こだわりの前頭部形状

 1994(平成6)年、大阪市の南西約40kmの位置に、関西国際空港が開港しました。この空港への鉄道アクセスを担ったのが、JR西日本と南海電鉄です。

【関空を目指す「鉄人28号」?】これが南海「ラピート」です(写真)

 南海は当初、関空特急の車両について、1992(平成4)年に特急「りんかん」用として製造した11000系電車のような車両を考えていました。しかし、南海は「企業イメージを牽引(けんいん)し、関西の新しい発展に寄与するシンボルとなる車両にしたい」と方針を転換。建築家の若林広幸氏に車両デザインを依頼しました。

 こうして生まれた新型車両の50000系には、ドイツ語で「速い」を意味する「ラピート(rapi:t)」の愛称が付けられました。

 50000系の開発に当たっては、「もてなしの心に満ちた空間でなくてはならない」という発想から、「アクセスロビー」をテーマに掲げ、外観は「ダンディ・粋・端正・信頼感・躍動感」を、内装は「エレガンス・洗練・美的・華やか・豊かさ・ゆとり」をキーワードとしました。

 外観は「レトロフューチャー」がコンセプト。最も特徴的なのが前面の独特な形状で、アニメなどで人気を博した架空の巨大ロボット「鉄人28号」にたとえられることもありました。また、全体のフォルムも第二次世界大戦前の大陸横断鉄道や、戦前に構想されていた「弾丸列車」(流線形機関車が客車を牽引する予定だった)のような力強さを追求して作られました。

 もっとも、初期はもっと鋭角な流線形デザインでしたが、「3次曲面ガラスを採用すると運転席からの距離感が狂う」「運行中に窓を開けてホームを確認するのに支障をきたす」といった指摘を受け、現在のデザインに落ち着きました。

 とはいえ、そのこだわりは客室部分の断面形状までも楕円形とするほど徹底されています。また、側窓も航空機と鉄道のイメージを融合させた楕円窓を採用しています。側窓が楕円窓ですべて統一された鉄道車両は、2026年現在でも他に例がありません。

あえてハイテク感を抑えて、重量感と躍動感が強調していました。

 さらに、濃紺に近い外部塗装の「ラピートブルー」も、鉄道車両では珍しい雲母入り塗料です。海上空港の関空に合わせて空と海をイメージし、休車となっていた車両に実際にテストカラーを塗装して、イメージに近い色合いを作っていきました。

「もてなし」を追求したインテリア

 車内は、スーパーシートとレギュラーシートの2クラス。スーパーシートは6両編成のうち5・6号車で、6号車にはサービスカウンターもあります。登場当初はアテンダントが乗務し、飲料サービスを行っていました(その後セルフサービスに移行したものの、盗難多発により廃止)。

 座席は、スーパーシートは座席間隔1200mmの1+2列配置。座席は豹柄のモケット生地でインパクトがありました。また、肘掛けにはアールデコ調の飾りが装着され、座席の台座も楕円形となっているなど、凝ったデザインでした。

 ただし、テーブルはインアームテーブルのみで、また、座席間隔が広い一方で、フットレストやレッグレストがないなど、上級クラスとしては不思議な座席でした。とはいえ、これは乗車時間が短いことも関係しているようで、フットレストなどがないことで、スーツケースなどを床に置きやすいなどの利点もありました。

 ちなみにレギュラーシートは2+2列配置で、座席間隔1030mmと広めでした。

インアームテーブル装備のみなのは、スーパーシートと同じ仕様でした。

 また前述の“もてなし”の思想を具現化すべく、大阪シティエアターミナル(なんばOCAT)と同様の搭乗手続きに対応した荷物室を、難波駅と50000系の4号車に設けられていました。航空便のチェックインを鉄道駅でできるという画期的なサービスでしたが、2001(平成13)年のアメリカ同時多発テロ発生に伴うセキュリティ強化の影響でサービスは終了。以降、荷物室は使われていません。

「ラピート」はいつまで走りそう?

 こうして開発された50000系は、1994年9月4日に特急「ラピート」として営業運転を開始しました。列車は、難波~関西空港間を29分で結ぶ速達型の「ラピートα」と、停車駅の多い「ラピートβ」の組み合わせで運行されました。

「ラピート」は当初、斬新なデザインと値段の安さで、ライバルのJR関空特急「はるか」を上回る人気を誇りました。しかし、京都や新大阪に直通する「はるか」が徐々に人気を上げていき、「ラピート」は途中停車駅が多いβの運行が次第に増えていきました。

 現在まで、南海50000系は基本的に空港特急のみで運用されています。2004(平成16)年からはラッピング編成企画も始まり、バリエーションは2026年現在までに16種類に達しています。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は、スイスの「モントルー・オーベルラン・ベルノワ鉄道」のコラボした「MOBラピート」を見たことがありますが、「オリエント急行」のような格調高い雰囲気がよく似合っていると感じました。

 2015(平成27)年にはリニューアルが実施。

座席がスーパーシート・レギュラーシートとも交換され、枕と背面テーブルが付いたものになりました。筆者としては、座り心地はこちらの座席の方が良いと感じます。また、床をカーペット敷きに変更。照明を電球色LEDに交換したほか、制御装置の換装も行っています。

 南海は2031年に「なにわ筋線」の開通を計画しており、梅田や新大阪まで空港特急が直通可能となります。恐らくは、そこで新型の関空特急が誕生するのでしょう。それまでは「ラピート」の活躍が見られると思います。

 登場から30年以上が経過した50000系ですが、斬新なデザインは今も古さを感じさせず、外国人や子どもにも大人気です。今後も活躍に注目していきたいものです。

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