「迅速建造」のはずが…ベース艦に構造上の問題?

 2025年12月19日、アメリカ海軍のジョン・フィーラン長官は、11月19日に建造計画の中止を発表した「コンステレーション級フリゲート」に代わる新たな水上戦闘艦に、アメリカ沿岸警備隊が運用するレジェンド級カッター(警備艇)の設計に基づく水上戦闘艦(フリゲート)の建造を指示したことを明らかにしました。

【写真】これで大丈夫…? 新型フリゲートの「ベース艇」「完成イメージ」

 レジェンド級カッター(全長127.4m、基準排水量3206トン)は1番艦の艦名からバーソルフ級とも呼ばれます。

フリゲートに分類される日本の海上自衛隊が運用するもがみ型護衛艦(同133m、3900トン)よりやや小さい程度で、警備艇ベースといえど、諸外国海軍の運用しているフリゲートに比べて極端に小さいというわけではありません。

 フィーラン長官は11月25日に、コンステレーション級フリゲートの建造計画中止を発表した際に、コンステレーション級に代わるフリゲートについて、「迅速に建造できる」ことを重視する考えを示していました。レジェンド級の設計は沿岸警備隊とノースロップ・グラマンなどのアメリカ企業が担当。建造もアメリカの造船企業、ハンティントン・インガルスのバスカグーラ造船所で行われています。

 中止されたコンステレーション級はイタリアの造船企業であるフィンカンティエリの設計案を採用していました。このため、純粋なアメリカ企業のみで設計から建造までをまかなえそうなレジェンド級をベースとする設計案の採用は、フィーラン長官が言うところの「迅速」とも、アメリカ造船業界の復活を掲げるドナルド・トランプ大統領の政策とも合致しているように見えるかもしれません。

 しかし、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はいくつかの点で、早期の戦力化は難しいのではないか感じました。

 レジェンド級はモノハル(単胴)船体で鋼鉄を多用する、オーソドックスな水上艦艇です。このためアルムニウム合金を船体に多用したLCS(沿海域戦闘艦)のフリーダム級や、トリマラン(三胴船)船体のインディペンデンス級に比べれば不具合が発生しにくいと思えるのですが、初期に建造された1番艦と2番艦には深刻な構造疲労が認められ、その不具合を修正したはずの3番艦「ストラットン」が就役直前に行った検査では、腐食や亀裂、孔食が発見され、長期間のドック入りを余儀なくされています。

元「警備艇」では軍艦の任務に耐えられない?

 アメリカ沿岸警備隊のカッターは、有事の際にはアメリカ海軍の指揮下で運用されるため、他国の沿岸警備隊が運用している警備艇や巡視船に比べれば頑丈に作られています。このため、レジェンド級と交代してアメリカ沿岸警備隊を退いたハミルトン級カッターは、1960年代後半から70年代に建造された老艦ですが、フィリピンやスリランカ、ナイジェリアなどで軍艦として第二の人生を送っています。

 筆者は2019年にシンガポールで開催された海洋防衛装備展示会「IMDEX ASIA 2019」で、フィリピン海軍のフリゲート(後に哨戒艦に艦種変更)「グレゴリオ・デル・ピラール」として第二の人生を送っているハミルトン級カッター「ハミルトン」を取材する機会を得ました。

 フィリピン海軍は同艦を含めて3隻のハミルトン級カッターを取得し、デル・ピラール級フリゲートとして再就役させています。フィリピン海軍は当初、同級に対艦ミサイル「ハープーン」の追加装備を計画していましたが、実現することなく終わっています。

 なぜハープーンの追加装備が行われないのかを、フィリピン海軍の担当者に尋ねてみたところ、「最大の理由は予算不足だが、元がカッターで、本格的な軍艦に比べれば船体強度が低いデル・ピラール級では、ハープーンの運用には不安があることも、計画が実現していない大きな理由だ」と述べていました。

 アメリカがレジェンド級の設計をそのまま新型フリゲートに流用するとは思えませんが、設計変更に伴って生じるコストと時間が、フィーラン長官の言う「迅速」な建造の障害になり得るのではないかと筆者は思います。

カギを握りそうな「ミッションパッケージ」

 フィーラン長官は新型フリゲートが、ミサイルのVLS(垂直発射装置)を搭載せず、代わりに任務に最適化したミッションパッケージを載せ替える艦になるとも述べています。

アメリカの新型フリゲート「すぐ造れます!」←ホントに大丈夫?...の画像はこちら >>

コンステレーション級のベース艦となったイタリア海軍向けのカルロ・ベルガミーニ級フリゲート(画像:アメリカ海軍)

 それが具体的にどのようなものになるかはわかりませんが、現状ではミサイル発射装置や各種無人機などをコンテナに収容したものが、艦艇に搭載されるミッションパッケージと呼ばれています。

 デンマーク海軍のアブサロン級フリゲートのように、ミッションパッケージの載せ替えで支障が生じていない艦もありますし、ミッションパッケージのコンセプトも当時に比べて洗練されていますが、2000年代に設計されたLCSが失敗作だと見なされている大きな原因の一つは、ミッションパッケージの完成度の低さにあったと言われています。この点が、設計や船体構造以外での新型フリゲート成功のカギを握るかもしれません。

 アメリカ海軍は新型フリゲートや2025年12月23日に建造計画が発表された「トランプ級戦艦」などで「黄金艦隊」を構築する考えを示しています。その艦隊で「ワークホース」となる新型フリゲートの開発に失敗すれば、黄金艦隊もまた、画に描いた餅になる可能性があると筆者は思います。

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