海上自衛隊の下総航空基地にて2017年1月6日、新年最初の訓練飛行が行われ、P-3C哨戒機3機が房総沖へと飛び立ちました。海上自衛隊のP-3C搭乗員は全員、ここ下総教育航空群で訓練を受け、全国の各基地へ配属されます。

新年初の訓練飛行は下総教育航空群司令の訓示から

「我が国を取り巻く安全保障環境は、領土や主権、経済権益などをめぐり、純然たる平時でも有事でもない、いわゆる“グレーゾーン”の事態が増加・長期化する傾向にある。また周辺国における軍事力の近代化による強化などにより、安全保障上の課題や不安定要因がより深刻化している。これに加えて、これまで継続してきたソマリア沖アデン湾における海賊対処行動など、海上自衛隊の活動の重要性はますます高まってきている」

 2017年1月6日(金)、海上自衛隊の下総(しもふさ)航空基地において「2017年初訓練飛行」が実施され、下総教育航空群司令、浅岡哲史1等海佐はその冒頭において以上のように訓示しました。

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下総教育航空群の年初訓練飛行にて。撮影者(関 賢太郎)の搭乗機含む3機のP-3Cによる編隊飛行(2017年1月6日、関 賢太郎撮影)。

「初訓練飛行」とは、365日継続されている任務とは別の、2017年最初の訓練飛行であり、今回は浅岡群司令の訓示に引き続き、下総基地に配備されているP-3C「オライオン」哨戒機のうち3機が、房総半島沖にて編隊飛行を実施しました。

海自の「目」、運用は11人がかり

 これまでロッキード(現ロッキード・マーチン)P-3Cは、派生型(OP-3C、EP-3、UP-3C、UP-3D)含め107機あまりが海上自衛隊に調達されました。そのほとんどが川崎重工においてライセンス生産された、海上自衛隊の主力哨戒機です。北から八戸航空基地(青森県)、厚木航空基地(神奈川県)、岩国航空基地(山口県)、鹿屋航空基地(鹿児島県)、那覇航空基地(沖縄県)の5つの基地に同機が実戦配備されています。

 P-3Cの乗員は機の操縦を担当する正・副操縦士が各1名、操縦士を補佐する機上整備員が2名、作戦の立案を行い、ときに機長ともなる戦術航空士が1名、ナビゲーションを行う航法通信員が1名、水中の音で捜索する音響対潜員が2名、レーダーや赤外線といったセンサーの操作を行う非音響対潜員が1名、電子機器の整備を行なう機上電子整備員が1名、魚雷やミサイル、ソノブイを扱う武器員が1名の計11名からなり、全員がひとつのチームとなって活動します。

海自の「目」を育む下総航空基地、2017年初訓練飛行 P-3C搭乗員はここから全国へ

P-3Cの航続時間は10時間、一度の任務における飛行時間も長い。機体後部にはトイレや休憩室があり、コーヒー保温機やお弁当を温める設備も(2017年1月6日、関 賢太郎撮影)。

 下総教育航空群は、これらP-3Cの搭乗員を養成するための部隊として、ここ下総航空基地に所在します。海上自衛隊のすべてのP-3C搭乗員は、必ず下総教育航空群において訓練を受けてから、各実戦部隊へ巣立ってゆくことになります。したがって下総教育航空群は実戦部隊ではありませんが、その責務は同等以上に重要といえるでしょう。

担う任務はシステム運用の「根幹」

 P-3Cはすでに、新鋭哨戒機である川崎重工P-1への更新が始まっています。しかしそのペースは年に数機であり、この先も当分はP-3Cが主力としてあり続けることになります。下総教育航空群にP-1の配備はまだありませんが、広報担当者によると「飛行機自体がなくとも教育を行うことは可能」とのことで、すでに整備員についてはP-1に関する教育も始まっているそうです。

 P-1はターボファンエンジンが採用され、その機体はP-3Cよりもひと回り大きくなり、同時にセンサー類やシステムが一新され、P-3Cより高い能力が期待できます。とはいえ、どんなにシステムが高度化してもそれを運用するのは人間である以上、乗員を育成する下総教育航空群の重要度は計り知れないほど大きなものです。

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紅白のナショナルカラーに塗装されたP-1初号機。同機は2017年1月現在、テストベッド機「UP-1」として、P-1搭載機器の評価試験に用いられている(関 賢太郎撮影)。

 浅岡群司令はこのたび行われた「2017年初訓練飛行」の訓示において、さらに以下のように述べました。

「下総教育航空群に与えられた任務である海上航空の将来を担う固定翼航空機搭乗員の育成についてはもちろんのことであるが、国民の命と平和な暮らしを守るという、本来の根幹となる目的を忘れてはならない。

下総教育航空群のひとりひとりが、健全な精神と強靭な肉体を持ち、状況に的確かつ柔軟に対処できるよう、プロフェッショナルを目指すための日々の“地道な努力”を継続してもらいたい」

 我々、一般国民が当たり前のように平和を享受している現在は、彼ら彼女らP-3C搭乗員、そしてほかの自衛隊員らの「地道な努力」という投資による、その配当によって実現されたものであるといえるのではないでしょうか。

【写真】P-3Cのフライトステーション(コックピット)

海自の「目」を育む下総航空基地、2017年初訓練飛行 P-3C搭乗員はここから全国へ

左手の窓外に、編隊飛行中のP-3C哨戒機が見える(2017年1月6日、関 賢太郎撮影)。

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