インド軍が運用するフランス製「ラファール」戦闘機を中国製の戦闘機「J-10C」が撃墜した直後に行われたパリ航空ショー。ここでは各国の政治的な思惑が多数確認されています。
中国製の第4.5世代戦闘機「J-10C」が2025年5月にインドとパキスタンの軍事衝突によりパキスタン軍の機体がインド軍のフランス製「ラファール」戦闘機を撃墜したことで話題となりました。それに続き6月に実施された世界的航空の一大イベントが、奇しくもフランスの「パリ航空ショー」でした。ここでは何が起きたのでしょうか。
手前がフランス製の「ラファール」、奥がインド国産の戦闘機「テジャス」(画像:インド空軍)
中国はJ-10Cの実機を展示するか、「ラファール」の製造国であるフランスがそれをすんなり許すのか――。J-10Cの動向が注目された同ショーですが、結果的に輸出型である「J-10CE」の模型のみが展示されました。
その一方でフランスは、印・パの軍事衝突時に破壊されたサーブ製の早期警戒機の後継機種を実機で展示しています。いわば「撃墜マーク」を得た機種は冷遇され、破壊された機体の後継機は見せ場を与えられたというわけです。この差はどうして起きたのでしょう。
この模型だけが展示されるという結果は、2023年の前回ショーも同じでした。ただ今回、屋内展示場ではJ-17戦闘機や第5世代機のJ-20ステルス戦闘機を従えるように、J-10CEが「センター」に展示されています。
ブースにいた中国の関係者に、実機展示は実際にあり得たのか質問したところ、「噂があったのは知っている。
とはいえ、中国がJ-10CEをアピールしたいことに変わりはないと見ていいでしょう。その結果がJ-10CEを今回はセンターに“昇格”させた、模型の立ち位置だったと筆者は考えています。
ここまでなら、ショー開催国であるフランスが何がしかのネガティブな反応を見せ、中国が一歩引いたとの想像で終わるかもしれません。しかし、屋外展示場に置かれた、壊されたものと同じ航空機メーカーであるサーブ(スウェーデン)製の早期警戒機管制機を見ると、フランスのさらなる“J-10CE外し”が隠されているように思えました。
「グローバルアイ」展示から見るフランスの“オトナな戦略”今回のパリ航空ショーで公開された「グローバルアイ」ですが、その姿はおいてはありませんでした。そのわけはフランスが使う早期警戒管制機E-3Fの後継として、2機を今後購入するとした、サーブの18日の発表にあります。なお、「グローバルアイ」はサーブが以前に開発し、インドとの衝突時にパキスタン空軍がミサイル攻撃で失った「エリアイ2000」の次に開発された早期警戒管制機で、いわば後継モデルにあたる存在です。
「エリアイ2000」の発展型である「グローバルアイ」は、フランスにとっては新機種です。「グローバルアイ」は実機を展示して自国軍の装備の刷新をアピールし、さらに「ラファール」を撃ち落としたJ-10の展示は模型のみにとどめて目立たせない――。こうした露出方法を世界の業界関係者が注目するイベントで行うことにより、「ラファール」の撃墜からショー来場者の目をそらせたといってよいでしょう。
一方、依然として中国は、少しでも強く、国際舞台でJ-10CEをアピールしたいことには変わりありません。このため模型の展示であっても、J-10CEをセンターに置くことで、わずかな“反撃”を試みた形跡を見ることができます。
実際、シャープなスタイルのJ-20をいわば“モブキャラ”扱いし、一世代前の姿が明瞭なJ-10CEがセンターを務める編隊はどこか違和感があり、それゆえに逆に人目を引いていたのは間違いありません。
※一部修正しました(6月22日18時)。