線路の上に電線がないのに、電車が走っていることがあります。これは走行用レールの横に敷設した3本目のレールから電気を取り入れて走る「サードレール方式」または「第三軌条方式」というもの。

地下鉄で採用例が多いのですが、「ならでは」のメリットがあります。

パンタグラフがない電車もある

 突然紙とペンを渡されて「電車の絵を描いてくれ」と言われたら、あなたならどうしますか。まず長方形を描いて、次に窓とドアと車輪を付けてみて、これだとバスに見えるかなとちょっと悩んでから、屋根の上にパンタグラフを描き加えてみたりするかもしれません。

上に電線がないのに電車が走る 地下鉄に多い「サードレール方式...の画像はこちら >>

走行用レールの右側に並行して設置されているのが3本目のレールである第三軌条。サードレールとも(2017年12月、恵 知仁撮影)。

 電車のイラストやピクトグラムにパンタグラフが描き込まれていることが多いのは、鉄道に特別な興味を持っていない一般人にとっても、パンタグラフが電車のシンボルとして認知されていることを示しています。

 ただし、電車が必ずパンタグラフを備えているとは限りません。ホームで地下鉄を待っていて、ふと見上げたトンネルの上部に架線(電線)がなく、電車の屋根にも何も付いていないことに気付いて不思議に思ったことがある人もいると思います。

 これらの路線では、走行用のレールの横に3本目のレールが設置され、そこから電気を取り入れてモーターを動かしています。これを「サードレール方式」や「第三軌条方式」といいます。対してパンタグラフなどを用いて架線から電気を取り入れる方法を「架空電車線方式」といいます。

 日本でサードレール方式を用いている鉄道は、そのほとんどが地下鉄です。

東京メトロの銀座線と丸ノ内線、大阪メトロの御堂筋線や四つ橋線など、堺筋線と今里筋線、長堀鶴見緑地線以外の7路線、そして名古屋市営地下鉄や横浜市営地下鉄、札幌市営地下鉄でも使われています。

サードレール方式の採用理由は地下鉄ならでは

 なぜ地下鉄で採用されているかというと、屋根の上に架線とパンタグラフを設置するスペースを必要としないサードレール方式の方が、トンネルの断面積が小さくなり建設費を節約できるという地下鉄ならではのメリットがあったからです。戦前から1950年代にかけて開業した銀座線、御堂筋線、四つ橋線、丸ノ内線、名古屋市営地下鉄東山線はいずれもサードレール方式で建設されました。

 ちなみに日本で初めてサードレール方式が採用されたのは、1912(明治45)年の信越本線・横川~軽井沢間(碓氷峠)です。蒸気機関車向けに造られたトンネルは断面が小さく、改築には多額の費用がかかることからサードレール方式で電化しています。そのため、この区間だけを走行する専用の電気機関車が製造されました。

 地下鉄のためにトンネルを小さくできるというメリットは、地下鉄以外の車両が乗り入れることができないというデメリットにもなります。東京の地下鉄ではその後、混雑緩和のため私鉄・国鉄との相互直通運転を全面的に行うことになり、都営浅草線、日比谷線以降の路線は全て架空電車線方式で建設されています。

 一方、大阪では一部を除いて相互直通運転を行わなかったため、その後も多くの路線が引き続きサードレール方式で建設されました。そのため大阪では、地上を走る近鉄けいはんな線が大阪メトロ中央線に直通するためにあえてサードレール方式を採用とする逆転現象も起きています。

 実は戦前の東京でも、京浜電気鉄道(現在の京急電鉄)が東京地下鉄道(現在の銀座線)に乗り入れるために、架線とサードレールの両方に対応するハイブリッド集電方式の電車を導入した事例がありますが、直通運転は実現には至りませんでした。

 1879年にドイツのジーメンス社がベルリン工業博覧会に出展した世界初の電気機関車は、走行用レールの間に設置されたサードレールから給電していました。

2年後にベルリンに開業した路面電車は、走行用の2本のレールを使って電気を取り入れるさらにスマートな方式を採用しました。ところが路面電車が世界に普及するのは、わざわざ柱を立てて空中に電線をぶら下げる、架空電車線方式が発明されて以降のことでした。

もうひとつのデメリットは

 もうひとつのサードレール方式の大きなデメリットは、手を伸ばしても届かない高い位置にある架線と違い、線路の横に設置されたサードレールに触れると容易に感電してしまうことにあります。

 そのため現在でも架空電車線方式が直流1500~3000Vまたは交流2万~2万5000Vを使用しているのに対し、サードレール方式は直流600~750Vという低い電圧を用いています。それでも感電の危険性はぬぐえないため、台東区上野にある銀座線の車庫につながる踏切では、歩行者が誤って線路に侵入しないように、通常の踏切とは逆に線路側をゲートでふさぐことで安全を確保しています。

 ちなみに鉄道発祥の国イギリスでは少々事情が異なります。第二次世界大戦前にロンドン南部を中心に路線を展開していたサザン鉄道が、架空電車線方式で電化済の路線を改築してまでサードレール方式の導入を進めたので、今でも近郊区間の1600km以上でサードレール方式が用いられているのです。

 サードレール方式は高速運転に不向きと言われますが、イギリスでは最高速度160km/hで走行しており、構造自体に不利な点があるというわけではありません。結局、問題は高電圧を使えないということにあり、低い電圧ではモーターの高出力化、高速化に限界があり、送電効率も下がってしまうからです。イギリスにおいても英仏海峡トンネルとロンドンを結ぶ高速新線「HS1」と、現在計画中のロンドンとバーミンガムを結ぶ新しい高速鉄道計画「HS2」では交流2万5000Vによる架空電車線方式が採用されています。

※一部内容を修正しました(8月6日10時30分)

【写真】線路も遮断する東京メトロ銀座線の踏切

上に電線がないのに電車が走る 地下鉄に多い「サードレール方式」のメリットとは

道路にも線路にも遮断設備を設けている東京メトロ銀座線の車庫につながる踏切(2017年12月、恵 知仁撮影)。

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