スペックは物足りないが、驚異的に安かった「チョイノリ」

 2003年にスズキが発売した原付スクーターの「チョイノリ」は、「バイクに乗りたい人は、ヘビーユーザーだけでない」「通勤・通学・買い物などのためだけにバイクを使いたい人もいる」という考えのもと作られた、廉価なバイクでした。

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 こうした“ちょい乗り”のニーズに応えるため、スズキは大幅なコストカットを実行しました。

チョイノリは、当時スズキが販売していた他の原付スクーターより部品の総数を2割、ボルト・ナット類に至っては5割も削減し、エンジン出力も当時の平均であった4.7psを下回る2psとなりました。これはペダルの付くモペッドタイプのモデルを除けば、当時の国産原付バイクのなかで最も低い出力でした。

 その結果、チョイノリは新車価格5万9800円という前代未聞の低価格をひっさげてデビューし、大きな注目を浴びました。当然、チョイノリは非常にチープな作りで、スペック的にも貧弱ではあったものの、「ちょっと乗りたいだけのユーザーには、性能よりも手ごろさのほうが重要だろう」というスズキの思惑は的中。発売初年度には5万台を出荷するヒット作となりました。

 また、発売同年にはスポーティなカスタム仕様の「チョイノリSS」も追加され、こちらも話題に。簡素な設計が原因のトラブルも確かに多かったようですが、むしろその“ちょっと足りない”部分が魅力だと見るユーザーも多く、本来のターゲットユーザーであるライト層だけでなく、コアなバイクファンからも親しまれました。

 しかし、チョイノリは2007年8月、発売からわずか4年で販売が打ち切られました。これはトラブルの多さや人気の低下などによるものではなく、簡便な構造だったエンジンが、自動車排出ガス規制の強化に対応できなかったため。ある意味で革命的な存在だったチョイノリは、最終的に10万台以上が出荷されました。

台湾には“さらに低スペックな”チョイノリが存在!

 ところが、その後もチョイノリは思わぬ層から絶大な人気を博すことになります。それはバイクをカスタムして楽しむファンからで、多くのカスタムショップがチョイノリの簡素な構造を逆手に取り、多彩なカスタムを施すようになったのです。

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市販化が期待されている「eチョイノリ」(画像:スズキ)

 具体的な例を挙げると、BMXと合体させたチャリカスタムやアメリカンローダウン系のカスタム、トライク風、ダートトラッカー風、旧車會系など、カスタムのアイデアは多岐に渡ります。特に、クルマやバイクのカスタマイズを楽しむ人々のなかには「素材にするモデルは、ちょっと物足りないほうが面白い」という考えの人も少なくなく、チョイノリはこうした人々にとって、格好の素材だったのです。

 ちなみに、チョイノリは2025年現在、中古車市場において販売時よりも総じて高値で取引されています。これはスズキとしても、全く想定外のことだったでしょう。

 また、チョイノリは国内のみならず、海外でも愛されています。台湾では、スズキのバイクを販売する現地企業の「台鈴機車」によって、2005年頃からチョイノリの生産・販売が開始されています。なかにはさらに低スペックな30ccエンジンのモデルも存在し、「自転車感覚で乗れるバイク」としてコアな支持を得ているようです。

 絶版になってからも根強く支持されているチョイノリですが、2023年の「ジャパンモビリティショー2023」には、正式な後継モデルである電動ミニバイクの「eチョイノリ」が参考出品され、話題となりました。

 昨今の電動ミニバイクは、その多くが一回の充電で数十km程度しか走れません。その良し悪しはさておき、チョイノリがかつて描いたコンセプトは、図らずも現在の電動ミニバイクの設計思想に相通ずるように感じます。eチョイノリの市販化は未定となっていますが、ファンからは大いに期待されているだけに、将来の電動ミニバイクの時代も“ちょっと足りない”くらいのパワーで牽引してほしいものです。

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