青函トンネル建設に関わった人々が「第2青函トンネル」を構想。総工費3900億円、建設期間は最低15年と具体的な数字も上がったその計画、どのような目的、内容なのでしょうか。

構想を発表した「鉄道路線強化検討会」を取材しました。

北海道新幹線を本来の性能で走らせたい

 2017年元日の北海道新聞で、第2青函トンネルの建設構想が報じられました。総工費は3900億円、建設期間は最低15年と具体的な数字も上がりました。

 報道によると、第2青函トンネルの構想を検討した人々は大手建設会社、民間コンサルタントなどが参加した「鉄道路線強化検討会」と紹介されていました。そう聞くと、建設会社が仕事を取るために考え出した……と思われるかもしれません。しかし、正確には現役の建設会社社員などではありません。構成メンバーの多くは、現在の青函トンネルの建設にかかわった人々でした。建設会社、日本鉄道建設公団、国鉄のOBとのことです。

 取材に応じてくださった鉄道路線強化検討会の方は、青函トンネル建設時代、竜飛建設所の副所長を務めていた吉川大三さんです。現在は大手建設会社「安藤・間」の顧問です。「現役時代だったら部下に頼むような細かい設計・見積もり作業を、全部自分たちでやりました」とのこと。青函トンネルで培った「先進ボーリング」や「地盤注入」などの技術を継承したい、また、その後に開発された最新の技術を生活かしたいという気持ちもあったそうです。

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青函トンネルは、新幹線も在来線時代の速度のままだ(画像:鉄道路線強化検討会)。

 第2青函トンネル構想のきっかけは、現在の青函トンネルで北海道新幹線の速度が140km/hに抑えられたことです。青函トンネルは整備新幹線計画の規格で造られたため、本来は260km/hで走行できます。しかし、在来線の貨物列車と共用する区間では、すれ違い走行時の安全性の観点から、新幹線の速度が制限されました。140km/hは、かつて青函トンネルを走っていた在来線特急「白鳥」「スーパー白鳥」と同じです。つまり、青函トンネル内に関しては、新幹線になっても速度は変わっていません。

 現在、国は新幹線の速度問題を解決するために、「時間帯区分案」「すれ違い時減速システムの開発」「貨物専用新幹線車両導入」の3案を検討しています。しかし、それぞれについて「運行本数が制限される」「完全な速度向上にはならない」「安全性や技術面で課題が多すぎる」という問題があります。

 新幹線を「高速」で「安全」に運行し、貨物の安定輸送にも貢献する。そのためには新トンネルを造り、新幹線と貨物を分離するしかない――これが第2青函トンネルの構想のきっかけとなりました。

貨物専用の単線、7か所の行き違い設備

 総工費の約3900億円は青函トンネルの約7500億円に比べるとかなり下がっています。新しい工法を使ったわけではなく、在来方式の「NATM(ナトム)工法」を採用したとのことです。

トンネルの壁に無数のロックボルトを打ち込み、コンクリートを流し込んで周囲を固める工法です。

 トンネルブロックを沈めて連結し水を抜く「沈埋工法」は、津軽海峡の140mにおよぶ水深と西から東に向かう速い潮流から現在の技術では難しく、可能になったとしても、作業で海底を濁らせてしまい、漁業への影響が大きいため難しいとのことでした。

青函トンネル建設OBが作った第2青函トンネル「ホンキの見積書」 その内容は
竜飛工事基地の平面図と断面図。作業坑が本坑に合流し、海底部では本坑のみ建設。避難誘導路などは現在の青函トンネルの作業坑に接続して流用(画像:鉄道路線強化検討会)。

 トンネルの用途は「新幹線専用単線」「貨物専用複線」「貨物専用単線」の3案を比較しました。このうち、トンネル断面が最も小さく建設費が安い「貨物専用単線」を採用しました。線路が1本しかない単線でも、すれ違い施設を7か所設置します。本州側と北海道側のアプローチ区間に1か所ずつ。第2青函トンネル内に5か所です。この設備があれば、貨物列車の現在の運行本数を十分確保できるとのことです。しかし、この単線案は新幹線の高速化、貨物輸送確保のための必要最小限の投資と考えたもので、できれば複線案が望ましいところです。

 建設方法も工夫があります。現在の青函トンネルは先進導坑、作業坑、本坑の3本のトンネルを造りました。しかし、第2青函トンネルは竜飛(青森)側と吉岡(北海道)側の工事基地に斜坑と作業坑などを造るだけで、海底部に作業坑を造りません。作業坑は土砂の排出や資材の搬入に必要ですが、本坑の後ろをそのまま作業坑として掘り進みます。トンネルが少ないぶん、コストは下がります。しかし作業効率が悪くなるため、建設期間は長くなります。総工費3900億円と最低15年の工期は、この工法から算出された数字です。

貨物列車の増便やカーフェリーのような運行も可能

 第2青函トンネルで貨物列車を分離すると、新幹線の東京~新函館北斗間は現在の4時間2分から最速で3時間44分になります。東京~札幌間は最速5時間1分から4時間43分に短縮。将来、350km/hで走行できた場合は3時間57分になります。これは東京~広島間の新幹線の所要時間とほぼ同じです。

 東京~札幌間の市場占有率は飛行機が97%の912万人、JRが2%の17万人。

東京~広島間は飛行機が34%の188万人、新幹線が65%の358万人です(国土交通省 平成25年度 旅客地域流動統計から算出)。総数は東京~札幌間のほうが多いため、新幹線の利用はかなり増えるでしょう。そのとき、新幹線も増発が必要です。

青函トンネル建設OBが作った第2青函トンネル「ホンキの見積書」 その内容は
鉄道路線強化検討会が制作した第2青函トンネルパンフレット。このほかに四国新幹線なども検討しているという(画像:鉄道路線強化検討会)。

 なお、新千歳空港は冬期の天候による運休率が1カ月あたり5%、84便ほどあります(北海道交通政策審議会 平成17年度月別道内空港の就航率より算出)。終日欠航という日も毎年数日あります。新幹線の札幌開業によって、東京~札幌間は安定的な交通手段が確保でき、北海道の発展に寄与します。

 貨物列車は、2010(平成22)年の実績によると、本州~北海道間で約190万トンを輸送しています。これは航空・船舶も含めた約450万トンの約42%にあたります。貨物専用の第2青函トンネルを開通させると、将来の増発にも対応可能になります。かつて東京~札幌間で乗用車と乗客をのせて運行した「カートレイン北海道」のように、カーフェリーのような列車を実現するゆとりも生まれます。

ただし、貨物列車の増便に対応するためには、単線ではなく複線で建設したほうがよさそうです。

未来の「北半球鉄道ネットワーク」の一部に??

 鉄道路線強化検討会の吉川さんは語りませんでしたが、「私たちが新幹線を260km/hで走らせるために造ったトンネルを、なぜ最高の性能で使ってくれないのだ」という気持ちもありそうだな、と筆者(杉山淳一:鉄道ライター)は思いました。青函トンネル建設では34名の殉職者がいて、竜飛岬に慰霊碑があります。1990(平成2)年には天皇皇后両陛下もご供花されました。その御霊にも報いたいという思いがあるかもしれません。

 この第2青函トンネル構想について、「北海道新幹線の所要時間を18分短縮するためのコストとしては大きすぎる」「整備新幹線として造られたため最高速度が260km/hである東北新幹線・盛岡~新青森間の速度を上げれば所要時間を短縮できる」などの批判もあるようです。しかし、問題は北海道新幹線の時間短縮だけではありません。北海道新幹線、貨物列車、両方の増発をしにくい状況です。整備新幹線区間の速度向上と第2青函トンネルの整備は、どちらかを選択すればいいという話ではなく、両方とも実現すべきだと筆者は考えます。また、新幹線の高速化というよりも貨物列車の増強案として、第2青函トンネルは必要ではないでしょうか。

青函トンネル建設OBが作った第2青函トンネル「ホンキの見積書」 その内容は
第2青函トンネルを造り、現トンネルで新幹線が最高性能を発揮すると大幅な時間短縮と利用者増加を見込める(画像:鉄道路線強化検討会)。

 2016年、日露首脳会談の経済協力提案のひとつとして、ロシア側から提案されたとみられた「シベリア鉄道の北海道延伸」については合意に至りませんでした。

しかし、ロシアのタス通信は2017年2月28日、「ロシア鉄道社と日本の国土交通省がこの問題を議論する作業グループの立ち上げで合意した」と報じています。

 ロシア政府は2007(平成19)年、シベリアとアラスカを結ぶベーリング海峡トンネル構想を発表。2011(平成23)年にはトンネルの長さ約105km、建設費約5兆円のプロジェクトを承認したといいます。このトンネルは年間1億トンの貨物と、ロシアの潮力と水力で発電した電力の供給にも使われるそうです。

 いますぐにという話ではありませんが、このトンネルが完成すると、ユーラシア大陸とアメリカ大陸は鉄道でつながり、北半球の鉄道ネットワークが実現します。そこに日本が取り残されないためにも、将来、シベリア鉄道の北海道延伸と第2青函トンネルを検討する日が来るかもしれません。

【地図】第2青函トンネルの建設場所

青函トンネル建設OBが作った第2青函トンネル「ホンキの見積書」 その内容は
鉄道路線強化検討会による第2青函トンネルの平面図。現在の青函トンネルへ沿うように計画されている(画像:鉄道路線強化検討会)。

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