1989年に設立されたトヨタの高級車ブランド「レクサス」は、2025年9月に改良型を発表した「IS」をはじめ、多くの人気モデルを展開しています。北米でスタートしたのち、2005年からは日本にも販売チャネルが設立され、今年で20周年を迎えました。
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レクサス誕生前夜である1980年代中盤、日本のメーカーはプラザ合意による急激な円高や、年々深刻化する貿易摩擦問題に直面していました。その打開策として、トヨタのみならず多くの国内メーカーが目を付けたのが、高級車のマーケットです。1台当たりの利益率がよい高級車を世界市場でも広く販売することで、薄利多売な大衆車以外で収益の柱を確保するのが狙いでした。
ところが、当時の日本車は品質や信頼性の面で高い評価を受けていたものの、世界的にはブランド性や付加価値が全く認められていませんでした。トヨタも「カローラ」などではすでに大きな世界シェアを握っていたものの、高級車市場ではベンツやBMW、アウディといったドイツ勢や、アメリカのビッグ3に太刀打ちできていない状況でした。
この定説を覆すべく立ち上げられたレクサスは、最上級セダン「LS400」で世界を驚かすことになります。LS400の開発にあたり、トヨタは北海道・士別にテストコースを新設し、新しい高度な開発体制や厳格な品質基準を策定。それまでのトヨタ車、日本車はおろか、欧米の高級車をも超えた性能や設計思想が評価され、国際的な大ヒットを記録しました。
世界に衝撃を与えたLS400は、デビュー同年にトヨタ「セルシオ」として日本にも上陸。バブル景気で大型高級車の日産「シーマ」が爆発的人気を博していたこともあり、急遽導入されたセルシオですが、バブル崩壊後も「クラウンとセンチュリーの間に位置する新しい高級車」として人気を集めました。
また、レクサスは1998年にSUVの「RX」も大ヒットさせています。日本でもトヨタ「ハリアー」として展開されたRXは「高級サルーンとSUVのクロスオーバー」という、それまで存在しなかったジャンルを開拓。国内外で一気に支持を獲得し、初代LS400に続いて、世界の高級車メーカーがレクサスに追随する状況を生み出しました。
ところで、トヨタのハリアーは2013年の3代目レクサスRX日本導入に伴い、廃止される予定でした。ところが、国内各地のディーラーなどの多くの関係者がこれに猛反発。「ハリアー廃止反対」の署名運動なども起こり、存続することになりました。同年には3代目RXとは全く別のモデルとして、3代目ハリアーが発売され、両車は袂を分かっています。
消えていった「ソアラ」「アリスト」と、継承された「アルテッツァ」の血脈今も支持されている成功作もある一方で、すでに消滅してしまったモデルも存在します。高級クーペの「ソアラ」もそのひとつです。1981年の初代登場以来、最先端の装備を満載して大人気を博したソアラは、1991年に3代目へと移行するとともに、レクサス「SC」の名で世界の市場に挑戦しました。
1991年に登場したレクサスSCのベースは、トヨタソアラの3代目モデル(画像:レクサス)
しかし、カリフォルニアのデザインスタジオ「CALTY」が手掛けた斬新なデザインが日本では不評だったうえ、バブル崩壊の影響もあって国内販売は低迷しました。
また、3代目ソアラと同じ1991年に誕生したトヨタ「アリスト」も、1993年からは北米などでもレクサス「GS」として販売されました。ハイパワーな高級セダンとして人気を博したアリスト/GSですが、1998年にフルモデルチェンジした2代目モデルは特にヒット作となり、レクサスのシェア拡大に寄与しました。
2005年には3代目GSが登場し、アリストの名前を捨ててネーミングを統一。日本におけるレクサスの第1弾ラインナップの一角を担いましたが、セダン不振のなか徐々に販売成績が低下していき、2020年に4代目モデルをもって生産を終えました。
その一方、レクサスブランドのセダンとして続投が決まったのが、先ごろ刷新された「IS」です。ヨーロッパにおけるレクサスの本格展開の一手となった初代ISは、日本では1998年にトヨタ「アルテッツァ」としてデビューしたモデルでもあります。
ISは欧米で着実に人気を集めていった一方、アルテッツァは2005年のレクサス日本進出を機に生産を終了し、2代目のISにバトンタッチ。以降は日本国内でもレクサスISとして親しまれています。
現行のレクサスISは、2013年にフルモデルチェンジした3代目モデル。すでに登場から12年が経過していますが、2025年9月にはフロントマスクなど一新し、熟成を重ねた改良モデルが公開され、更なるロングセラーモデルとなる見込みです。
こうしてレクサスは高級車ブランドとして成長し、トヨタブランドの多くの名車がレクサスへと“巣立って”いきました。この構図に複雑な思いを抱く人がいるかもしれませんが、時代の変化を掴み、日本のマーケットを飛び出して世界的な高級モデルに進化したと考えると、筆者はむしろ誇らしいことではないかと思います。