駅構内の広告媒体として広まっているデジタルサイネージ(電子看板)。これを活用し、一夜にして駅に不思議な空間が作られました。
東京メトロ丸ノ内線新宿駅の東改札口付近には、地下通路に連続して立つ四角い柱9本の35面に、デジタルサイネージ(電子看板)が設置されています。2017年2月13日(月)未明、この日より表示される広告への変更作業が行われました。
丸ノ内線新宿駅の東改札口付近の柱に設置されているデジタルサイネージ(2017年2月、中島洋平撮影)。昨今、さまざまな場所で見かけるようになったデジタルサイネージですが、駅におけるその広告の変更はふだん、終電後の夜間に行われています。この日は資生堂の若年層向け化粧品ブランド、「マジョリカ マジョルカ」の広告空間がつくられていました。
東京メトロの交通広告代理店であるメトロ アド エージェンシー 営業推進部の井上達也部長によると、この場所(東京メトロ新宿駅 東口改札 定期券売場前コンコース)は複数クライアントの映像をテレビCMのように順番に流すのではなく、1社の広告を展開するものとして使用しているそうです。「JR線との人の流れが交わる注目度の高い場所で、空間全体を使った表現ができます」と井上部長は話します。
とはいえ、そもそもデジタルサイネージの映像の変更自体は、ネットワークタイプでサーバーから遠隔で配信して切り替えるだけといいます。またそれが、デジタルサイネージの長所のひとつのはずです。
前述のように、デジタルサイネージの映像そのものは配信サーバーで切り替えることができます。しかし、映像のみならずその周囲に装飾を施すことで「空間全体を使った表現」を実現し、広告のコンセプト性を高めることができるといいます。
資生堂 宣伝・デザイン部の矢村智明さんによると、今回の「マジョリカ マジョルカ」の広告は「日常の生活に突如現れる不思議な空間」がコンセプトといいます。3DCGで作成した商品の映像を2面に分けて再生させることで奥行きを演出、柱を斜めから見ると、「マジョリカ マジョルカ」の各種アイテムが画面のなかでぷかぷかと浮遊しているように見えるという内容です。
また一定の間隔で、ブランドシンボルである鳥が35画面からなる「映像空間」を飛び回ります。そののち、ある画面に「手紙」が現れ、その手紙が開くと、占いなどができる特設ウェブサイトにつながるQRコードが表示されるという仕掛けがあります。「その場に立ち寄った人だけが楽しめる」(井上部長)ことを重視したそうです。
不特定多数から「1対1」へ センサーやAR融合で進化資生堂の矢村さんは今回のデジタルサイネージによる広告展開について、テレビやインターネットではなく「見る人が日常の空間で『不思議な体験』に出会うことに意義がある」といいます。メトロ アド エージェンシーの井上部長も、本来は不特定多数に向けた広告であるものの、「見た人だけが体験できる1対1のコミュニケーションを可能にするという点で、より多様な展開ができる」と話します。
井上部長によると、紙のポスターや看板などは減少している一方で、デジタルサイネージの売り上げは増加しているそうです。その要因として、「単純なところでは、動いているものは人の目に留まりやすいことが挙げられますが、これまでにない表現を追求するうえでも、可能性を秘めているからでしょう」といいます。
デジタルサイネージ広告は映像だけでなく、人の動きに反応するセンサーや、AR(拡張現実)などを駆使したものも登場しているそうです。「表現の幅は、もっと広がる」(井上部長)というデジタルサイネージ広告、今後も進化していきそうです。
【動画】実際に動く様子は…?