Nは「乗りもの」 Nシリーズのルーツ

 2025年現在、日本で一番売れている新車として知られているのが、ホンダの軽ハイトワゴン「N-BOX」です。2011年に初代モデルが発売されると、N-BOXはたちまち大ヒットを記録。

以降ホンダは「N-ONE」(2012年)、「N-WGN」(2013年)、「N-VAN」(2018年)と派生モデルを次々に発売し、「N」シリーズを展開しています。ところでこの「N」って何なのでしょうか?

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 ホンダによると、「N」は「Norimono(乗りもの)」の頭文字で、「(自動車が)単なる機械ではなく、人が乗るためのもの」という意味を込めて命名したとのこと。しかし、実はこのNシリーズには“元祖”といえる、ホンダの歴史において非常に重要なモデルが存在しました。今から60年近く前の1967年に発売された「N360」という軽自動車です。

 ホンダ創業者・本田宗一郎氏が自ら命名したと言われているN360は、四輪車メーカーとしてホンダを躍進させた、大ヒット作として知られています。

 このクルマが発売される4年前の1963年、ホンダは二輪車での世界的成功を足掛かりに、四輪車の製造・開発事業へ参入しました。同年には軽トラックの「T360」と、小型スポーツカーの「S500」を発売するとともに、翌1964年からは日本のメーカーとして初めてF-1世界選手権に参戦。1965年には初優勝を果たしました。

 その一方、T360と S500(後に排気量を拡大しS600、S800へと発展)は、当時とても高度なメカニズムだったDOHCエンジンを搭載。ホンダの技術力をアピールする効果は相応にありましたが、本格的な量産モデルとしては、まだまだ粗削りでもありました。

 そうしたなか開発されたN360ですが、当時の軽自動車は縦横のサイズが全長3m×全幅1.3m、排気量360cc以下と現在よりはるかに小さく、当然「車内が狭く」「パワーがない」ものでした。しかし、N360はこの常識に真っ向から挑戦していきます。

31万3000円握りしめて工場へ来い!?

 まず、N360の車体設計は「大人4人がラクに座れる空間を先につくってしまおう」と、客室中心で進められました。この「乗るスペースは最大に、メカ部分はコンパクトに」という開発思想は、前述の「Norimono(乗りもの)」の定義である「(自動車が)単なる機械ではなく、人が乗るためのもの」という考え方のルーツでもあります。

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1967年発売のN360。ホンダにとっての実質的な初の量産4輪車だ(画像:ホンダ)

 また、エンジンはバイク用ユニットのノウハウを活かした空冷2気筒の高出力エンジンを新開発。駆動方式はコンパクトな前輪駆動式を採用し、さらなる室内空間の確保にも寄与しました。

 そして、N360は価格も非常に安く抑えられていました。ライバル車が軒並み35~45万円ほどで推移していたなか、東京・神奈川地区での店頭渡しで31万5000円という低価格を実現。さらに、生産工場であった埼玉県の狭山工場での引き渡しなら、もう2000円安い31万3000円で買うこともできました。

 この狭山工場での引き渡しは決して裏ワザなどではなく、当時の販売店用資料などには、堂々と「狭山工場渡し」の現金価格が記載されています。

 結果N360は大ヒットし、最大のライバルであったスバル360を発売2か月で追い抜き、軽のベストセラーに。販売台数は発売から2年ほどで25万台を突破、総生産台数は最終的に65万台を記録しました。また、カラーバリエーションも当時としては豊富に揃え、クルマに関心の薄かった女性ユーザーにも支持を受けました。

※ ※ ※

 現在のNシリーズは、N360の優れた開発思想を改めて現代に投影すべく立ち上げられたものです。軽自動車や低価格帯のクルマは「小さいのだから、これくらいは我慢すべき」「安いから、多少の不満は仕方ない」という仕上がりになりがちですが、Nシリーズからは小さく低価格でも「運転しやすく、安全で、さらにはオシャレなクルマでありたい」という、ホンダの心意気を強く感じます。

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