新型政府専用機が運用を担当する千歳空港の特別航空輸送隊ハンガーへ到着しました。現用機は引退間近となったわけですが、どのような飛行機だったのでしょうか。
2018年8月17日、千歳空港へ次期政府専用機となるボーイング777-300型機が到着しました。運用開始は2019年春を予定、これにより現用の、国内最後である予備機あわせ2機の旅客用「ジャンボジェット」政府専用機は引退することになります。
「ジャンボジェット」といえば、ある年代以上の方には旅客機のシンボル的存在でしょう。多くの旅客を運べたため、運賃も下がり飛行機の旅行を身近なものにしました。実際に乗ってみると、席数が多くて中央列では外の景色も見えず、結構窮屈でトイレに立つのも大変でしたが、私個人(加藤 聡:月刊PANZER編集部)的には「ジャンボに乗る」とワクワクした子供の頃を思い出します。
「ジャンボジェット」ベースの現用政府専用機。2014年の航空観閲式にて(月刊PANZER編集部撮影)。
さて日本が最初に政府専用機の導入を決めたのは1987(昭和62)年のことで、それまで日本には政府専用機というものは存在せず、おもにJAL(日本航空)が特別機として運行していました。しかし、政情不安定な危険地域にも飛行しなければならない場合、民間企業に任せてよいのかという問題も起きてきました。官用機としては航空自衛隊の国産C-1輸送機もありますが、航続距離は「対外的な政治配慮」で、燃料タンクを小さくして航続距離を1700kmに抑えており、東京から沖縄まで飛ぶのが精一杯という状態でしたので、海外まで足を伸ばすことなどできませんでした。
そこで政府は政府専用機を導入することを決めたのですが、機種は当時世界中の航空会社が注目していた最新鋭大型旅客機ボーイング747-400「ジャンボジェット」に決定しました。
当時「ジャンボジェット」は世界中の憧れの高級大型旅客機でしたが、政府専用機に購入しようなどという「贅沢な」国は製造国アメリカや産油国以外では日本位のものでした。日本から無給油でヨーロッパや北アメリカの主要都市に飛ぶことができる当時唯一の機材であったことが表向きの選定理由とされていますが、当時日米間には貿易摩擦という大問題がありました。アメリカの対日貿易赤字を少しでも減らそうと、無理やり高級な「ジャンボジェット」を買ったという一面もあります。

現用の747型政府専用機の秘書官室(月刊PANZER編集部撮影)。
747型政府専用機は1991(平成3)年9月に1番機、11月には2番機が到着し、1992(平成4)年に総理府から防衛庁(のちの防衛省)に移管、航空自衛隊の機体識別番号が与えられ、航空自衛隊特別航空輸送隊が運用する1993(平成5)年2月の渡辺美智雄 副総理兼外務大臣(当時)訪米が初任務となりました。同年9月には天皇皇后両陛下欧州ご訪問で運航されています。

現用の747型政府専用機。随行員席(準VIP席)(月刊PANZER編集部撮影)。

現用の747型政府専用機の事務室(月刊PANZER編集部撮影)。

現用の747型政府専用機の一般客席。
寄港地は世界中250か所を超え、国交が無い北朝鮮の平壌空港に「ぶっつけ本番」で寄航(2002〈平成14〉年9月の小泉首相〈当時〉の訪朝)もしています。通常政府専用機は要人輸送で初めての寄港地には本任務前に、予行として事前訓練飛行することが多いのですが、国交の無い北朝鮮の平壌に軍用機登録した機体をおいそれと飛ばすわけにも行かず、まさに「電撃訪問」となりました。平壌空港の受け入れ態勢も明らかでなかったため、往復できる燃料はもちろん不測の故障に備えてパーツ、工具、整備員をできる限り随行させ、食料も搭載しました。小泉首相も訪朝中の食事は政府専用機で運んだ弁当だったと言われています。
実はまだまだ飛べる? なぜ引退することになったのかその後、2014年には日本の空から「ジャンボジェット」民航機は引退しました。政府専用機が日本に残った最後の「ジャンボジェット」旅客機です。航空自衛隊は政府専用機のメンテナンスをJALに委託していましたが、「ジャンボジェット」の引退で予備パーツや工具も無くなり2019年以降はJALでメンテナンスができなくなることがわかりました。そのため、政府はボーイング777-300ERを新しい政府専用機として購入することを決めたのです。

千歳空港に到着した新型政府専用機(画像:航空自衛隊)。
1機目の777-300ERは2018年8月17日に到着しており、12月には2機目が日本へ到着する予定です。2019年3月末で現在の747型政府専用機は引退し、777-300ERに任務を引き継ぎます。

現用の747型政府専用機。タラップをつけた様子(月刊PANZER編集部撮影)。

航空自衛隊特別航空輸送隊の隊舎入り口にて(月刊PANZER編集部撮影)。

特別航空輸送隊隊舎にて、政府専用機に搭乗した歴代首相からの色紙(月刊PANZER編集部撮影)。
しかし747型政府専用機も引退するとはいえ整備が行き届き、飛行時間も多くないことからまだ飛行も可能です。地元の千歳市でも政府専用機は地域のシンボルということで関心を示し、航空自衛隊では747型機の第二の活用法を募集しているようですが、なにせあの大きさです。どうなるのでしょうか。できれば簡単にスクラップにだけはして欲しくないものです。