2025年9月17日から20日までの4日間、台湾の台北市に所在する大規模イベント会場「台北南港展覧館」で、防衛・セキュリティの総合イベント「TADTE」(Taipei Aerospace & Defense Technology Exhibition)が開催されました。中国の脅威に対し、台湾がどのように対処しようとしているのか、その最新事情が見えました。
【ウソ、これ無人!?】これが中国に対抗する「台湾」の最新装備です(写真)
TADTEは台湾対外貿易発展委員会が2009年から開催しているイベントで、COVID-19の世界的流行で中止となった2021年を除いて、隔年(奇数年)に行われています。
2009年に開催された第1回のTADTEは、出展社数が97社という小規模なイベントでしたが、中国が台湾の併合を公言し、台湾がそれに備えて国防費を増額していることなどもあって、その規模と出展社数は回を重ねる度に増大。今回のTADTEの出展社数は前回(2023年開催・275社)から200社以上増加した、490社に達しています。
日本を含めた大多数の国は、台湾を国家として承認しておらず、台湾防衛法を制定しているアメリカ以外の企業は、台湾に防衛装備品を簡単に売却することはできません。このため出展社のほとんどは、ロッキード・マーティンやノースロップ・グラマンなどのアメリカ企業と台湾の国内企業です。
しかし、今回が初参加となるウクライナ企業や、エアバスなどのヨーロッパ企業も参加しており、TADTEは国際的な防衛・セキュリティイベントとなりつつあるようです。
今回は2024年12月に引き渡しが開始されたばかりのM1A2戦車の台湾仕様であるM1A2T戦車や、国内で開発した弾道ミサイルの迎撃能力を備えた防空ミサイル「強弓1型」といった、TADTEで初めて一般公開された装備品が、来場者の注目を集めていました。
もちろんこれら大型の正面装備も十分注目に値すると筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は考えますが、開発が進められている陸海空の新型無人装備の充実ぶりに目を引かれました。
無人で走って無人機を放つ装甲車!? しかも…陸上の無人装備品では、台湾で防衛装備品の開発を手がけている中山科学研究院(NCSIST)が出展した、偵察戦闘車に目が留まりました。これは簡単に言えば、陸空自衛隊で運用されている軽装甲機動車のような装輪式軽装甲車へ、俗に「自爆型ドローン」とも言われる徘徊型弾薬のランチャーを装備したものです。
会場の様子(画像:TADTE)
この種の車両は有事の際、敵と遭遇するおそれのある危険地帯への偵察に使用されるため、乗員に損害が発生しやすいのですが、今回、中山科学研究院が出展した偵察戦闘車は無人での運用が可能となっています。危険地帯への偵察任務における乗員の損害を減らすため、高度な自律運転機構を組み込んでいます。
またこの車両はディーゼルエンジンを動力としている軽装甲機動車などと異なり、電気で駆動します。民間のEV(電気自動車)が発生する騒音の小ささに驚いたことがある人もいると思いますが、中山科学研究院がInstagramなどで公開している動画を見る限り、この偵察戦闘車も発生する騒音はかなり小さいです。敵から発見されにくいという偵察車両の必須要件は、十分満たしていると筆者は思います。
電気推進の軍用車両への適用には、まだ解決しなければならない課題があることも確かですが、たとえばドイツでも現在運用されている偵察車両「フックス」の後継は電気推進とすることが検討されています。騒音の小さい電気推進は、将来の偵察車両のトレンドの一つになりうるのではないでしょうか。
「スイミーかよ!」なUSVとは?海上・海中で運用される無人装備品も多数展示されていましたが、アメリカ企業のMARTACが出展したUSV(無人水上艇)に目を引かれました。
同社のUSVは「スウォーム」(群)運用を前提とする自爆突入艇です。まっすぐ目標に向かうのではなく、複雑な航路で目標に向かうのはもちろんのこと、群のリーダーの役割を担うUSVが敵の攻撃で撃破されても、リーダーの役割を他のUSVが瞬時に引き継いで任務を継続する機能も備えています。
MARTACはTADTEの会場で中山科学研究院とUSVの共同開発・共同生産に関する覚書を締結しており、今後、台湾海軍にはMARTACのスウォーム運用能力を備えた自爆突入型USVが導入されるものと思われます。
空から潜水艦探知、もちろん無人!空で運用される無人装備品では、中山科学研究院が出展したUAS(無人航空機システム)の「アルバトロスII」が目を引きました。対地攻撃兵器のほか、潜水艦の探知に使用する「ソノブイ」ランチャーの搭載も前提に開発されているUSVです。
台湾空軍は、日本の海上自衛隊も運用しているP-3哨戒機を12機保有していますが、活動が活発化している中国海軍の潜水艦に対抗するには数が不足しています。
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台湾は経済的には豊かですが、軍事力では質量ともに中国には及びません。それを踏まえて台湾の独立を守ろうとするのであれば、中国軍と非対称な戦い方ができる無人装備の整備に力を入れるのは頷ける話ですし、同じ島国で、やはり中国を軍事的脅威と位置付けている日本も、見習うべき点が多々あるのではないかと思います。