JR東日本が2026年度以降、新型車両E131系を長野総合車両センター(長野市)へ導入することを同社関係者が筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)に明らかにしました。これに伴い、中央本線や篠ノ井線、信越本線などで運行している国鉄時代の211系が置き換えられます。
211系は国鉄分割民営化の前年の1986年に営業運転が始まった車両です。前面部の白い繊維強化プラスチック(FRP)が特徴的なステンレス製車両として、長年にわたって多くの路線で活躍してきました。しかし、デビューから約40年が経過し、老朽化が進んでいます。
その211系の二大拠点となっていたのがJR東日本とJR東海でした。このうちJR東海は新型車両315系の導入に伴い、2025年に全ての211系を引退させています。JR東日本でも東海道本線や東北本線などからは既に退役しており、長野総合車両センターからも消えることが判明しました。
新たに導入されるE131系は2021年にデビューした直流電車です。全長20mあるステンレス車体の客室には4か所の両開き扉を設けています。211系も全長は同じ20mですが、客室の両開き扉は3か所にとどまります。扉の数が多いことで、乗降時間の短縮が期待できます。
JR東日本が211系を置き換える背景には、老朽化に加えて人手不足を背景とした省力化を進める狙いもあります。E131系はワンマン運転に対応しており、車体側面にカメラを備えています。
現在の211系には運転士と車掌が乗務していますが、E131系の導入によってワンマン運転への切り替えを視野に入れています。これは鉄道業界全体で進む人手不足対策の一環といえるでしょう。
やっぱり「長野色」? ただし「減車」の可能性もE131系はもともと、大都市圏や地方などの編成が比較的短い線区の標準車両として設計されました。既に千葉県の房総地区や、神奈川県の相模線(橋本―茅ケ崎)、栃木県内の宇都宮線 小山―黒磯間と日光線(宇都宮―日光)、そして神奈川県の鶴見線で運行しています。2025年12月には宮城県の仙石線(あおば通―石巻)でも営業運転が始まる予定です。
JR東日本の上越線を走る211系(大塚圭一郎撮影)
車内は壁沿いに座席を設けたロングシートで、各車両に車いすやベビーカーの利用者向けのフリースペースを設置しています。扉の上には停車駅などを案内する液晶表示も設けられており、利用者にとって使いやすい設備が整っています。
先頭部のドット柄と側面の帯は、それぞれの地区の塗装を引き継いできました。このため、長野総合車両センターに配備される車両には「長野色」と呼ばれるアドバンスブルーとリフレッシュグリーンの組み合わせになる見通しです。
これまでに製造されたE131系は2両編成、3両編成、4両編成があります。長野総合車両センターには何両編成の電車が入るのかが注目されそうです。
長野総合車両センター所属の211系は、3両編成と6両編成があります。うち3両編成は屋根上に設けられた換気装置のベンチレーターの撤去といった「延命工事」が進められてきました。これに対し、6両編成は延命工事が確認されていないため、E131系への置き換えが迫っている公算が大きいとみられます。
となると、最大でも4両編成のE131系で6両編成の211系を置き換えることになります。以前よりも利用者が減ったことを背景に、6両編成で運転するには“オーバースペック”になっている電車もあります。このため一部の電車では車両数を減らす「減車」も起こりそうです。
E131系の運行を予定する線区の2023年度における1日当たりの平均通過人員は、いずれもJR東日本の発足初年度である1987年度を下回っています。例えば篠ノ井線(塩尻-篠ノ井)の場合は2023年度に1日当たり1万1259人と、1987年度より約27%減りました。
211系の「JR最後の砦」とは?長野総合車両センターの211系は、今も長野県の第三セクター鉄道、しなの鉄道で一部活躍している115系電車を置き換えるため、2012年から2015年にかけて関東から転入してきたものです。長野県では115系が1970年代後半に導入され、半世紀近くたった今もしなの鉄道に残っています。これに対し、211系は十数年の運用となりそうです。
211系はJR東海から全て退役しており、JR東日本も長野総合車両センターからの引退で数を減らしていくのは確実です。
一方、211系の“第二の人生”も始まっています。三重県の私鉄、三岐鉄道はJR東海の211系を譲り受けて改造した「5000系」を2025年5月に三岐線で営業運転を開始しました。千葉県の流鉄も25年7月にJR東海の211系を4編成譲り受けています。
2026年にデビューから40年を迎える211系は、引退が進む一方で新天地での活躍も始まっており、ロングラン電車として今後も各地で活躍が続きそうです。