“謎の白い箱” 新型自販機とは

 トヨタ自動車は静岡県裾野市で、次世代のモビリティやサービスの実証テストを行う施設「Toyota Woven City(以下、ウーブンシティ)」の建設を進めています。2025年9月に「第一期エリア」がオープンし、一部の入居も始まりました。

【白すぎて逆に不安…?】これが「買い方が判らない自販機」です(写真で見る)

 そんな新しい街で目に留まったのが、およそ自動販売機とは思えない見た目をした新型の自動販売機でした。

 すでにウーブンシティ内ではさまざまな実験が進められており、施設に訪れる人々のことを「ウィーバーズ」と呼ぶのに対し、実際に新しい製品やサービスをテストする個人・団体などは、まとめて「インベンターズ(発明家たち)」と呼ばれています。

 このように、ウーブンシティに異なる分野・文化を持つインベンターズやウィーバーズが集まり、まだ世の中にない価値を生み出し、それがスパイラルのように次の発想へと広がっていくことを、トヨタは“Kakezan”(カケザン)と呼んでいます。

 インベンターズには現在、計20組の企業や個人などが参加しています。トヨタグループの12社を除く異なる分野では、ダイキン工業、ダイドードリンコ、日清食品、UCCジャパン、増進会ホールディングス(Z会グループ)、インターステラテクノロジズ、共立製薬、そしてシンガーソングライターのナオト・インティライミ氏が名を連ねています。

 インベンターズは、住居エリアの一角にある「Kakezan Invention Hub」という施設において、新しい製品やサービスの実証実験を行っています。ウーブンシティの住民や訪問者は、これらを自由に見学したり、試したりすることができます。

 ここにあるのが、前述した自動販売機、その名も「HAKU」です。ダイドードリンコが実験を行っています。

 HAKUの最大の特徴は、飲み物のディスプレイが一切ない、“のっぺらぼう”状態の真っ白い外観です。表面にはドリンクの取り出し口しかないので、大きな冷蔵庫や、クローゼットのような家具にも見えます。何を売っているのかわからない上に、コインや紙幣の投入口もないので、「もしかして自販機かな?」と、かろうじて判断できるレベルです。

 実際にHAKUを初めて見た人は、周りをウロウロして使い方の説明などを探すか、あるいは自動販売機だと気付かず、通り過ぎていってしまいました。この真っ白な自動販売機は、どのような意図で作られたものなのでしょうか。

溶け込むも目立つも“自由自在”?

 ダイドードリンコは、これまでの常識を覆す新発想の自動販売機として、HAKUを開発したといいます。ドリンクの取り出し口以外、一切の意匠やディスプレイなどを廃することで、さまざまな空間に溶け込むように置ける“ノイズのない自販機”になっているのです。

ナニコレ!?「取り出し口だけ」の自動販売機があった! 完全真...の画像はこちら >>

ウーブンシティの住居エリアの一角に設けられた、ダイドードリンコの自販機コーナー。奥に「HAKU」が見える(画像:ダイドードリンコ)

 実際にHAKUでドリンクを買う際は、スマホで専用のQRを読み取ることが必要です。するとスマホに「デジタル自販機」が表示され、商品選択と決済が行えるようになっています。最初こそ、どんなドリンクが買えるのか、スマホに表示されるまで不安も感じますが、一度使ってしまえば、その後は抵抗なく使えそうだと思いました。商品選択から支払いまで、非接触で済む点も時代に合っていると感じます。

 ダイドードリンコは、国内の売り上げの約8割が自動販売機によるもので、自販機には並々ならぬこだわりと愛着を持っているとのこと。ブランドメッセージである「こころとからだに、おいしいものを。」の通り、単にドリンクを売るための機械ではなく、それ以上のプラスアルファを届ける“店舗”のようなものとして、自動販売機のことを考えているといいます。

 そこで生まれた新発想の自動販売機がHAKUだったのですが、まず試したかったのは「今まで置けなかった場所にも置けるか」だったそうです。

HAKUはオフィスの受付周辺やショールームなどに置くことを想定しており、不特定多数の人ではなく、どちらかというとその場所によく通う人を想定した自動販売機なのだといいます。

 また、HAKUは外観の色や柄、文字などを自由にカスタマイズすることで、逆に“目立たせる”ことも可能です。通行する人に向けた、インパクトのある広告を全面に表示するなど、さまざまな使い方ができるのも、HAKUの特徴といえるでしょう。ダイドードリンコは、今後もウーブンシティでフィードバックを集め、開発を進めていきたい考えです。

 すでに「Kakezan Invention Hub」に置かれたHAKUには、実際に使った人々が感想を書き込んだ付箋がペタペタと貼られていました。なかには「何が売っているかくらいは、ひと目でわかった方がいいかな」といった意見もありましたが、おおむねHAKUは好感触の模様です。この“カケザン”が自販機をどのように進化させていくのか、今後も期待したいところです。

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