両修繕は、新しく歪みの無い材料を組み立てる新造とは世界が異なります。昔は職人技で見事な修理をしていたものが、今はメンテナンスの人員もなかなか確保できず、人件費も上がり、改造費用の方が高くつくことも出てきました。

 では、いっそ車両を新造すれば良いかというと、これも難しいのです。

非電化はツラいよ 年々上がるコスト

 ローカル鉄道では地上設備が軽く済むためディーゼルエンジンで走る気動車が多く使われます。気動車は電車に比べて圧倒的に数が少なく、構造も複雑です。近年では排出ガスへの規制もかかり、環境コストも上昇しています。

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古い車両の維持には相応の要員が必要。写真は大井川鐡道(乗りものニュース編集部撮影)

 このため、製造コストも上がり続けています。ならば「いま流行りのバッテリー式にすれば」と思われるかもしれませんが、バッテリー駆動では充電設備(変電所)など地上設備への投資が必要です。また、充電時間がかかれば運用効率は下がりますし、バッテリーで重量が増せば線路への負担も増えます。

 ディーゼル発電とモーターのハイブリッド車も構造が複雑になり、重量も増すので、なかなかコストダウンになりません。さらに近年では半導体不足、人手不足などによりメーカー側の車両製造のハードルも上がっています。

 こうした状況から、古い車両を使い続けるか、中古車両を購入するか、車両を新造して長く使うかは、各社が置かれた事情によって判断が分かれています。ローカル鉄道のもともと苦しい懐事情の上に、部品の確保難、人手不足、新造価格の高騰が加わり、ますます厳しくなっています。

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