アメリカのトランプ政権による貿易関税問題は米国内で生産されている「ホンダジェット」に影響はないのでしょうか。製造元であるホンダ エアクラフト カンパニーへ話を聞きました。
アメリカのトランプ政権による貿易関税問題は世界を大きく揺るがせ、影響は航空機産業にも及んでいます。ボーイングのような大型旅客機は報復措置の対象になるリスクが起き、関税問題自体の懸念も去っていない中、ホンダの航空機事業子会社、ホンダ エアクラフト カンパニー(HACI)が展開し、米国内で生産されているビジネスジェット「ホンダジェット」に影響はないのでしょうか。同社へ話を聞きました。
ホンダジェット エリートS(画像:ホンダ エアクラフト カンパニー)。
HACIは7人乗りのホンダジェットをこれまで250機以上販売し、航空機メーカーとしての地位を獲得しつつあります。ビジネスジェット機自体は米国内で多く使われていますが輸出も多く、構成部品の輸入もあります。このため、トランプ関税の影響が今後ビジネスジェット機へ及ぶことも考えられます。
そこで、5月上旬にHACIへ現状や今後の影響などを問い合わせました。
HACIは「国際的な関税状況の進展が、部品や材料を含む供給網や供給連鎖に与える可能性があるか。その評価に取り組んでいる」と、分析中であることを記していました。
そのうえで、米国から輸出する機体の発送や納入については、「(今回の関税問題により)納入が遅れたことはなく、現時点で完成した航空機の納入の遅れも予想されていない」としています。さらに、今後の対策として「世界の貿易環境における他の開発と同じように、顧客への影響を最小限に抑えるため部品供給側と調整を続けている」とありました。
HACIが現在生産するホンダジェットはビジネスジェット機の中で最も小さいVLJ(ベリー・ライト・ジェット)クラスになり、競合する機種は米国外で見当たりません。このため米国外で販売シェアを奪われる事態に発展する可能性は大きくないと言えるでしょう。
受注ペースについては、トランプ現大統領の当選が現実視され出した2024年後半から緩やかになったほか、受注はどれほどあるか明らかでないものの、2年程度はバックオーダー(受注残)機が残っているともされるため生産への影響も実際にないと思われます。
とはいえ航空機部品の供給網は、世界のどこかで軍事情勢の懸念が高まれば軍用機へシフトし、ビジネスジェット機へは遅れがちになります。これに加えて今回の関税問題は、長引けば大型旅客機市場では「残るのは敗者のみ」と懸念されてもいます。先行き次第では機種のサイズを問わず、ビジネスジェット機生産への影響も皆無と言えません。
HACIも、ホンダジェットより一回り機体サイズの大きい「エシュロン」(11人乗り)のテスト機の製造を2025年に入り始めていますが、トランプ関税がきちんと解決されず決着が長引けば、米国外のビジネスジェット機ユーザーに手控え感が起きることも予想され、エシュロンの受注へ影響が懸念されます。
HACI自体は2006年に設立されたので、航空機メーカーとしては若いといえます。そのため今回のトランプ関税の問題が長期化しないことを願いつつ、今回の問題が将来におけるHACIの経営戦略強化へのノウハウ蓄積になることを願うばかりです。