バス事業者の路線バスや、自治体が運営するコミュニティバスなど、東京都内にはさまざまなバスが走っていますが、なかには運賃が無料のものも。どのようなバスがあり、なぜ無料運行が可能なのでしょうか。

お台場、東京駅周辺、日本橋周辺は本数も充実

 無料のバスといえば、商業施設やホテル、病院などと最寄り駅を結ぶシャトルバスなどが思い浮かびますが、なかには不特定多数の人に向けたものもあります。

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浅草周辺地域で運行される無料巡回バス「パンダバス」。現在は不定期運行となっている(画像:セグラスドライブ)。

 東京23区内では、特定地域内を巡回している以下のような無料バスの例があります。なお、停留所については主な箇所のみ記載しています。

東京ベイシャトル

・運行区間:日本科学未来館→東京テレポート駅→ヒルトン東京お台場→フジテレビ→日本科学未来館
・運行日:毎日
・運行時間:11時30分から19時30分まで約20分間隔

「お台場」と総称される台場地区と青海地区を巡回します。車両には車椅子昇降用のスライドスロープも備えられています。

丸の内シャトル

・運行区間:日経ビル→三井住友銀行→日比谷→新丸ビル→日経ビル(通常ルート。平日のみ短縮版の「大手町ルート」もある)
・運行日:毎日(1月1日運休)
・運行時間:8時から(土休日は10時から)20時まで約12~15分間隔(一部時間帯除く)

 大手町や丸の内、有楽町エリアを巡回しますが、平日8時から10時までの出勤時間帯は、大手町エリアのみを回る「大手町ルート」も10~12分間隔で運行しています。いずれもハイブリッドバスが使用されます。

メトロリンク日本橋

・運行区間:東京駅八重洲口→地下鉄日本橋駅→JR新日本橋駅→日本橋南詰→地下鉄宝町駅→京橋二丁目→東京駅八重洲口
・運行日:毎日(1月1日運休)
・運行時間:10時から20時まで約10分間隔(一部時間帯除く)

 東京駅の八重洲口と日本橋、京橋エリアをハイブリッドバスと小型バスで巡回します。車体や停留所には、出光美術館(東京都千代田区)所蔵の「江戸名所図屏風」を絵柄にした大きなリングが描かれています。

メトロリンク日本橋 Eライン

・運行区間:東京駅八重洲口→日本橋室町1丁目→堀留町東京商品取引所→浜町2丁目明治座前→人形町1丁目→茅場町・兜町東証前→日本橋2丁目→東京駅八重洲口
・運行日:毎日(1月1日運休)
・運行時間:平日は8時から18時まで、休日は10時から20時まで。約22分間隔

 2016年10月に運行を開始した路線で、東京駅八重洲口と日本橋の東側に位置する浜町、人形町、兜町エリアを結びます。Eラインの「E」はEDO(江戸)・Eco・East・Eat・Enjoyの意味を込めているそうです。

なぜ無料? 協賛企業には目に見えないメリットも

 先述した「東京ベイシャトル」など4つの無料巡回バスは、主に貸切バス事業を運営する日の丸自動車興業(東京都文京区)が運行しています。同社に話を聞きました。

東京23区の「無料巡回バス」、なぜタダ? 地域の「足」確保だけでないメリットとは

左上から時計回りに「東京ベイシャトル」「丸の内シャトル」「メトロリンク日本橋」「メトロリンク日本橋 Eライン」のバス(画像:日の丸自動車興業)。

――4つの無料巡回バスは誰でも乗っていいのでしょうか?

 もちろんです。お買い物や通勤などに、どなたでもご利用いただけます。

――なぜ無料で運行しているのでしょうか?

 それぞれの路線において、企業などの協賛を得て運行しているためです。2000(平成12)年の「東京ベイシャトル」運行開始以来、100パーセント民間の協賛で成り立っており、4路線とも自治体から援助はいただいていません。

――1路線につき、いくらくらいの協賛を得て運営されるのでしょうか?

 たとえば「メトロリンク日本橋」の場合、10時から20時までの10時間のあいだに、バス3台をドライバー5人が交代で運行しますが、これを1台当たりのコストに換算すると1か月あたり200~250万円ほどです。

――協賛する企業側にはどのようなメリットがあるのでしょうか?

 お客様が無料で何回でも気軽に乗り降りできるようにすることで、街の回遊性を高め、店舗に人を呼び込むことができます。

交通が便利になれば不動産の価値も上がり、店舗を持つ企業以外にも効果は波及します。そもそも運行の目的は、「(東京駅などの)駅周辺の賑わいを運行エリア全体に広げること」にあるのです。

――新規路線はどのように決まるのでしょうか?

 いろいろなケースがあります。たとえば2016年10月から運行を開始した「メトロリンク日本橋 Eライン」の場合は、旧日本橋区(編注:東京都中央区のうち、住所が「日本橋〇〇」となっている地域と八重洲1丁目)東部の浜町や人形町などに、東京駅や日本橋周辺の賑わいを広げていく目的で、地元の協賛を得て運行が実現しました。また、「丸の内シャトル」の短縮版である「大手町ルート」は、日本経済団体連合会(経団連)や日本経済新聞など、大手町地区の協賛団体や企業の要請を受け、通勤の足として運行しているものです。

※ ※ ※

 日の丸自動車興業によると、たとえば2004(平成16)年に運行を開始した「メトロリンク日本橋」は現在、年間80万人が利用するなど、その認知度も高いといいます。協賛のメリットとして、車内外を広告に使えるといった目に見える形のものもありますが、基本的には「地元をみんなで盛り上げていこうという街おこしの一環」だと話します。

子どもに人気の「名物」無料バス しかし現在は危機的状況!?

 バス会社などではなく、地域の企業や団体が運営する無料巡回バスも存在します。

パンダバス(浅草)

・運行区間:ROX前→田原町駅ぱんだカフェ前→雷門→とうきょうスカイツリー駅前→花川戸→東武浅草駅→二天門→浅草見番→ROX前
・運行日:現在不定期(2017年7月30日、9月17日、18日は運行。ただし9月はルート変更)
・運行時間:10時から17時まで約40分間隔(便によっては二天門、雷門止まり。13時台は運休)

 パンダをかたどった小型バスが、浅草エリアと東京スカイツリー周辺を巡回します。運営するセグラスドライブ(東京都台東区)は、イベント企画や劇場の運営も行う地元の会社で、広告収入で運行費をまかなっています。

しかし2017年7月26日現在「諸事情によりスポンサーが一切なくなってしまったため運休しています。夏休みで運行を楽しみにしている子どもも多いため、7月30日(日)は運転しますが、8月については未定です」とのこと。新たなスポンサーを募集中だそうです。

 セグラスドライブは「もしも運行しているのを見たら、ぜひ手を振ってください。パンダバスは目の部分を動かしてウインクします」と話します。乗車したい場合は、「ウェブサイトで運行情報を確認してほしい」とのことです。

サンクスネイチャーバス(自由が丘)

・運行区間:「八雲ルート」自由が丘駅正面口→日能研→緑ヶ丘文化会館→自由が丘インターナショナルテニスカレッジ→モンサンクレール→自由が丘駅正面口、「駒沢公園ルート」深沢ハウス→自由が丘クリニック→ラ・ヴィータ→自由が丘駅南口→高橋建設→深沢ハウス、「産能大ルート」自由が丘駅正面口~産業能率大学
・運行日:八雲ルート、駒沢公園ルートは水曜除く毎日、産能大ルートは平日のみ(2017年8月7日から18日は運休)。いずれも年末年始運休。
・運行時間:八雲ルートは12時から21時30分まで約30分間隔、駒沢公園ルートは11時25分から20時50分まで約35分間隔(一部時間帯除く)、産能大ルートは8時から11時ごろまで約20分間隔

 周辺の住民有志が中心となった「サンクスネイチャーバスを走らす会」が1997(平成9)年から、地域の企業や商店、個人からの会費で運営しています。2台の小型バスは、周辺地域から集められた天ぷら油などの廃食品油を活用したリサイクル燃料「VDF(Vegetable Diesel Fuel)」で走ります。

 平日朝時間帯は、自由が丘駅と産業能率大学(世田谷区)のあいだを往復して通学輸送を担い、日中から夜にかけては八雲ルート、駒沢公園ルートの2ルートで巡回運行しています。サンクスネイチャーバスを走らす会によると、「おもに自由が丘から少し距離があるところにお住まいの方が買い物や、夜の帰宅にご利用いただいています」といいます。

誰でも乗車できますが、「朝の自由が丘駅からの産業能率大学行きは、大勢の学生さんが利用します」とのことです。

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 地域の協力によって成り立っている無料巡回バスは、「パンダバス」のように協力が途切れたことで運行が困難になるケースも存在しますが、単なる「足」としてだけではない様々な波及効果が期待されているようです。

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