2018年9月、ロシアの最新鋭戦闘機Su-35が日本近海にあらわれ広く報じられましたが、90年代にも「Su-35」というロシア機の名は聞こえていました。20年の歳月を経てようやく完成、というわけでは、もちろんありません。
2018年9月19日、防衛省は航空自衛隊が実施している対領空侵犯措置において、ロシア空軍の最新鋭戦闘機スホーイSu-35を日本海海上で確認したことを明らかにしました。この機による領空侵犯はありませんでした。
Su-35S(Su-35BM)。原型はSu-27であり見た目もほとんど変わらないものの、完全に再設計された別の機体である(関 賢太郎撮影)。
対領空侵犯措置においては戦闘機をスクランブル発進させ、目視可能な距離まで接近し機種を識別、写真撮影するとともに、日本の領空へ近づきつつあることを国際緊急周波数で注意(領空への侵入がなければ合法)を与えます。
Su-35が極東において実戦配備されつつある事実はかねてより知られており、今年の8月には択捉島にも展開していますが、実際に日本の周辺で飛行中の姿が確認されたのは今回が初めてとなります。
当初防衛省はSu-27として発表しましたが、翌9月20日にSu-35であると訂正されました。より正確には「Su-35S」と呼称しますが、Su-27と誤認されたことからもわかる通り、Su-27とSu-35Sの見た目の違いはほとんどありません。しかしながら機体は旧来のSu-27をベースとしつつもほぼ完全に再設計されており、新しい構造材を使用するなど見た目以外は完全に別の機種として生まれ変わっています。
紛らわしいことにロシアでは、1990年代から2000(平成12)年ころに開発したSu-27の性能向上型Su-27Mの輸出型にSu-35という名前を与えていますが、このSu-35(Su-27M)と、今回日本に接近したSu-35Sは関係がない別の機種です。
紛らわしい上によく似てる、その見分けかたは?最初のSu-35(Su-27M)は既存のSu-27からのコンバートが5機、強度試験機2機、初期生産型6機、後期生産型3機、そして複座型1機の合計17機が製造されたものの、ソ連崩壊後の経済危機にあえぐ情勢にあってロシア空軍は新鋭機を実戦配備する余裕がなく、これを採用できませんでした。また輸出にも失敗し採用した国はありませんが、西側諸国の間ではSu-27のNATOコードネーム「フランカー」を超える戦闘機「スーパーフランカー」という非公式の愛称で呼ばれていました。

Su-35(Su-27M)プロトタイプ初号機。機体構造はSu-27をそのまま踏襲しておりカナードが付加されるなどの改修が行われている(関 賢太郎撮影)。
このふたつのスホーイSu-35(以降Su-35SとSu-27Mと呼称します)を見分けるための分かりやすい相違点が、カナード(先尾翼)の有無です。Su-27Mはカナード、主翼、水平尾翼の3つの翼面からなる「スリーサーフェス」と呼ばれる形態が採用されており、特に低い速度における機動性の向上や短距離離着陸性能を向上させています。
スリーサーフェス形態はSu-27シリーズにおいて艦上戦闘機型Su-33、爆撃機型Su-34、一部の複座多用途型Su-30などいくつかの採用例がありますが、Su-35Sにはこれがありません。ではSu-35SはSu-27Mに比べて飛行性能に劣るのでしょうか。

Su-35S用の推力偏向エンジンAL-41F-1S。エンジン作動前は動力が供給されておらず自重でノズルが下がる。(関 賢太郎撮影)。


Su-35(Su-27M)のAL-31Fエンジン。通常のSu-27とおなじ固定ノズル型(関 賢太郎撮影)。
Su-35SがSu-27Mよりも低機動性かと言うと、実はそうでもないようです。
ちなみにSu-27M初期生産型5号機と6号機には、一時的に推力偏向ノズル付きエンジンが搭載されたことがあります。この2機には別途「Su-37」という別の名前が与えらました。しかし5号機は墜落し失われ、6号機は試験終了後元のエンジンに戻され、名称もSu-27M(Su-35)へ再び改称され、現在Su-37という名称の航空機は存在しません。Su-37によって培われた飛行制御は、後にSu-35Sに活かされることになります。

Su-35S(Su-35BM)はロシア、中国で運用されているほか、インドネシアが導入予定。また数か国が導入を検討しているという(関 賢太郎撮影)。
搭載電子機器やソフトウェアなど「見えない部分」の違いは見た目以上により重要であり、Su-27Mはあくまでも「技術デモンストレーター」であるのに対し、Su-35Sは戦闘用のミッションシステムが組み込まれた「戦闘機」として実戦配備に就いている事実が、スホーイSu-35という同姓同名の両者を分かつ、本質的な相違点であると言えます。
2018年現在は単にSu-35と言えばSu-35Sを指していると理解してほぼ間違いありませんが、昔の本やゲームだと古いSu-27Mの方であるため、カナードの有無で見分けると良いかもしれません。
ちなみにT-10M(スホーイ社内名)=Su-27M(ロシア空軍向け)=Su-35(輸出向け)=Su-37(推力偏向型)であり、T-10BM(スホーイ社内名)=Su-35BM(初期の名称)=Su-35S(実戦配備型)でありどちらのSu-35も複数の名前を持っています。

Su-35(Su-27M)プロトタイプ初号機のカナード。新しいSu-35Sにはこのカナードがない(関 賢太郎撮影)。