全都道府県で最大の面積を誇る北海道は、長距離路線バスの宝庫であり、鉄道赤字ローカル線の代替路線も多いです。道民にとって、路線バスは通勤・通学や通院の重要な移動手段として欠かせない存在ですが、その実態はどのようなものでしょうか。

100km以上の鉄道路線がバスへ転換された例も

 広大な面積を誇る北海道は、長距離路線バスの宝庫です。運行距離において日本で2番目に長い阿寒バス(釧路市)の「釧路羅臼線」(全長約166km)や、3番目に長い沿岸バス(羽幌町)の「豊富留萌線」(全長約164.5km)など、運行距離が100kmを超える路線も多く存在します。

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2016年12月、廃止直前のJR留萌本線 増毛駅。廃止された留萌~増毛間は代替バス路線が設定されていない(須田浩司撮影)。

 長距離路線が多いことには、様々な理由が考えられますが、大きくふたつあります。ひとつは、地方都市間を結ぶ幹線路線が地域住民の移動手段として昔から運行されており、その路線数が比較的多いことです。

本州であれば県をまたぐ都市間バスとして運行されるような距離も、北海道では一般路線バスとして走ることがあります。

鉄道廃止によるバス転換、さらに加速か 「長距離バス王国」北海道の実情

北海道における国鉄・JRのおもな廃線(乗りものニュース編集部作成)。

 そしてもうひとつは、廃止された鉄道赤字ローカル線の代替路線が多いことが挙げられます。赤字ローカル線の廃止は全国的なことですが、特に北海道においては、1987(昭和62)年3月に廃止された国鉄羽幌線(留萌~幌延)や、1989(平成元)年5月に廃止されたJR天北線(音威子府~浜頓別~南稚内)など、100kmを超える鉄道路線がバス転換されたことも大きな特徴です。

9割が赤字 「補助金削減方針」で関係者に激震

 北海道を走る路線バスは全国各地と同様、人口減少などから厳しい状況に置かれています。多くの路線は国や道、市町村からの補助金でなんとか維持しているというのが実状で、北海道交通政策局交通企画課の調べによると、2016年度に赤字かつ複数の市町村にまたがる基幹路線として補助金の交付を受けたのは、北海道バス協会加盟117社の2割強に当たる25社の計167路線(系統)。

距離にして約7600kmに上り、国と道が計27億3100万円を負担しています。

 加えて、昨今問題になっている運転手不足についても深刻化してきており、道やバス協会が主体となって合同説明会を開催するなど、その確保に取り組むものの、思うように人が集まらないのが実状です。このような人口減少や運転手不足などを背景に、黒字路線は札幌近郊など人口の多い地域に限られ、9割は赤字(北海道バス協会調べ)というのが実態です。

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道内最長距離を走る路線バス、阿寒バス「釧路羅臼線」の車両(須田浩司撮影)。
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道内で2番目の距離を走る路線バス、沿岸バス「豊富留萌線」の車両(須田浩司撮影)。
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沿岸バス「留萌別狩線」。
廃止されたJR留萌本線の留萌~増毛間にほぼ並行する区間を走る(須田浩司撮影)。

 そのような状況のなか、2017年4月には、国土交通省(国交省)が赤字バス路線に対する補助金削減を検討しているといった報道が流れました。その内容とは、2018事業年度(17年10月~18年9月)の運行経費補助金から、補助対象経費の上限を45%から40%に引き下げ、収支改善で成果を上げた事業者には補助を増やす仕組みの導入も検討しているといったもので、この動きに北海道バス協会や道内のバス事業者はいっせいに反応しました。

 北海道バス協会は、道に対し補助対象経費の上限額を引き下げないことや、補助額決定の透明性を確保することを国に働きかけるよう求め、結局、国交省が方針を白紙に戻しました。2018事業年度は現行通りの補助対象経費とすることで落ち着きましたが、2017年5月に開かれた日本バス協会の会合で、国交省はバス事業者に対して運行形態の見直しなど収支改善も要求しており、その成果を出せなければ、国交省の補助金削減の議論が再燃する可能性もあります。

バス事業者の取り組みは? 最近廃止の鉄道路線は「代替バスなし」

 このような現状を何とか打開しようと、道内各地では利便性向上や利用促進など、バス路線の見直しを図る事例が出てきています。

 利用客の利便性向上のため、基幹病院や大型ショッピングセンターを経由するように路線変更した例(十勝バス「広尾線」や沿岸バス「豊富留萌線」など多数)や、利用客が見込める観光地へ立ち寄る経路に変更した例(宗谷バス「天北宗谷岬線」など)、フリーパスや観光パックの発売で利用促進を図る例(十勝バス、沿岸バス、網走バス、名寄線代替バス運営協議会など)などがこれにあたります。大手宅配事業者と手を組んで、荷物と乗客を同時に運ぶ「貨客混載」も増えており、現在は沿岸バスや十勝バス(帯広市)、名士バス(名寄市)、士別軌道(士別市)、空知中央バス(滝川市)、北紋バス(紋別市)、北海道北見バス(北見市)などが行っています。

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国鉄広尾線の終点だった旧広尾駅に停まる代替バス。帯広~広尾間を結ぶ(須田浩司撮影)。
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てんてつバスの小平町デマンドバス。てんてつバスは留萌と天塩炭鉱を結んだ天塩炭礦鉄道が前身のバス会社(須田浩司撮影)。

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紋別バスターミナルに停まる北海道北見バスの名寄本線代替バス(須田浩司撮影)。

 一方で、利用客が見込めない路線については、運行本数の削減や路線自体の廃止、予約制デマンドバスへの移行(てんてつバス「留萌達布線」、旧国鉄美幸線代替バスの名士バス「仁宇布線」など)といった見直し策が実施されています。利用客の減少で鉄道代替バスの一部区間を自治体運営のバスへ移管する例(網走バス「湧網線」常呂~中湧別間など)もあるほか、2016年12月のJR留萌本線 留萌~増毛間廃止に際しては、既存のバス路線でカバーできるとして鉄道代替バス自体が設定されずに、1便のみの乗合タクシーでカバーされました。今後、このような動きはさらに増えることが予想されます。

JR北海道の路線見直しで鉄道代替バスは増えるのか?

 JR北海道では現在、利用者の減少などにより単独では維持が困難な10路線13線区について、国や道、沿線自治体などとの協議を始めていますが、道内鉄道網の方向性を検討する有識者会議「鉄道ネットワーク・ワーキングチーム・フォローアップ会議」が、2018(平成30)年2月10日(土)に、最終報告書『北海道の将来を見据えた鉄道網(維持困難線区)のあり方について』を取りまとめ、公表しました。今後は、道や自治体、JR北海道、国などが一体となり、「その地域に合った公共交通は何か」を議論することになりますが、一方で、バス転換に向けた動きも出始めており、今後の議論次第では、さらに加速する可能性もあります。

鉄道廃止によるバス転換、さらに加速か 「長距離バス王国」北海道の実情

路線距離が100kmを超える函館バス「快速松前号」。函館市と旧松前線が通じていた松前町を結ぶ(須田浩司撮影)。
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2014年に鉄道が廃止された江差線 木古内~江差間の代替バス(須田浩司撮影)。
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根室交通の標津線代替バス。道東を南北に結ぶ(須田浩司撮影)。

 すでにJRと地元が廃線で合意している石勝線の夕張支線(新夕張~夕張)については、夕張市がバス転換にあわせて公共交通の再編を行う案を固め、夕張支線にほぼ並行する形で市内の南北を結ぶバス路線を「南北軸幹線」と定めて1日10往復の運行を目指すほか、「南北軸幹線」に接続する形で「デマンド交通」の拡充や、市民へのタクシー運賃補助などを行うことにしています。

 また、JR北海道が提示した10路線13線区のひとつである札沼線の北海道医療大学~新十津川間については、2018年2月19日(月)に開催された「札沼線沿線まちづくり検討会議」において、JR北海道が「札沼線(北海道医療大学・新十津川間)の新しい交通体系」(バス代替案)を提示しました。これを受け、会議を構成する沿線自治体はバス転換か、月形町が求める石狩月形駅までの部分存続かの二者択一の結論を、3月の次回会合で出す方針です。会合の内容次第ではバス転換の方針が決定される可能性もあります。

 利用客減少で廃線になった鉄道路線をただ並行しただけの代替路線設定では、利用客のさらなる減少は明らかです。一方で、2014年に廃止された江差線 木古内~江差間の代替バスのように、利便性の高い運行経路設定(江差ターミナルから江差高校や道立江差病院まで延長)や、バス停の増加(江差線10駅に対し50か所のバス停を設定)で利便性が向上した例もあります。

 鉄道代替バスのあり方には様々な議論がありますが、地元住民のニーズに合った路線設定や運行本数について沿線自治体、住民、事業者が意見や知恵を出し合い、その地域にとって必要とされる交通機関に育てていくことが必要ではないでしょうか。