自衛隊の一部車両には、その名も「コンバットタイヤ(戦闘用)」なるタイヤが装着されており、パンクに強いといいます。どんなものなのでしょうか。
クルマのタイヤのパンクは、いつでも、どんなクルマにでも起こりうる現象です。それは自衛隊の車両においても同様で、パンクにより戦場で身動きが取れなくなれば、それ以上、敵を追いかけることができなくなったり、あるいは敵の標的になってしまったりといった事態に陥るでしょう。
陸上自衛隊の装輪装甲車である87式偵察警戒車には「サイドウォール強化型コンバットタイヤ(後述)」が装着されている(矢作真弓撮影)。
こうした事態を避けるために、自衛隊の装輪装甲車などは、パンクしたあとでもある程度、走行することができる「ランフラット性」を持たせた「コンバットタイヤ(戦闘用タイヤ)」を装着しています。いわゆる「ランフラットタイヤ」に分類されるもので、この種のタイヤは、もちろんものにより性能差はありますが、欧州車や日本車の一部高級車などにおいて近年(2019年現在)、普及が見られるほか、「ゆりかもめ」など新交通システムのタイヤにも採用されるものです。
ランフラット性を持たせる方法としては、大きくふたつに分けられます。タイヤのショルダー部分(走行面に対して側面)に剛性を持たせて強くした「サイドウォール型」と、タイヤ内部に仕切りのようなものを入れ、タイヤが潰れないようにしている「中子(なかご)型」で、いずれも軍需用、民生用ともに見られます。
そもそも「ランフラットタイヤ」とは?ランフラットタイヤのうち、「サイドウォール型」は、タイヤの空気が抜けた後でも、タイヤ側面に組み込まれた補強ゴムの力でタイヤの形状を保つものです。ISO(国際標準化機構)規格では、80km/hで約80km連続して走行することが求められています。
一方の「中子型」は、タイヤの中空部といわれる空気などが満たされている部分に、金属などでできた軽量の仕切りのようなものを入れて、パンクした時には、その仕切りでタイヤを支えて形状を保つようにしています。こちらも、サイドウォール型と同じ程度の速度で、同じくらいの距離を連続走行することができるそうです。
陸上自衛隊が保有する、ランフラットタイヤが採用された代表的な装輪装甲車として、たとえば82式指揮通信車と87式偵察警戒車には「サイドウォール強化型コンバットタイヤ」が装着されています。
96式装輪装甲車には「中子型コンバットタイヤ」が装着されていて、装甲車ではありませんが、高機動車にも同様のものが装着されています。ちなみにこの高機動車ですが、タイヤの取り付け部分にタイヤ空気圧復帰用のエアタンクが装着されていて、車内のボタン操作でタイヤの空気圧を上げられるほか、泥濘地などでタイヤの接地圧が欲しいときには、逆に空気圧を下げることもできます。
もちろんお値段はお高めランフラットタイヤは、万が一の際のパンクにも対応できることから、自衛隊の全装輪車両に導入してもよいと筆者(矢作真弓:軍事フォトライター)は思うのですが、一般的なタイヤと比較して価格が高いため、全てに取り付けられているわけではないようです。もちろん、どの車両にどのタイヤを取り付けるのかは、その時々の防衛力構想や予算などで決定されるものでもあります。
また、整備性も通常のタイヤと異なるため、ランフラットタイヤを導入するには、価格面だけではなく、多角的な視点から検証する必要があるようです。

「中子型コンバットタイヤ」を装着した96式装輪装甲車。走破性を高めるために前輪にチェーンを巻いている(矢作真弓撮影)。
ランフラットタイヤそのものは、1980年代頃に身体障害者向けのクルマ用に開発されたものが発祥といわれていて、その後は一般車において、たとえばスーパーカーに採用されたり、スペアタイヤを積まないことで車内スペースを確保するために採用されたりし始めました。自衛隊車両でも、80年代から90年代にかけて多く採用され始め、その後、2000年代には欧州のクルマメーカーが中心となって積極的に採用し、クルマ市場へ一気に浸透していったようです。
このように、コンバットタイヤはランフラットタイヤの一種といえるわけですが、では、一般のクルマに使用されるそれと、なにか異なる点はあるのでしょうか。
一般的なランフラットタイヤとの違いはあるの?「コンバットタイヤ」はその名の通り、戦場における使用を想定したものです。たとえば、敵の小銃弾によってタイヤを撃ち抜かれたとしても、これまで述べてきたように、ランフラットタイヤの性能を持っているため、ある程度の距離を走り抜けられます。
また、泥濘地などの不整地でも走れるように、タイヤの溝(パターン)が大きいことも特徴です。大きくボコボコした溝は、細かい石などを挟みこむことがなく、不整地であってもスリップしにくく、力強く進んでいけるようにデザインされています。

82式指揮通信車には「サイドウォール強化型コンバットタイヤ」が取り付けられている(矢作真弓撮影)。
そして、ひと口に「コンバットタイヤ」といっても、車種ごとに別のものが用意されています。
「車種ごとにタイヤサイズが異なるため、それぞれ別のタイヤを使用しております。また、車種により夏用、冬用があります」(陸上自衛隊補給統制本部 広報)
ただし材質的には、なんら特殊なものは使われていないそうです。
また、上述の「冬用」とは、いわゆる「スタッドレスタイヤ」のことです。もちろん、一般的なスタッドレスタイヤと同様の構造を持つものの、自衛隊車両の多くは一般的なクルマに比べ重いため、凍結路面や演習場などでは、チェーンを巻くなどして事故の予防措置を施しています。
【写真】指先ひとつでタイヤの空気圧を変更可、陸自「高機動車」

ボタンひとつでタイヤの空気圧を変えられる高機動車(矢作真弓撮影)。