名実ともに最強をうたうにふさわしい戦闘機といえばF-15が挙げられるでしょうが、一方で面白味のない設計と見る向きもあります。しかしその「面白味のなさ」こそが、「最強」である理由のひとつでした。
「F-15は嫌いだ」
筆者(関 賢太郎:航空軍事評論家)はある航空専門誌のF-15戦闘機特集を読み狼狽(ろうばい)しました。なんと冒頭からいきなり著者がF-15を嫌いだと宣言しているではありませんか。
航空自衛隊のF-15J(奥)と複座型のDJ。2018年1月現在、両者あわせて約200機が配備されている(画像:航空自衛隊)。
筆者はF-15「イーグル」が好きです。そもそも戦闘機を好きになったきっかけがF-15でしたし、いまも変わらずF-15が一番好きだと自負しています。F-15は航空自衛隊の主力戦闘機であり、わりとなじみ深い機種ですから、F-15が嫌いだと書かれていた文章を読んだときの憤りを理解してくれる方もきっと少なくなかろうかと思います。
なぜF-15が嫌いなんだろうかと記事を読み進めていくと、どうやらF-15が「完璧すぎる」「美しすぎる」「面白みに欠ける」ために嫌いだということが分かりました。そこが魅力的なのではと思わないでもありませんが、価値観の違いはともかくとして理由は納得がいきます。
F-15が戦闘機として完璧すぎる面白みのない設計には理由があります。それは保守的な見地から「空中戦に勝利する」というただそれだけのために生まれた究極の機能美にほかなりません。
設計思想はガチガチに保守的?1960年代、アメリカ空軍内部において「強い戦闘機とはどのような戦闘機か」という難題に挑むグループがありました。

「広い翼面積」と「大パワーエンジン」は、いずれもF-15の特徴といえるものになっている(画像:航空自衛隊)。
彼らの思想はF-15の開発に強い影響を与えますが、最後の「格闘戦以外のすべてを捨て去る」という部分だけは取り入れられませんでした。1970(昭和45)年ころには性能に優れた空対空ミサイルが実用化されつつあり、これを捨てるリスクは、ひとつ前の戦闘機開発計画(F-111)が大失敗に終わっていた空軍にとって受け入れがたいものでした。
ゆえに次のF-15開発においては失敗が許されなかったため、あまり冒険せず、確実にできることのみが求められるようになります。結果としてF-15は、良くも悪くも優等生ながら突飛な特徴を持たない「面白みに欠ける」姿として完成することになったと言えます。
開発当初必要とされた「広い翼面積」や「大パワーエンジン」はF-15の大きな特徴となっていますが、実のところこれも目新しい要素ではありませんでした。F-15を開発したマクダネル・ダグラス社の前作にしてF-15の前のアメリカ空軍主力戦闘機、F-4「ファントムII」からすでにそういった思想が取り入れられていたのです。
完璧すぎるF-15の泣き所とは?F-4は登場当時あまりに斬新すぎて挙動が神経質であるなど、高性能と引き換えに扱いの難しい飛行機でした。言ってみればF-15とはF-4を完全に再設計することで、とがりすぎた部分を滑らかにし、広い視界を与え、そしてレーダーやミサイルの操作をひとりでこなせるようコンピューターを搭載し、純粋な戦闘機としての完成度を高めた機種だと言えます。
もちろんF-15は人間が作りだした機械である以上、欠陥は存在します。第一にエンジンへの吸気を制御する可動式エアインテーク(空気流入口)。

完璧すぎるF-15の弱点は、可動式エアインテークと細い脚(画像:アメリカ空軍)。
さらに20トンという大型ダンプ並みの重量があるにもかかわらず、極めて貧弱すぎるその脚部はトラブルの元となり、2018年の現在に至るもたまに脚が折れるといった事故が発生するなど、解決を見ていません。
F-15は1979(昭和54)年に初めて実戦投入されて以降、2018年現在までに100機以上の撃墜を記録しており、また地対空ミサイルなどをのぞいた空中戦における被撃墜記録は0、完璧な戦績を残しています。そしてこの実績こそが、奇をてらわず、あえて保守的な古い設計を持つF-15が、21世紀に入るまで30年にわたり世界最強と呼ばれ続けた理由だと言えるでしょう。
【写真】F-15のプロトタイプ1号機

F-15開発にあたり作られたプロトタイプYF-15Aの第1号機(画像:アメリカ空軍)。