JR東日本新潟支社は2025年11月24日、国鉄時代の1960年代に登場したベテランの電気機関車(EL)2機種を、12系客車の前後に連結してプッシュプル形式で運転する臨時快速「ありがとうEL号」として運行しました。
【撮り鉄、大集結!】これが電気機関車牽引「最後の旅客列車」の様子です(写真)
旅客営業から退役したのは新潟車両センターに所属する電気機関車のEF81形とEF64形で、これはJR東日本が擁する従来型電気機関車の「旅客列車としての営業運転終了」の節目となりました。
筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長・鉄旅オブザイヤー審査員)は乗車するとともに、これらの電気機関車を旅客列車以外で運用する可能性をJR東日本幹部に尋ねました。その回答は極めて明確でした。
交直流両用電気機関車のEF81形は、50ヘルツおよび60ヘルツの交流電化区間と、1500ボルトの直流電化区間にまたがる北陸本線や信越本線、羽越本線などの通称「日本海縦貫線」を直通運行できるように開発されました。本州と九州の広範囲の地域で旅客列車と貨物列車を牽引し、寝台特急の「日本海」(大阪―青森)や、ともに上野―札幌間を走った「北斗星」と「カシオペア」の先頭にも立ちました。新潟車両センターには1979年製の140号機が残っています。
一方、直流電気機関車のEF64形は優れた粘着性能が特色の「山岳路線のエキスパート」(JR東日本)で、中央本線や篠ノ井線、上越線などの急勾配がある路線で客車や貨車を力強く引っ張る勇姿が見られました。寝台特急「あけぼの」(上野―青森)や「北陸」(上野―金沢)などを牽きました。
うち新潟車両センターに残っているEF64形の1030~32号機の3両は「死神」というありがたくない俗称を付けられています。これは引退した電車を引っ張って解体する工場などへ運ぶ廃車回送の役割を担ってきたためです。
これら3両は「双頭連結器」を装備し、機関車や貨車とつなぐ時に使う「自動連結器」のほか、自走できる車両とつなぐ時の「密着連結器」にも対応できる特性を持っています。このため廃車回送に用いられ、新車回送でも活躍してきました。
「ありがとうEL号」には新津―会津若松(福島県会津若松市)間の蒸気機関車(SL)列車「SLばんえつ物語」に使っている12系客車7両が充当され、新津側にEF81形140号機、長岡側にEF64形1030号機をつなぎました。
新津駅の電光表示器に記載した「ありがとうEL号」2号の発車案内。牽引するEF64の先頭部のイラストが美しい(大塚圭一郎撮影)
1号は長岡10時55分発新津11時42分着、2号は新津12時20分発長岡13時5分着、3号は長岡13時57分発新津14時44分着、4号は新津15時44分発長岡16時35分着。全車指定席で、乗車には運賃のほかに指定席券またはグリーン券が必要です。
筆者が長岡駅で新津行きの1号に乗り込むと、中間の4号車の展望車には「乗車記念スタンプ」が置かれていました。押印すると、普段運用されている「SLばんえつ物語」の牽引機であるC57形180号機のイラストとともに「Since1988 SLばんえつ物語 新津↔会津若松 おかげさまでご乗車100万人達成!」の文字が現れました。車内の売店は営業しておらず、ハガキを郵送できるポストは投函口に「本日の取集は終了しました。」の貼り紙をして入れられないようにしていました。
出発時に乗務員が列車無線で交信し、前後の電気機関車が「ピー」という警笛を鳴らすのを聞いて「客車列車に乗っている」との実感が湧きます。
「ハイケンスのセレナーデ」のメロディーで幕を開けた車内放送は、EF64形とEF81形が前後に連結されていることを紹介して「長年にわたり、日本の鉄路を支えてきた両形式の機関車に感謝の気持ちを込めた特別な記念列車です。鉄道の歴史に思いをはせながら、両機関車の力強い牽引とともに、車窓からの風景をお楽しみください」と呼びかけました。
EF64形とEF81形の特徴の説明に続いて「鉄道の昭和、平成、令和と三つの時代を駆け抜けた名機が、皆様を鉄道の街・新津へとお連れします」という含蓄のある文言で締めました。一方、長岡行きの列車では「鉄道の昭和、平成、令和と三つの時代を駆け抜けた名機が、皆様を機関車ゆかりの地・長岡へとお連れします」と語りかけました。
走行中はレールの伸縮継ぎ目を車輪が通過する音がテンポよく響き、所々で鳴らされる警笛も相まって鉄道旅行ならではの旅情に包まれます。
そして、「ありがとうEL号」は快速にもかかわらず、特急列車より停車駅が少ない“逆転現象”も体験できました。というのも、特急「しらゆき」(新潟―上越妙高・新井)は長岡―新津間の途中で見附、東三条、加茂の3駅に止まるのに対し、「ありがとうEL号」はノンストップで駆けたのです。
見附駅では新潟発上越妙高行き「しらゆき」4号の交直流両用特急形電車E653系が停車しているのと反対方向の線路を、「ありがとうEL号」が素早く通過するという珍事が見られました。
幹部が明言した「今後」「ありがとうEL号」1号の45分ほどの行程はあっという間でしたが、普通で運用されているE129系電車では味わえない旅情をもたらしてくれました。車窓に田園風景が広がっていることもあり、客車列車の乗り心地はタイムマシーンのように昔の記憶を呼び起こしてくれました。
見附駅に停車中の特急「しらゆき」4号。通過する快速「ありがとうEL号」から(大塚圭一郎撮影)
筆者が大学時代の1993年夏、サークルの旅行でJR東日本東北本線の岩手県内の区間を移動中の光景とよく似ていたのです。そのときは「青春18きっぷ」を携え、電気機関車が牽く赤色の50系客車のボックス座席に陣取った記憶が、つい昨日のことのようによみがえりました。
「ありがとうEL号」は車内の座席が「満員御礼」となる盛況ぶりで、沿線にはカメラを構えてシャッターチャンスを狙う黒山の人だかりができました。旅客列車からの引退はもったいないほどの人気ぶりですが、他の活用法はあり得るのでしょうか。
筆者がJR東日本幹部に尋ねると首を横に振り、「今後は廃車にしていく方向です」と明言しました。
その幹部の「もう電気機関車の時代ではないですよ」という言葉を聞き、筆者は新美南吉の童話「おじいさんのランプ」の場面を思い出しました。
それは、ランプを売っていた主人公の巳之助が廃業を決意して「お前たちの時世はすぎた。世の中は進んだ」と言いながら石を投げ、木につるしたランプを割る光景です。ランプの販売を追い詰めたのは電気で、巳之助は「世の中は進んだ。電気の時世になった。」とも口にしています。
それから歳月が過ぎ、その電気を使って走る機関車までもが「退場宣告」をされるようになるとは――しかも、解体する工場へと廃車を死出の道へいざなう「死神」として恐れられたEF64形1030~1032号機が、今度は自らが終焉の地へ向かう番になるとは――
JR東日本の従来型電気機関車の退場に惜別の念を抱くとともに、「平家物語」の冒頭の一節「諸行無常の響きあり」が現世にも通じることをかみしめました。

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