世界最長の滑走路は、日本国内のそれと比べ、文字通りケタがひとつ違います。所在するのはアメリカのエドワーズ空軍基地。
飛行機が離着陸する飛行場には、必ず「滑走路」があります。日本で最も長い滑走路は成田空港および関西国際空港にあり、実に4000mにも達します。
滑走路の本数では、羽田空港の4本が最多です。新千歳空港は滑走路2本ですが、隣接する航空自衛隊千歳基地にも2本、滑走路があり、これらをひとつの飛行場と見なせば、やはり合計は4本となります。
エドワーズ空軍基地と縦横に走るロジャース乾湖の滑走路。年1回、滑走路の線を引いている(画像:アメリカ空軍)。
滑走路は、飛行機を運用する上で欠かせない施設です。飛行機という空を飛ぶ乗りものは、主翼から発生する上向きの力「揚力」を利用して飛翔します。そして揚力の強さは速度の2乗に比例するため、飛行機が離陸するには十分な揚力を確保できる速度まで加速しなくてはならず、着陸時は逆に最低限の揚力を確保した状態で地上に降り、制動しなければなりません。つまり機体が重いほど大きな揚力、すなわち速度が必要となります。
では世界で最も長い滑走路、そして最も多くの滑走路を有する飛行場はどこでしょうか。
その答えは、アメリカ西海岸カリフォルニア州ロサンゼルスから北北東へ約100km、モハーベ砂漠のただなかに建設された「エドワーズ空軍基地」です。
世界最長滑走路は幅もハンパない!エドワーズ空軍基地の滑走路本数は、なんと14本。これはアメリカ最大の民間空港である、シカゴ・オヘア空港の8本をも遥かに上回り、文句なしに世界最多の滑走路を持つ飛行場となっています。
そして、エドワーズ空軍基地に存在する「滑走路17/35」が世界最長の滑走路であり、こちらも驚きの1万1909mという破格の長さ。これはおそらく、ボーイング747「ジャンボジェット」でさえ、離陸しそのまま着陸するのに十分な長さであると思われます。そのうえ幅が274mもあるため、小型自家用機ならば滑走路を横切るように使っても離着陸できるでしょう。
エドワーズ空軍基地における2番目に長い滑走路は8771m、3番目に長い滑走路は2本あり7033mとなっています。なぜエドワーズ空軍基地には、このように格別に長大な滑走路があり、しかも合計14本も存在するでしょうか。

ドラッグシュート(減速用パラシュート)開発試験のために乾湖へ着陸するB-52爆撃機(画像:NASA)。
実はエドワーズ空軍基地のこれら滑走路は、「ロジャース乾湖」と呼ばれる最終氷期(およそ7万年前から1万年前まで)に干上がったと推測される湖を、自然そのままに使ったものです(舗装された普通の滑走路もあり)。
2019年現在、エドワーズ空軍基地は空軍第412試験飛行航空団と、連邦航空宇宙局(NASA)アームストロング飛行研究所(旧名ドライデン飛行研究所)などの実験飛行場となっています。

1981年4月14日、最初のミッション(STS-1)を終え、宇宙から帰還し乾湖へ着陸するスペースシャトル「コロンビア」(画像:NASA)。
世界初の超音速機ベルX-1、人類最速となる7274km/hを叩き出したノースアメリカンX-15、1980年代から2010年代にかけ、アメリカの有人宇宙飛行を支えた「スペースシャトル」など、数多くの機体がロジャース乾湖を常用の滑走路として使用しています。
またこれら実験機や宇宙船だけではなく、F-22やF-35といった戦闘機をはじめとするアメリカ軍実用機のほとんどすべての機種も、エドワーズ空軍基地において開発試験が行われています。とはいえやはりこうした通常の飛行機は、ロジャース乾湖を使うことはあまりなく、前述のコンクリート舗装された通常の滑走路を使っているようです。
アメリカ製の軍用機・実験機の写真において、平坦な砂漠に置かれたものや、その上空を飛行している写真を見かけた場合、多くはロジャース乾湖で撮影されたものであると思ってほぼ間違いありません。そしてその湖底の滑走路は試験飛行のほか、おもに緊急着陸用として使われ、いつでもどこでもあらゆる方角へ多様な緊急着陸の選択肢を提供し、これまでアメリカの最先端航空技術開発を支え続けてきたのです。
第2次世界大戦後、アメリカは航空技術において常に世界をリードしてきました。いわば人類の航空技術の大部分は、このロジャース乾湖から生まれたともいえるのではないでしょうか。ロジャース乾湖はいまなお、現役の滑走路として整備され続けています。

火災を抑制する燃料添加剤実証試験のため、ロジャース乾湖へ模擬墜落させたボーイング720(画像:NASA)。