「フル規格にして!」の声ある山形新幹線は「平常運転」

 2026年1月下旬に「この冬で最強最長」と恐れられた寒波が襲った中で、筆者(大塚圭一郎:共同通信社経済部次長)は東京駅で山形新幹線の8時56分山形行き「つばさ」129号に乗り込みました。東北地方で雪による列車の運休や遅延が相次ぐ中での山形行きとなりました。

【これで“平常運転”かよ…!】E8系が定刻で走った“恐るべきドカ雪”(写真で見る)

 山形新幹線は2024年3月に新型車両E8系(7両編成)が登場し、先代車両E3系は25年末までに全て置き換えられました。山形市出身の工業デザイナー、奥山清行さんが代表を務める「KEN OKUYAMA DESIGN」が内外装デザインを監修したE8系は、車体の上半分を紫色(通称・おしどりパープル)、真ん中にオレンジ色(紅花イエロー)のラインをはさみ、下半分を白色(蔵王ビアンコ)で装飾しています。列車は東京と福島の間は、東北新幹線の仙台行き「やまびこ」129号のE5系(10両)と併結します。

 車内に入ると、山形県花のベニバナをイメージした色の座席が並ぶ普通車は明るい雰囲気です。可動式のヘッドレストが付いた座席は快適で、全席に設けた電源コンセントはひじかけ下の根元部分に取り付けることで充電コードが邪魔にならないように工夫されています。

 寒波の中でもJR東日本の運行情報は山形新幹線が「平常運転」だと表示しており、よく設計されたインテリアに心地よさも感じたものの、一抹の不安を抱えていました。

 というのも、山形県の吉村美栄子知事が会長を務める「奥羽新幹線建設促進同盟会」は、奥羽本線福島―新庄(山形県新庄市)間が最高速度130km/hにとどまる山形新幹線について「雨・風・雪等による運休・遅延も多く発生するなど、速達性や定時性・安定輸送の面で課題があります」と不満を漏らしているからです。

 促進同盟会は1992年に部分開業して日本初のミニ新幹線となった山形新幹線に代わり、時速200km以上で走るフル規格での「奥羽新幹線」(福島―秋田)の整備を国に求めています。

ところが寒波時の乗車体験を通じて、山形新幹線が雪にけっこう強いことを改めて認識しました。

「新幹線のみ運転いたします」

 首都圏では寒波襲来がひとごとのような晴れ空でしたが、宇都宮の少し先になると田畑が白銀で覆われていました。降り続く雪にひるむこともなく最高速度300km/hで運転し、E3系を25km/h上回る高速走行を見せつけました。乗り心地は極めて快適で、横揺れを打ち消す方向の力を発生することで横揺れを低減する「フルアクティブサスペンション」を全車両に導入したE8系の賜物です。

 次の郡山駅(福島県郡山市)では3分停車し、東京発秋田行き「こまち」E6系と新青森行き「はやぶさ」E5系の併結列車が追い抜いてから発車。名産品の桃のイラストに雪がまぶされて「白桃」のような色合いになったガスタンクが見えてくると、福島駅に滑り込みました。

 到着前に車掌は車内放送で「山形線(奥羽本線)では庭坂―米沢間、村山から新庄、新庄―院内間の在来線は運転を全て取りやめます。新幹線のみ運転いたします」と案内しました。郡山から福島にかけては晴天で、雪も地面を軽く覆っている程度だったため、「そこまでの雪なのか」とあっけにとられました。

 そんな感想が吹き飛んだのは、10時半に到着した福島で「やまびこ」から分割されて出発した後のことでした。

よく走り続けている!

 福島駅を出発した「つばさ」のE8系は高架の東北新幹線から分岐して左へ進み、同駅の地上ホームから延びている奥羽本線に合流するアプローチ線に入りました。現在はこのアプローチ線だけが使われていますが、東北新幹線の高架下をまたぐ上りアプローチ線が建設中です。

「ミニ新幹線」じゃ雪に弱い? 最強寒波を余裕で走り抜けたE8...の画像はこちら >>

福島市にある桃のイラストが描かれたガスタンク(大塚圭一郎撮影)

 現在は東京へ向かう山形新幹線はアプローチ線を通った後に東北新幹線の下り線と平面交差してから福島駅に入線しているため、ダイヤ設定が制約されたり、輸送障害が起きた際のダイヤ回復に時間を要したりしています。上りアプローチ線が2026年度末に供用開始後は、東京への山形新幹線も東北新幹線と平面交差をせずに福島駅へ進入できるようになるため、輸送の安定性向上が期待されています。

 奥羽本線の沿線風景が一変したのは、福島の2駅先の庭坂(福島市)からの山越え区間に入ってからです。阿武隈山地を望む丘陵地は真っ白で、追い打ちを掛けるように灰色の空から大粒の雪が降り続けています。

この先には福島と山形の県境付近には急勾配で、きついカーブもある難所の板谷峠が待ち受けています。

除雪が追いつかないから「絞り込む」

 想像を超えた積雪を目の当たりにし、「普通電車が運休しても不思議ではない」と考えを改めました。山形新幹線の始発運行前にラッセル車を走らせて除雪するだけでも手間がかかる上、普通電車を運行するにはそれぞれの駅の除雪作業が必要です。

「ミニ新幹線」じゃ雪に弱い? 最強寒波を余裕で走り抜けたE8系の“舞台裏” 地元の願いは「フル規格」
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JR山形駅の通路と、奥羽・羽越新幹線の実現を求める横断幕(大塚圭一郎撮影)

 JR東日本関係者は「ホームに積もった雪を取り除くには、運行の妨げになる線路に落とすことはできないため大変な作業になる」と打ち明けます。

 そこでJR東日本はマンパワーが限られる中で、庭坂―米沢間の運行対象を山形新幹線に絞り込むことで、普通電車だけ停車する駅の除雪作業を省く判断をしました。沿線住民の利便性を考慮すれば普通電車も走った方が望ましいものの、利用者が多い上に、運賃のほかに特急券も支払うため採算性も良い山形新幹線の安定輸送を最優先するというのは経営判断としては理にかなっています。

 さらに、積雪区間でもE8系の走行性能が優れていることも、普通電車に使う719系などに対するアドバンテージになっています。先頭車のフロントノーズの下部にあるスノープラウ(排雪板)がパウダースノーをはね飛ばすことができ、台車部には着雪防止用のヒーターを搭載しているからです。

 乗車中に床下から「ガシガシガシ」と雪が当たる音を立てながらも、E8系は晴天時と変わらないスピードで「よく走り続けられているものだ」と感心するほどの快走ぶりでした。定刻通りに滑り込んだ米沢では、留置線の719系の屋根も白く覆われていました。

 米沢以北でも降雪はあったものの、E8系は余裕しゃくしゃくと言わんばかりの落ち着いた走行ぶり。かみのやま温泉(山形県上山市)の手前では東北地方のマンションで最も高い41階建ての超高層マンション「スカイタワー41」が右手に出現し、遠くにそびえる蔵王連峰と競うような存在感を示していました。

須川と沿って駆けた後、山形駅で唯一頭端式になった1番線へ定刻の11時38分に着きました。

「奥羽新幹線」構想にJR東日本会長の答えは…

 寒波襲来にもかかわらず定刻通り運行した山形新幹線ですが、奥羽新幹線建設促進同盟会は2014―19年の走行100万キロ当たりの運休・遅延などの輸送障害件数が19.32件と、JR東日本のフル規格新幹線(東北・上越・北陸新幹線)の0.64件の約30倍だったと課題を指摘します。

「ミニ新幹線」じゃ雪に弱い? 最強寒波を余裕で走り抜けたE8系の“舞台裏” 地元の願いは「フル規格」
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JR東日本の深澤祐二会長(大塚圭一郎撮影)

 その上で「大規模災害等に備えた国土全体の強靭化の観点からも、全国におけるフル規格新幹線ネットワーク整備の必要性は高まってきている」とし、1973年に全国新幹線鉄道整備法に基づく基本計画路線となった奥羽新幹線の整備を求めています。

 山形駅の通路にも天井の下に「とまらない 想いを乗せて 福島~米沢間トンネル整備の早期事業化! 奥羽・羽越新幹線の早期実現!」と記した横断幕が掲げられていました。
米沢トンネル(仮称、約23km)は、板谷峠がある山形新幹線の難所をトンネルで置き換える構想です。実現すれば福島―米沢間の所要時間が10分短縮され、悪天候時の運休リスクも軽減すると見込まれています。

 JR東日本の深澤祐二会長は2026年1月、筆者が奥羽新幹線構想について尋ねると「山形県と今話しているのは、山越えの山形新幹線は自然災害もある中で米沢トンネルを掘り、時間も短縮して、かつ安全レベルも上げるためにどういうことをするのが良いのかという話です。われわれとしてはそこが一番、まずやるべきことだと思います」と語り、米沢トンネルを優先すべきだとの見解を示しました。

 筆者も山形新幹線が雪の中でも奮闘して走った今回の経験を踏まえると、奥羽新幹線に置き換えて水泡に帰すのは惜しいインフラだとの思いを強くしました。

 着工から約19年の工期と約2300億円の事業費が見込まれる米沢トンネルの実現への道のりも平たんとは言えませんが、山形新幹線の高速化と輸送障害の抑制に資するだけに優先課題なのは間違いありません。

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