クルマと歩行者の事故を減らすべく、いま全国で「物理的な対策」が進行中。横浜市の生活道路では、通過車両のスピード抑制を目的として、道路から盛り上がった横断歩道の社会実験が行われています。
横浜市と国土交通省横浜国道事務所が、横浜市内で「スムース横断歩道」と呼ばれる新しいタイプの横断歩道を仮設し、2018年12月17日(月)まで社会実験を行っています。
横浜市緑区の生活道路に試験導入された「スムース横断歩道」。ゴム製ブロックが組み合わされ、ボルトで固定されている(画像:横浜市)。
ゴム製ブロックで横断歩道部分を10cm盛り上げた形。横断歩道と両側の歩道が同じ高さになり「スムース横断歩道」というわけです。横断歩道の左右(車道)はスロープ上になっています。また、ブロックの表面は赤く塗装され、スロープ部には白い三角形を各方向にふたつずつペイント。どのような効果があるのか、横浜市道路局に話を聞きました。
――横断歩道を歩道の高さにすることで、どのような効果があるのでしょうか?
通行車両のスピードを30km/h以下に抑える効果が期待されます。また歩行者にとっては、車道との段差がなくなり歩きやすくなるほか、車道よりも一段高くなるため、第三者からの視認性も向上します。
――赤い塗装と、前後の三角形にはどのような意味があるのでしょうか?
赤い塗装は注意喚起のため、三角形はハンプ(このような盛り上がり)の存在を示す路面表示です。この表示については、寸法などの統一的な規格が2016年に国で定められました。
――導入後はどのように変化したのでしょうか?
データを集めている最中なので詳細には言えませんが、見ている限りでは、ここを通過する車両の速度が落ちている傾向です。また、横断歩道を渡ろうとする歩行者がいる際、クルマは手前で一時停止しなければなりませんが、ここではほとんどそのルールが守られていませんでした。「スムース横断歩道」により一時停止するクルマが増えることも期待されます。
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この「スムース横断歩道」が施工された場所は、横浜市緑区中山町地区の市道です。幅が狭い生活道路ではあるものの、県道と県道をつないでいることから、およそ8割が付近に用のない通過車両とのこと。今回の実験では「スムース横断歩道」のほか、横断歩道がペイントされていないハンプや、ラバーポールと区画線によって車道の両端に障害物を設け、通行路を意図的に狭くする「クランク型狭さく」といった安全対策が同じ路線上に施されています。
交通事故減少、しかし歩行者事故は多い日本の現実今回の実験は、地域住民やPTA、警察、横浜市、そして国土交通省横浜国道事務所が連携して発足させた交通安全対策協議会の取り組みです。横浜国道事務所によると、ETC2.0のプローブ情報(実際にクルマが走行した位置や速度などの情報に基づき生成された道路交通情報)から中山町地区周辺の情報をピックアップして解析し、その結果に基づいて対策方針が決まったそうです。
いま、国土交通省が力を入れている課題のひとつが、このような生活道路の安全対策です。同省によると、2017年における自動車乗車中の交通事故死者数はG7(日本、アメリカ、カナダ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア)で最も低い一方、歩行中および自転車乗車中の死者数は人口10万人あたり2.0人と、G7でワーストです。
このため国土交通省では今回の実験と同様に、同省が保有するETC2.0のプローブ情報を活用した生活道路の交通安全対策を、2018年10月末現在で全国367市区町村、757のエリアで進めています。

交差点全体にハンプを導入する例も(画像:国土交通省)。
ちなみに現在、警察も自動車対歩行者事故の対策に注力しています。歩行者事故の多くが横断中に発生し、かつ信号機のない横断歩道の手前でクルマが十分に減速しない死亡事故も多発していることから、警察庁は10月に各都道府県警などへ「信号機のない横断歩道における歩行者優先等を徹底するための広報啓発・指導の強化について」を通達。2018年11月22日(木)から1週間、全国一斉のPRキャンペーンも初めて行われました。
警察庁は前出の通達で、2020年の「東京オリンピック・パラリンピック」開催を控え、「歩行者優先が定着している諸外国からの訪日外国人観光客の増加が見込まれることを考慮すると、横断歩道上での安全確保に向けた対策を速やかに講じる必要がある」としています。今後さらに、安全な道路環境に向けたハード対策、交通ルールを徹底させるソフト対策の両面が進んでいくかもしれません。
【画像】こぶこぶ、うねうね… 生活道路の様々な安全対策

中山町地区の市道に試験導入中の各種安全対策(画像:横浜市)。