一部のタクシー事業者では、通常の営業だけでなく、クルマのトラブルに駆けつけたり、様々な「おつかい」に応じてくれたりします。そのような業務は「救援事業」と呼ばれ、ダッシュボードの表示器で「救援」と表示されることもあるのです。
クルマのバッテリーが上がってしまいエンジンがかからず、タクシーを呼んでブースターケーブルを自車のバッテリーにつなぎ、救援(いわゆるジャンプスタート)してもらったという、体験談がインターネット上で見られます。
墓地に停まるタクシーのイメージ。墓の掃除を救援事業として提供している事業者もある(画像:tupungato/123RF。一部加工)
実はこうした「救援」も、タクシーの業務として提供されています。神奈川県で救援事業を展開するタクシー事業者などによる業界団体、神奈川県生活支援ネットワーク協同組合に聞きました。
――「タクシーの救援事業」とは、どのようなものなのでしょうか?
タクシーのような「緑ナンバー」の運送用車両は本来、お客様を乗せて初めて料金をいただくことができますが、その車両を使って行う、普通の運送では収まりきらない事業全般を「救援事業」といいます。当協会では「Qタク」という名で、会員事業者へ実際によくあるご依頼から、サービスを「救援」にかけて9つ打ち出しました。そのひとつに、バッテリー上がりの救援や、タイヤ交換といった「クルマの119番」サービスがあります。
――ほかにどのようなサービスがあるのでしょうか?
買い物の代行や、病院の予約取り、バイク便と同じような荷物の宅配サービス、ペットの送迎などです。たとえば「電球を買って家に交換しに来てほしい」「そちらの営業所前の自販機でしか売っていないタバコを届けてほしい」といったご依頼が実際にあります。お客様ひとりひとりを知っているような、地域密着の営業ならではのことで、全体としては稀なケースではありますが、これらをメニューとして打ち出したのが「Qタク」というわけです。
「陣痛タクシー」も救援事業から生まれた――よく利用されるサービスは、どのようなものでしょうか?
お年寄りなどを病院まで送迎し、診察の付き添いも行う「介護タクシー」が挙げられるでしょう。
――どのようなタクシー事業者でも救援事業を行っているのでしょうか?
いえ、救援事業を行うには国へ届け出が必要です。提供するサービスの内容は事業者ごとに異なり、地域性もあります。「クルマの119番」サービスなどは、都会に近くガソリンスタンドが多い地域では、それほど需要がありませんが、郊外になると実施事業者が増える傾向です。

神奈川県生活支援ネットワーク協同組合に加盟し、救援事業を行っている三和交通の車両(2018年12月、中島洋平撮影)。
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こうしたタクシー事業者が行う「救援事業」は1989(平成元)年に国から認可され、「救援タクシー」「便利屋タクシー」などと呼ばれています。ただし国の通達では、「本来のタクシー業務の遂行を妨げない範囲で」という旨も記載されています。
神奈川県生活支援ネットワーク協同組合の会員事業者は、2002(平成14)年のタクシー参入規制緩和(いわゆる「タクシー自由化」)前後に、新しい取り組みとして救援事業の届出を行ったところが多く、さらに共同で「Qタク」のパンフレットなどを作成したそうです。
線引きが難しい部分も全国ハイヤー・タクシー協会によると、こうした「救援」中のタクシーは、ダッシュボードにある「空車」「迎車」などの表示器で「救援」と表示することが、国から通達されているといいます。「お客様を乗せずに営業していることがあるため、通常の営業と区別するという趣旨」とのこと。
同協会でも、地方を中心にこうしたサービスがあるということを、広報誌などでPRしているそうです。

通常のタクシーと、「救援タクシー」の違いを示す例(画像:三和交通/内閣府)。
そうしたなか、神奈川県生活支援ネットワーク協同組合に加盟する三和交通(横浜市港北区)が2017年に、救援事業の一環として緊急的な手荷物の配送に応じるサービスを始めようとしたところ、貨物輸送にあたるとして監督官庁から「待った」がかかり、サービスは凍結されました。
一方、その数か月後には、従来は認められていなかったタクシー事業者による貨物運送事業を、「過疎地域に限り」認可を得たうえで行うことを、国が許可しています。インターネット通販の荷物輸送が増加するなか、貨物事業者の人手不足が顕在化しており、それを補うひとつの手段とされたのです。引き続き、タクシーにおける貨物輸送のあり方や、救援事業のあり方が、国や関係者間で議論されています。
【画像】こんなことまでタクシーで!? 「救援事業」の数々

神奈川県生活支援ネットワーク協同組合の「Qタク」パンフレットより。一部サービスは現在実施されていない(画像:神奈川県生活支援ネットワーク協同組合)。