無人航空機の実用化が進み、有人戦闘機の戦い方も大きく変わろうとしています。世界各国やメーカーの描く戦闘機の将来計画からは、「戦闘機」という存在そのものの変化すら見て取れ、そして具体化に向け、すでに動き始めています。

頼れる僚機はみな無人機という未来がすぐそこに

 ボーイングは2019年2月27日、オーストラリアのメルボルン郊外、アバロン空港にて開催された「オーストラリアン・インターナショナル・エアショー」の会場で、戦闘機などの有人航空機と協働する無人航空機システム「ボーイング・エアパワー・チーミング・システム(Airpower Teaming System。以下『ボーイングATS』)」を発表しました。ボーイングとオーストラリアが共同で開発するもので、発表会場には、オーストラリアのクリストファー・パイン国防大臣とオーストラリア空軍のギャビン・デービス参謀総長が臨席、両氏によって無人航空機の大型模型が披露されています。

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「オーストラリアン・インターナショナル・エアショー」の会場で披露された「ボーイングATS」の大型模型(画像:ボーイング)。

 同機は全長11.7m、航続距離は3700km以上となる見込み。AI(人工知能)技術を活用した自律飛行が可能で、安全な距離を保ちつつ、戦闘機や早期警戒管制機、哨戒機などの有人航空機を支援します。

 ボーイングはこの無人航空機について、情報収集、警戒監視、偵察と電子戦を用途として挙げる一方、速度性能などはまだ明らかにしていないものの、戦闘機のようなパフォーマンスを発揮できる航空機になるとの見通しも示しています。オーストラリアのテレビ局ABCは、同機についてウェポンベイ(兵器倉)を備えると報じており、空対空戦闘や対地攻撃などの用途に使用される可能性もあります。

 今後、ボーイングは研究開発活動の一環として、オーストラリア政府と共に「ロイヤル・ウィングマン・アドバンスト・デベロップメント・プログラム」という名称の技術実証機を開発、2020年の初飛行を予定しており、これによって得られる知見を、「ボーイングATS」の開発に活用していく方針を示しています。

パイロット不足も引き金に 各国の開発状況は…?

 現代の戦闘機は性能の向上にともない、価格も高騰し続けています。また少子高齢化や、LCC(格安航空会社)の普及などにともない、パイロットの確保がますます困難になると予想されていることもあって、先進諸国では有人航空機と協働しこれをサポートする、無人航空機の研究開発に取り組んでいます。

 2019年3月5日に初飛行した、アメリカの空軍研究所とクラトス・ディフェンス・セキュリティー・ソリューションが共同で開発を進めている技術実証機「XQ-58A バルキリー」は、「ボーイングATS」と同様、適切な距離を保ちながら戦闘機と共に飛行する能力を持つことを目標としています。

 全長は「ボーイングATS」よりやや小さい8.8m、目標航続距離は約3900km、最大速度は1050km/hで、情報収集、偵察、電子戦のほか、胴体下部のウェポンベイ(兵器倉)に精密誘導爆弾のJDAMや、小型精密誘導爆弾のSDB(小直径爆弾)を搭載して、対地攻撃を行なうことも計画されています。

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2019年3月に初飛行したXQ-58A「バルキリー」(画像:アメリカ空軍)。
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無人機型を盛り込む「テンペスト」のコンセプト図(画像:チーム・テンペスト)。
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ダッソーの新戦闘機と無人航空機のコンセプトモデル(画像:ダッソー・アビエーション)。

 このほか、イギリスが2018年7月に開発を発表した新戦闘機「テンペスト」の計画や、フランスとドイツが2017年7月に共同開発で合意した新戦闘機計画にも、無人航空機との協働が盛り込まれています。

 イギリスは有人機である「テンペスト」をベースとする無人航空機、フランスとドイツは新設計の、ステルス性能を追及した新型無人航空機の開発をそれぞれ構想していますが、両計画とも有人戦闘機では撃墜されるリスクがある、レーダーと地対空ミサイルによって構成される敵防空網の制圧を、無人航空機に担当させるという点では一致しています。

 さらに、ロシアが開発を進めている無人攻撃機「オホートニク」も、同国の最新鋭戦闘機Su-57との協働作戦能力を持つと報じられているほか、中国が開発を進めている無人航空機「暗剣」も、戦闘機と協働する無人航空機なのではないかと見られています。

後れを取った日本、防衛省が模索するロードマップは…?

 日本では2010(平成22)年8月に防衛省が発表した、「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」で、戦闘機と無人航空機を協働させる構想が示されています。

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防衛省の「将来の戦闘機に関する研究開発ビジョン」における将来戦闘機の運用概念図。無人航空機との協働構想が示されている(画像:防衛省)。

 航空自衛隊は、通常は練習機として使用しているため戦闘機の保有上限を定めた「定数」にカウントされないF-15DJとF-2Bを含めて、約350機の戦闘機を保有していますが、1000機以上を保有する中国、800機以上を保有するロシアはもちろん、400機以上を保有する韓国にも、数の上では及びません。上述の研究開発ビジョンでは、戦闘機と無人航空機の協働を、数的劣勢を補うための手段のひとつと位置づけています。

 また同ビジョンでは、戦闘機と無人航空機の協働技術が実用化される時期を2040年代から2050年代としていましたが、防衛省は厳しさを増す日本の安全保障環境や、各国の動向などを考慮して、2016(平成28)年8月に発表した「将来無人装備に関する研究開発ビジョン」で、2046年には実用化する方針を示しています。

 ただ、残念ながら日本は、無人航空機の分野では先進諸国に比べて遅れをとっており、防衛省は独自の研究開発を進める一方で、外国との協力も模索しています。同省は、2017(平成29)年3月にイギリス国防省と締結した、将来戦闘機における協力の可能性をさぐるための情報と意見の交換を行なう取り決めで、有人戦闘機だけでなく、無人航空機を含めた「将来戦闘航空システム」についても、日英両国の協力の可能性を探っていくことを明らかにしています。さらにアメリカなどの国々とも、将来戦闘機と将来戦闘航空システムの協力について話し合う方針を示しています。

 冒頭で触れた「ボーイングATS」は、オーストラリア空軍だけでなく、オーストラリアの同盟国や友好国への輸出も想定されており、ボーイングは導入国が自国の運用要求に応じて、無人航空機に自国のシステムを搭載できると述べています。おそらく防衛省は、事実上の準同盟国であるオーストラリアの主導で開発される「ボーイングATS」についても、協力に向けた話し合いを進めていくのではないかと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

【写真】F/A-18F「スーパーホーネット」は「ボーイングATS」で「女王蜂」へ

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F/A-18F「スーパーホーネット」戦闘機と協働する「ボーイング・エアパワー・チーミング・システム」のイメージ(画像:ボーイング)。

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