アメリカで開発されたF-15「イーグル」戦闘機は、初飛行から50年以上経過した現在も第一級の空戦能力を持ち続ける傑作機です。母国アメリカをはじめ、日本の航空自衛隊など世界7か国で運用されており、ほかにも導入を検討する国が複数ありますが、そのなかでアメリカに次いで長い運用の歴史を持っているのが、イスラエルです。
【日本版「バズ2000」か?】自衛隊向け「スーパーイーグル」F-15JSIです
イスラエルがF-15「イーグル」を導入したのは、第四次中東戦争から間もない1976年のことで、このとき同国は初期型のF-15A/Bを手にしています。これは世界で初めて輸出されたF-15であり、しかも実質的には試作段階に近い機体を入手したという点で特徴的でした。
なぜ、イスラエルはそこまで早期に運用することを決めたのでしょうか。そこには、当時のイスラエルが直面していた安全保障環境の厳しさが影響していたと言えるでしょう。
それから半世紀近く、イスラエル空軍におけるF-15は常に第一線戦力としての地位を保ち続けてきました。F-16I「スーファ」や、最新の第5世代機であるF-35I「アディール」といった新型機が次々に加わるなか、なぜF-15という「古参」の存在がなお現役であり続けられるのか、その答えの一端は、イスラエル独自の改修思想、すなわち「バズ2000」に見出されます。
F-15の設計思想は、もともと純粋な制空戦闘機としての性能を追求した点にありました。「空対空戦闘において無敵であること」が至上命題であり、電子装備や兵装、重量の制約を受けやすい多用途戦闘機とは一線を画していました。事実、日本の航空自衛隊は同機の高い空戦性能を買って迎撃戦闘機としてF-15Jの名で導入しており、アメリカやサウジアラビアも「制空の切り札」として運用してきました。
しかし、イスラエルはこの設計思想をそのまま受け入れることを良しとしませんでした。イスラエルにとって航空戦力は単に制空権を維持するためだけの道具ではなく、地上戦を迅速に決するための「戦略的打撃力」である必要があったからです。
30年遅れでイスラエルと同じ道たどる日本/自衛隊イスラエルは国土が狭小で、かつ海に面した西側を除く3方は敵国に囲まれています。
JDAM GPS誘導爆弾を搭載したF-15D「イーグル」。ストライクイーグルのような全天候・夜間におけるターゲット能力を持たないが、搭載力はほぼ匹敵する(画像:イスラエル空軍)。
ちなみに、「バズ」とはイスラエルにおけるF-15の愛称であり、その改修は制空戦闘機を「ストライクイーグルに比肩する戦闘爆撃機」へと進化させる野心的な試みでした。
「バズ2000」では、イスラエル製電子戦システムや航法・攻撃用アビオニクスが搭載され、これにより独自開発した精密誘導爆弾「スパイス」や、長距離スタンドオフ兵器「ポパイ」などの運用能力が付与されています。これにより、従来の制空戦闘機では想定し得なかった戦略目標への深奥打撃が可能となりました。
結果として、イスラエル空軍のF-15は迎撃戦闘機という役割を超え、遠方の核関連施設や指揮統制拠点への先制攻撃に投入できる「戦略的多用途プラットフォーム」へと変貌しています。実際、近年の中東作戦においてF-15「バズ2000」は対地攻撃任務に積極的に投入され、その有効性を立証しています。
興味深いのは、この「制空戦闘機の爆撃機化」という発想が、今日の日本におけるF-15J改修と近似している点でしょう。
航空自衛隊は2025年現在、F-15JSI(Japan Super Interceptor)改修を進めており、これにより従来は空対空任務専用であったF-15Jに精密誘導兵器の運用能力を付与しつつあります。
その背景には、これまでF-2やF-35に依存してきた対地攻撃任務を分担させ、戦力運用の柔軟性を高める狙いがあります。
F-15シリーズは累計1500機以上が生産され、初飛行から半世紀を経てもなお第一線で活躍を続ける稀有な存在です。その背景には、機体性能の完成度の高さに加え、各国が自国の戦略環境に応じて柔軟に改修を施し、運用概念を更新し続けてきた事実があると言えるでしょう。
その先駆けといえる象徴的な事例こそが、イスラエルの「バズ2000」です。制空戦闘機を戦略的打撃力へと転換させたその発想は、F-15という機体の多用途性を引き出し、新たな地平を開いたと見ることができるのではないでしょうか。