南海で唯一の「生き残り」

 世界遺産・高野山(和歌山県)への旅行者をターゲットに南海電気鉄道高野線の橋本(和歌山県橋本市)―極楽橋(同県高野町)間を結ぶ観光列車「天空」が2026年3月20日、定期運行を終えます。大阪市中心部の難波駅と極楽橋駅をつなぐ4月24日運行開始の観光列車「GRAN 天空」にバトンタッチするためです。

【料金跳ね上がる!?】これが「新型の観光列車」GRAN天空です(写真)

 南海で旧型電車2200系の唯一の生き残りとなり、2026年にベース車両の製造から56年がたつ「天空」の命運について、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)が直撃した南海幹部は「老兵は死なず、ただ消え去るのみ」ではない展開を明かしました。

 真言宗総本山の金剛峯寺がある高野山は2004年、熊野三山などとともに「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界遺産に登録。旅行ガイドブック「ミシュラン・グリーンガイド」の日本版では「わざわざ訪れる価値あり」を示す三つ星を獲得しているだけに、インバウンド(訪日客)が大勢押し寄せています。

 高野山への重要な移動手段となっているのが、前身の阪堺鉄道が1885年創業と現存する国内私鉄で最古の南海です。JR西日本和歌山線と接続する橋本と、高野山ケーブルカーの乗換駅となっている極楽橋の間は標高差が443mある山岳区間となっており、列車が1000m進んだときに50mの標高差がある50パーミルの急勾配や、半径約100mの急カーブもそびえます。

「天空」の2200系は、1970年に東急車両製造(現・総合車両製作所)大阪工場(大阪府堺市、閉鎖済み)で製造された22000系の車体を更新した2両編成です。オリジナルの22000系は、平たんな区間から山岳区間まで自在に走れるように開発された1両あたり長さ17m超の電車で、「ズームカー」と呼ばれました。その名称は、広角から望遠まで画角を変えられるカメラのズームレンズなどが由来になったとされます。

 高野線の一部区間(通称:汐見橋線)と支線で走っていた残りの2200系は、2025年春で引退しており、南海で唯一の2200系となった「天空」に乗るために現地を訪れました。

16年余りで43万人が利用も…

 2009年7月に定期運行を始めた「天空」は、乗車券のほかに座席指定券(大人520円)の購入が必要な2両編成の2200系と、乗車券だけで利用できる一般車両の2両編成をつないでいます。

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南海「天空」の一般車両に使われている2000系(手前)(大塚圭一郎撮影)

 筆者が高校生の息子とともに極楽橋から橋本まで利用した際には「天空予約センター」に電話で申し込みました。予約できるのは乗車の10日前から前日までです。

極楽橋からの座席指定券を当日受け取るのに注意が必要なのは、極楽橋から乗る場合の受取場所が高野山ケーブルカーの高野山駅窓口で、「極楽橋駅では引き渡せない」(南海)ということです。しかも、引き渡し時間は高野山駅のケーブル発車時刻の40―10分前に限られます。

 座席指定券を入手して高野山ケーブルカーで高野山駅から極楽橋駅へ下ると、高野線の5番線に「天空」、4番線に特急「こうや」が並んでいました。後者の車両は先頭部が流線形になった1983年製の30000系です。

「天空」の指定席車両の外観は森林をイメージした濃緑色を基調に、高野山の根本大塔の朱色をあしらっています。2両に計76席あり、車両の中央部には横長の窓を設け、途中で谷側を眺めることができる「ワンビュー座席」を2列配置しています。

 前方の座席の利用者が視界を遮らないように、後方の座席は一段高い位置にあります。車端部には4人掛けの「コンパートメント座席」を用意し、橋本側の車両の後方には走行中でも外気に触れることができる「展望デッキ」を設置しています。

 出発すると、車内放送で標高535mの極楽橋駅から「24個のトンネルと、急勾配、急カーブの山の中を下り、標高92mの橋本駅まで帰ります」と案内がありました。途中で九度山(九度山町)、学文路(かむろ。橋本市)の両駅に停車します。

 南海によると、「天空」は定期運行開始から2025年8月までの16年余りで累計約43万人が利用しました。

ただ、筆者が乗った指定席車両は計4人の乗客と、アテンダント1人だけでほとんど空気を運んでいました。

 これに対し、橋本側に連結された2000系の一般車両(2両編成)は、かなりの利用者がロングシートに腰かけていました。

 指定席車両は電話予約が必要だったり、座席指定券を受け取れる場所と時間が限られたりする手間もあり、利用者数では、運賃だけで手軽に乗れる一般車両に軍配が上がっているようです。ただ、今後は「天空」の定期運行終了に向け、“乗り納め”の利用が広がりそうです。

「輸送力が限られている」ので…

「天空」は「展望デッキ」で風を浴びながら高野山周辺の森林浴を楽しんだり、大きな窓に張り付いて車窓を一望できたりするのが魅力的です。しかし、乗車時間が40分程度にとどまるのは、やや物足りなく感じました。

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「天空」2200系に取り付けた「大阪 東急車輌 昭和45年」と記された銘板(大塚圭一郎撮影)

 一方、ステンレス製車両2000系を改造した「GRAN 天空」ならばより長く乗車できるものの、乗車に必要な料金は跳ね上がります。追加料金が最も小幅な1号車のリクライニング座席「リラックスシート」(24席)と、2号車の車窓が見やすいように工夫した座席を設けた「ワイドビューシート」(30席)でも難波―極楽橋間で大人1700円となります。これは同区間の運賃込みで2630円となり、特急「こうや」の1720円より910円も高くなります。

 筆者が話を聞いた南海幹部は、「GRAN 天空」導入の狙いを「訪日客の利用が多いため、現在より高い料金を取れる列車を入れることにしました」と説明しました。

 一方、定期運転を終える「天空」指定席車両の2200系は「旅行会社の貸し切りなどの団体専用列車としてしばらくは走り続けます」と打ち明けました。運行形態は「『天空』を2両だけで走らせることは考えておらず、他の車両と連結して不定期で運転する予定です」とし、筆者が「天空」のように2000系の2両編成とつなぐようなイメージなのかを尋ねると「そうですね」という回答でした。

 また、「こうや」の古参車両30000系については「今のところ引退予定はありません」と明言。原則として毎週水曜日、第2・4木曜日以外の日に1日2往復する「GRAN 天空」では「輸送力が限られている」ことから、30000系を含めた特急「こうや」の現行車両も併存させるということでした。

 世代交代が進む中でも、2026年で製造から56年となる2200系、43年となる30000系の“ベテラン選手”は、引き続き鉄路でいぶし銀の活躍を見せてくれそうです。

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