商用車といえば白やシルバーのクルマが一般的ですが、近年、メーカー各社がカラーバリエーションを増やしています。実用車におけるこうした傾向、社会の変化を映し出しているようです。
商用車といえば、白やシルバーの車体色が一般的ですが、近年、各社ともカラーバリエーションを増やしています。
ホンダ「N-VAN」。基本グレードは白(手前)とシルバーの展開だが、上位グレード「+STYLE」シリーズで多くの色を設定している(画像:ホンダ)。
たとえばホンダが2018年7月に発売した軽バン「N-VAN」は、白やシルバーのほか、グレードにより黄色やピンクといった色を設定し、合計10色で展開。特に黄色を宣伝上のキーカラーとしていました。また同年11月には、軽トラック「アクティ トラック」に特別仕様車「タウン スピリットカラースタイル」として、青と白、赤と黒のツートンカラーをそれぞれ導入しています。
ダイハツでは軽バンの「ハイゼット キャディー」「ハイゼット カーゴ」、軽トラック「ハイゼット トラック」にオプションとして「選べるカラーパック」を設定。それぞれ基本色である白とシルバーのほか、オプションでオレンジやカーキ、ピンクなど5~6色が選択可能です。また、スズキは軽バン「エブリイ」を6色、軽トラック「キャリイ」を5色で展開しており、その多くはオプションではなく標準仕様となっています。
このほか、トヨタのライトバン「プロボックス」「サクシード」は6色、ワンボックスタイプの「ハイエース(スーパーGL)」は7色の展開。日産も、ワンボックスタイプの「NV350 キャラバン」で8色、「NV200 バネット(バン)」で7色。軽から比較的大きなバンまでカラフルになっているのです。
ダイハツでは2014年、「ハイゼット トラック」のモデルチェンジが、多色展開のきっかけになったといいます。
「モデルチェンジに際し『農業女子』と呼ばれる方々にヒアリングし、その意見を盛り込みました。実用車の多色展開はマストではないものの、『白やシルバーだけでは寂しい』という声があり、初めてトラックにもカラーを増やしたのです」(ダイハツ)
また、トラックを使うシーンも変化していると、ダイハツは話します。「たとえば、従来は作物を農協におろすのが一般的でしたが、いまは有機野菜を売りにしたオシャレなレストランなどのお店へ直接おろしに行くケースが少なくありません。そうしたときに『軽トラもオシャレにしたい』といった意見がありました」とのこと。
「ハイゼット トラック」における色のシェアは、基本色の白とシルバーでそれぞれ約70%と約15%。残り15%の人が「選べるカラーパック」を選択していますが、これは、オプションとしては少なくない割合だといいます。また、特にバンタイプの車種は、カラーオプションを選択し、レジャーで使用する人も増えているそうです

ダイハツ「ハイゼット トラック」。最も右列が基本色、ほかはオプションとして選択可能(画像:ダイハツ)。
スズキも、多色展開は農家の変化を意識しているようです。
「農家さんでは若い世代への代替わりが進んでいます。親御さんから受け継いだ白いトラックを使っていた人が、お嫁さんを迎えるにあたり、白ではない色のクルマを選択されるケースもあります」(スズキ)
スズキの軽トラックにおける色のシェアも、7割が白、2割がシルバーで、残りの色は合計して1割程度だといいます。
こうしたなか、新型の軽バンとして全10色で登場した「N-VAN」について、ホンダは次のように話します。
「様々な業種にマッチするカラーを提供することのほか、ライフスタイルや働き方の変化も踏まえて10色を設定しました。たとえば個人事業主の方であれば、仕事と休みの日とで、使い方は一辺倒ではありません。個人で事業を立ち上げる方も増えているなかで、ものを運ぶだけではない、これからの『商用車としての使いやすさ』を追求しました」(ホンダ)

スズキ「エブリイ」は6色展開(画像:スズキ)。
とはいえ、「N-VAN」でもボリュームとして最も大きいのはやはり「白系」とのこと。法人からの大量受注があるためです。スズキも「白やシルバーは汚れも目立たず、扱いやすく、社名のロゴなどの装飾もしやすいでしょう」と話します。
ダイハツによると、30年ほど前までは現在のように「色つき」の商用車も多かったものの、だんだんと白、シルバーに集約され、特別色として黒や紺が設定される程度だったそうです。いま、商用車が再びカラフルになっているのは、社会変化の表れといえるかもしれません。
ちなみに、スズキによると、軽トラックや軽バンといった商用車でオートマの設定が広がってきたのも、世代交代や女性ユーザーの増加など、乗る人の多様化が背景にあるといいます。