近年とくに軍事的緊張が高まる日本周辺に“にらみ”を利かせているのが、世界最強ともいわれるアメリカ空軍の第18航空団です。その役割や重要性について伺うべく、沖縄県の嘉手納基地に所在する同部隊の司令官にインタビューしました。
中国や北朝鮮の軍事的脅威が高まる中で、日本は防衛予算の大幅な増額など、自らの防衛力を向上させる取り組みを進めています。一方で、日米同盟に基づき、有事の際にはアメリカ軍と連携して自国の防衛を実施する態勢を整えています。
嘉手納基地に着陸するF-15E「ストライクイーグル」(綾部剛之撮影)。
なかでも、近年その能力を質的・量的に拡充している中国の航空戦力に対抗するためには、アメリカ空軍との連携が必要不可欠です。そこで、今回筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は、沖縄にあるアメリカ空軍嘉手納基地において、インド太平洋地域における戦闘能力の中核を担う第18航空団司令官のニコルス・エバンス准将にお話を伺う機会を得ました。
まず、嘉手納基地が担う役割、そしてそこに所在する第18航空団の任務について、エバンス准将は次のように説明します。
「嘉手納基地は沖縄本島中部に所在し、アメリカ空軍における極東最大の基地です。常時100機以上の航空機が駐留しており、その種類は約20機種にのぼります。我々の任務は非常に明確です。それは、地域全体において航空戦力、特に戦闘航空戦力を展開することで、その役割は大きく三つに分けられます。
第一に、北朝鮮、中国、ロシアといった潜在的な敵対国を抑止すること。第二に、日本をはじめとする同盟国・パートナー国に安心を供与すること。
また、現在第18航空団では、これまで配備されてきた旧式の戦闘機であるF-15Cに代わり、新型のF-15EXを配備する計画を立てています。今後の配備計画について、エバンス准将はこう説明します。
「現在、我々は従来運用していた戦闘機であるF-15Cから、最新鋭機であるF-15EXへの更新・移行の過渡期にあります。F-15Cは空対空戦闘に特化した戦闘機で、40年以上にわたり活躍した非常に優れた機体ですが、老朽化に伴い整備性や信頼性が低下しています。中国の脅威が高まる中で、より近代化された機体への移行が求められていました。
そのため、我々は日本政府との協力のもと、嘉手納基地にF-15EXを36機配備する計画を進めています。F-15EXは多用途戦闘機であり、空対空戦闘はもちろん、対艦・対地攻撃も可能です。より多くの兵装を搭載でき、より長射程の兵器も運用できます。防御・攻撃両面において高度なシステムを備えており、極めて有能な戦闘機です。初号機は来年の春頃に到着する見込みです。
また、移行期間中においても、前述した『抑止・安心供与・日本の防衛』という任務を継続するため、常時3~4個飛行隊がローテーションで展開しています。現在のところ、F-35Aが2個飛行隊、F-15E『ストライクイーグル』が1個飛行隊です。今年前半にはF-22やF-16なども展開していました。約6か月ごとのローテーションで第4世代および第5世代戦闘機が交代で展開しており、航空優勢の確保、各種演習、地域内の同盟国や友好国との共同訓練に対応しています」
戦闘機「新旧混合チーム」こそ重要と言うワケここでエバンス准将が言及した第4世代戦闘機とは、おもに1980年代ごろから運用が開始された戦闘機を指す言葉で、それまでよりもレーダーや通信システムの能力が向上した機体です。F-15やF-16など、世界各国で主力戦闘機として運用されているのがこの第4世代戦闘機です。一方、F-22やF-35に代表される第5世代戦闘機は2000年代以降に登場した戦闘機で、ステルス性能や情報処理能力に優れているのが特徴です。

第18航空団司令官のニコルス・エバンス准将(綾部剛之撮影)。
エバンス准将によると、これら第4世代戦闘機と第5世代戦闘機を連携して運用することが重要だといいます。
「現在嘉手納に展開している第4世代戦闘機は、ほとんどがいわゆる『第4.5世代』と呼ばれるものです。先進的なAESA(アクティブ電子走査式アレイ)レーダーをはじめとする高度なセンサーを搭載しており、そのうちのいくつかは第5世代戦闘機と比べても遜色のない性能を有しています。
第4世代機と第5世代機の最大の違いはステルス性能です。
第4世代機は比較的コストが低く、外部兵装を多く搭載できるという利点があります。一方、第5世代機はセンサーフュージョンや電子戦能力、さらに僚機との情報共有によるネットワーク中心の作戦に優れています。両者が連携して運用されることで、非常に効果的な戦闘力が発揮されます。
我々は、那覇基地に所在する航空自衛隊のF-15J部隊とも密に連携しており、彼らも第5世代機との統合訓練を積極的に行っています。このような異機種間の統合には時間と訓練が必要ですが、うまく連携できれば極めて有効な編制となります」
ウクライナ戦のようなドローン攻撃の脅威は「もはや驚くことではない」嘉手納基地に展開する各種航空機にとって、最も重要なのは基地の安全性です。もし基地が突然攻撃を受けてしまえば、いくら高性能な戦闘機といえども地上にいる間は抗うすべがありません。
その観点からすると、最近ウクライナの特殊部隊がロシア領内で実施した小型ドローンによる空軍基地への攻撃が思い起こされます。こうしたドローンの脅威は世界的に高まっていると、エバンス准将は語ります。
「ウクライナ戦争におけるドローンの活用を考えると、これはもはや驚くことではありません。我々は世界各地で、ドローン攻撃が非常に効果的であることを確認しています。
したがって、ドローンは全世界の基地にとって現実的な脅威となっており、各国の基地司令官たちはこの問題に真剣に取り組んでいます。嘉手納基地にも、能動的および受動的な複数の対ドローン防御システムを導入しています。作戦上の理由によりその詳細には触れられませんが、我々としてはこの脅威を極めて重要と認識しており、各軍種が検知・迎撃システムの開発に力を入れています」
ガチのミサイルにはどう対応?一方で、基地に対する脅威はドローンだけではなく、むしろ大規模な国家間戦争の場合には敵の巡航ミサイルや弾道ミサイルによる攻撃の脅威が高まります。
そこで、アメリカ空軍ではこれに対抗すべく、「迅速戦力展開(ACE)」と呼ばれる運用構想を数年前から進めています。その内容について、エバンス准将は次のように説明します。
「ACEは、厳密な作戦計画というよりも、運用能力・構想です。ご指摘の通り、嘉手納基地は中国や北朝鮮が保有する多くの兵器の射程圏内にありますが、そのような環境でも戦力を生き残らせるため、機動的かつ分散的な運用が鍵となります。
かつては、施設を強化・要塞化することで敵の攻撃に耐えるという考え方が主流でした。たとえば韓国にはそうした強化施設が数多くあります。しかし、現代の兵器は精度が非常に高く、要塞化だけでは防ぎきれません。ですので、現在は施設を動かし、分散させ、もし一部が破壊されても他の場所で同じ任務を継続できるような体制が重要とされています。
ACEでは、航空機だけでなく、通信や支援機能を含む航空戦力の運用全体が移動および分散の対象です。仮に嘉手納基地が攻撃を受けたとしても、残りの部隊が即座に別の拠点から任務を継続できる能力を確保することが求められています。そのために我々は、分散運用、攻撃後の迅速な滑走路再整備能力、通信体制の確保など、さまざまな訓練や準備を行っています。
我々としては、日本の航空自衛隊基地を含めたあらゆる場所に展開を命じられても、即応できるように準備しています。すなわち、ACEとは『場所に依存しない即応力』を意味しているのです」