F-15戦闘機のなかでも、改修が施された最新版が配備されている航空自衛隊の那覇基地。「国防の最前線」に配備されているその機体には、ある「覚悟」が込められています。

同基地司令とF-15パイロットに話を聞きました。

空自の主力機F-15J、実は2種類が配備中

 今年2016年1月31日、航空自衛隊は南西地域の防空態勢強化のため、那覇基地に所在する第204飛行隊に加え第304飛行隊を築城基地(福岡県)から移動させ、新生「第9航空団」をスタートさせました。この両飛行隊に配備された機種はF-15J「イーグル」およそ40機です。

 航空自衛隊はその主力機として、F-15Jを全体で201機保有しており、約半数の「非近代化機(通称:F-15SJ)」と約半数の「近代化改修機(通称:F-15MJ)」の2機種に分類することができます。両者は飛行性能については同等ですが、まったく別の機種といえるほど大きな能力差があります。

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近代化改修型のF-15J。見た目は非近代化機とほとんど変らないが、戦闘能力は大幅に向上。また尾翼の第304飛行隊所属を表す部隊章がロービジ化されている(関 賢太郎撮影)。

 より新しいF-15MJは、従来のものから更新されたレーダーやセントラルコンピューターを搭載しており、さらにAWACS(早期警戒管制機)や地上のレーダーの情報を自機のコクピット内で共有可能な「リンク16デジタルネットワーク」への対応など、電子機器が強化されています。さらに、射程が長く射出後にミサイルが自律して標的を追尾するAAM-4「99式空対空誘導弾」の装備能力も付加されており、戦闘能力は劇的に向上しました。

 一方で従来のF-15SJは、性能面でかなり厳しくなりつつあります。F-15SJは1970年代にアメリカ空軍で製造されたタイプそのままで、レーダーやセントラルコンピューターも、ほぼ40年間、大きな改修をされることなく使われ続けているものです。

またミサイルも自律誘導ができず、発射から命中までF-15がロックオンし続けなくてはならないAIM-7F/M「スパロー」を使わざるをえず、AAM-4のような高性能ミサイルで先手を取ることができるF-15MJと比べると大きく見劣りします。

 F-15SJは今後、大きな性能向上が計画されておらず、近代化著しい諸外国の空軍のなかにあって、性能面で大きな不利を強いられるであろうことはほぼ必定となっています。およそ半数を占めるF-15SJを今後どうするのか、航空自衛隊は大きな課題を抱えています。

戦闘機の基本は変わらず SJも「使い方を工夫」

 航空自衛隊におけるスクランブルのおよそ半数を支える那覇基地第9航空団には、F-15SJとF-15MJ両機種が混在して配備されています。第304飛行隊の飛行班長、原田祐二3等空佐はF-15MJについて「具体的な性能などについては答えることができない」としたうえで、従来のF-15SJとの違いについて以下のように話します。

「最新の戦闘機は昔に比べると複雑になりましたが、航空機の性能がいくら変わっても基本的な部分は変わらないと心がけて訓練しています。ですから飛行機がアップグレードしてシステムが一新されたとしても、戦闘機の根本が違ってくるかというと、私はそうではないと考えております。パイロットとしての能力は重要であり続けると思いますので、そのために我々は日々訓練に精進しております」(第304飛行隊 原田3佐)

「最前線」那覇基地の最新版F-15戦闘機、そこに示された覚悟とは

訓練に発進するため対Gスーツを装着するF-15MJのパイロット。どんなに機体がアップグレードされても、彼ら無くして戦闘機は動かない(関 賢太郎撮影)。

 また、第9航空団司令の川波清明空将補は以下のように話します。

「F-15非近代化機とF-15近代化改修機について、任務上の違いは基本的にないでしょう。F-15非近代化機も使い方を工夫してやっていくことになると思います。

いまは混在していますけれど、将来的にはF-15近代化機に統一されると思っています」(第9航空団司令 川波空将補)

 2016年11月現在、F-15MJは那覇の第9航空団のほか、千歳基地の第2航空団、小松基地の第6航空団に配備されていますが、いずれもF-15SJとの混在です。ひとつの飛行隊がおよそ20機前後であること、そして航空自衛隊におけるF-15MJの総数が約半数であることを考えると、川波司令の言葉どおり、もし近く第9航空団がF-15MJに統一された場合、当分は第9航空団が日本唯一のF-15MJだけで編成された最精鋭部隊になることを意味します。

 第9航空団がカバーする沖縄県とその周辺の南西地域は中国に対する「最前線」であり、最も高性能な戦闘機を集中配備するのも、中国に対する備えという面が大きいものと推測されます。

エンブレムに表れた、最前線を務める「覚悟」

 第9航空団を構成する第204飛行隊所属の機体には、尾翼に「ハクトウワシ」のエンブレムが、第304飛行隊所属機には英彦山(福岡県)に棲むとされる「天狗」が描かれています。川波司令は、第9航空団が2016年1月末をもって新たにスタートするにあたり、両飛行隊所属機に描かれる尾翼のエンブレムを「ハイビジ」から「ロービジ」に塗り替えることを決めました。

「ハイビジ」とは通常のカラフルで派手な塗装を、「ロービジ」とは灰色の濃淡のみで描かれた目立たない迷彩塗装を意味します。とはいえ、小さなエンブレムをロービジ化したことによって、果たしてどれほどの迷彩効果があるのでしょうか。

「ロービジ化したことによってF-15が見えにくくなったかというと、そういうことはないでしょう。ハイビジからあえて実戦的なロービジにしたことによって、今後いっそう気持ちをひきしめ任務にあたるという我々の覚悟を示す狙いがあります」(第9航空団司令 川波空将補)

 右肩上がりで増加する対中国機のスクランブルは今後、いっそう厳しい状況になるものと推測されます。第9航空団のパイロットらはF-15SJ、F-15MJ、ふたつの「イーグル」の性能を100%引き出すために厳しい訓練を行い、そして今日も日本の領空を守る最前線においていつでもスクランブルできるよう、24時間の待機任務を続けています。

【画像】沖縄の空にF-15が飛ぶ那覇基地・第9航空団のマーク

「最前線」那覇基地の最新版F-15戦闘機、そこに示された覚悟とは

那覇基地に所在する第9航空団は、F-15J戦闘機による防空任務、T-4練習機による支援飛行などを行っている(画像出典:航空自衛隊)。
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