旧ソ生まれのMiG-21(ミグ21)は、ベトナム戦争を戦った、もはや骨とう品といえる戦闘機です。世界中で退役が進む一方、紆余曲折の末完成したその派生機が今後、アフリカや中南米の空軍へ導入されるかもしれません。
クロアチアは2018年3月27日に、クロアチア空軍が運用しているMiG-21戦闘機の後継機として、イスラエル航空宇宙軍が運用しているF-16Dを12機導入すると発表しました。
アメリカ海軍のF-14戦闘機と訓練飛行をおこなうクロアチア空軍のMiG-21(画像:アメリカ海軍)。
MiG-21は旧ソ連が1950年代初頭に開発を開始し、原型機は1955(昭和30)年に初飛行しています。MiG-21は航空自衛隊も運用しているF-4「ファントムII」や、フランスのダッソー「ミラージュ」といった同世代の戦闘機に比べて航続距離が短く、また低空での操縦安定性にも難があると言われています。加えて機首部に空気取り入れ口を配置した結果、F-4のように機首部に大型のレーダーが搭載できず、レーダー波を使用して誘導する、中射程空対空ミサイルの運用能力も備えていませんでした。
このように欠点の多いMiG-21ですが、ベトナム戦争ではF-4と互角以上の戦いを演じています。F-4の主兵装であるセミアクティブ・レーダー誘導方式のAIM-7スパローは、現在もアメリカ空軍や航空自衛隊などで運用されているベストセラー中射程空対空ミサイルですが、当時のスパローは信頼性が低く、このため命中率もあまり高くありませんでした。
ベトナム戦争当時のF-4はバルカン砲を装備しておらず、北ベトナム空軍のMiG-21はスパローの攻撃を回避してドッグファイト(格闘戦)に持ち込み、赤外線誘導の短射程空対空ミサイルや機関砲で、少なからぬ数のF-4を空中戦で撃墜しています。
東側陣営のベストセラー機へベトナム戦争での実績に加えて、旧ソ連が当時の同盟国に対して、本国仕様よりもやや性能の落ちるMiG-21を安価に供給したこともあって、MiG-21は1万機以上が製造されるベストセラー戦闘機となりました。

ベトナム戦争でアメリカ軍のF-4「ファントムII」などと互角以上に戦ったベトナム空軍のMiG-21(画像:アメリカ空軍)。
ちなみに1980年代、中東戦争でアラブ諸国が運用していたMiG-21を鹵獲(ろかく)したイスラエルから、航空自衛隊に対してMiG-21や、同じ旧ソ連製のMiG-19を、参考資料として購入しないかとの打診があったようです。
交渉を担当された当時の航空自衛隊の幹部の方のお話によれば、お値段は1機あたり「高いベンツ1台分」とのことでしたが、予算が確保できずお流れになってしまったようです。

ポーランド空軍を退役後、アメリカの「イントレピッド・ミュージアム」に展示されているMiG-21(竹内 修撮影)。
1991(平成2)年の旧ソ連の崩壊以降、旧ソ連の同盟国であった東ヨーロッパ諸国は、冷戦時代に敵対していたNATO(北大西洋条約機構)に加盟するためにMiG-21を捨て、ポーランドはF-16、チェコとハンガリーはJAS39「グリペン」を導入。さらにソ連の崩壊によって生まれたロシアも、財政難などの理由でMiG-21を退役させてしまいました。
さらに1980年代から90年代にかけてのレバノン紛争、1991年の湾岸戦争で、F-15やF-16といった新世代のアメリカ製戦闘機の前になす術もなく撃墜され、「ヤラレメカ」というイメージが固まってしまったこともあって、インドネシアやフィンランドといった国々も、より能力の高いアメリカ製の戦闘機でMiG-21を更新しています。
また、現在も運用を続けているインドやルーマニアでも新戦闘機による更新が決定。北朝鮮やキューバといった、外交上や財政上の理由で新戦闘機を入手できない国では運用され続けるでしょうが、今後も退役は進んでいくものと思われます。
中国では紆余曲折の末、独自進化MiG-21は次第に姿を消していくものと思われますが、MiG-21の兄弟とでも言うべき戦闘機が、全世界で500機以上運用されています。
1961(昭和36)年、中国はソ連からMiG-21のライセンス生産権を取得しましたが、その後中ソ関係が悪化したためソ連は技術支援を打ち切ってしまいました。このため中国は残された図面などを元にMiG-21のコピーに取り組み、1960年代後半にJ-7(殲撃7型)として就役にこぎつけました。

パキスタン空軍が運用しているJ-7PG(画像:アメリカ空軍)
MiG-21の生産は1975(昭和50)年に終了していますが、J-7は2016年まで生産が継続されていました。国産のJ-20戦闘機やJ-10戦闘機、ロシア製のSu-35戦闘機などの新型機を導入した中国空軍と中国海軍航空隊からは退役が進んでいますが、パキスタンやバングラデシュ、エジプトなどに輸出されたJ-7は主力戦闘機として、今後も長期に渡って運用される予定となっています。
さらに中国はMiG-21の子孫とでも言うべき、JF-17(FC-1)という名称の戦闘機も開発しています。
中国は1980年代に入って、小型のレーダーしか搭載できないというMiG-21/J-7の弱点を解消するため、J-7の空気取り入れ口を機首から胴体側面に移して、機首部に本格的なレーダーと火器管制装置を備える「スーパーF7」(超7)の開発に乗り出しました。
当時の中国はレーダーや火器管制装置の技術で欧米やソ連に遅れを取っていたため、スーパーF7の開発は、F-14戦闘機などを開発したアメリカのグラマン社(現ノースロップ・グラマン)などから協力を受けて進められることとなっていました。しかし1989(平成元)年に発生した第二次天安門事件で、アメリカが中国に対する政策を大幅に見直ししたため、グラマン社をはじめとする欧米企業は技術協力を打ち切り、スーパーF7の開発は頓挫を余儀なくされてしまいました。
それでもめげないMiG-21の遺伝子、パキスタンの空へ一旦頓挫したスーパーF7ですが、中国の友好国であるパキスタンからの要望で開発が再開されることとなり、スーパーF7の基本設計を流用し、パキスタンとの共同開発という形でJF-17を完成させました。

J-7をベースに開発されたJF-17(竹内 修撮影)
JF-17は、エンジンをMiG-29に搭載されているクリモフRD-33の派生型であるクリモフRD-93ターボファンエンジンへ、操縦系統もデジタルフライ・バイ・ワイヤへとそれぞれ変更しているほか、コックピットも3基の多機能ディスプレイによるグラスコクピットとなるなど、もはやMiG-21/J-7とは別物と言ってよいほどの戦闘機に進化しています。
また高性能レーダーの搭載や照準ポッドの運用能力の追加などにより、レーダー誘導型の中射程空対空ミサイルや精密誘導爆弾などの運用能力も備えています。
中国軍はJF-17を採用していませんが、共同開発国のパキスタンは100機以上を導入しており、パキスタン空軍の高官はJF-17を同国空軍のF-16に匹敵する能力を持つと、高く評価しています。

JF-17にはレーダー誘導空対空ミサイル、精密誘導爆弾、対艦ミサイルなどの多種多様な兵装の搭載が可能となっている(竹内 修撮影)。
パキスタン以外の導入国は今のところミャンマーとナイジェリアの2ヵ国だけですが、価格が1機30億円程度と極めて安いことから、近年中国との関係が深まっているアフリカや中南米諸国などが高い関心を示しているようです。
【写真】チャイナマジック! MiG-21とはもはや別物の派生機

MiG-21をベースにしたJ-7をさらにベースにした中国、パキスタン共同開発のJF-17。MiG-21の面影は残るが、エアインテークも横になりもはや別物(竹内 修撮影)。