青森県沖で墜落したと見られる航空自衛隊F-35A戦闘機の捜索に、文部科学省の関連機関である海洋研究開発機構の海底広域研究船「かいめい」が投入されます。広大な範囲を、具体的にどのように捜索するのでしょうか。
2019年4月9日19時25分ごろ、航空自衛隊の最新鋭ステルス戦闘機F-35Aは、同三沢基地(青森県三沢市)の東方約135kmの太平洋上にて機影がレーダーから消え、連絡も取れなくなりました。消息を絶った同機は海へ墜落した可能性が大きく、24日(水)現在もなお、自衛隊や海上保安庁が捜索を進めています。
4月23日(火)、岩屋 毅防衛大臣は閣議後の記者会見で、このF-35A戦闘機墜落事故に関して、文部科学省所管の研究機関である海洋研究開発機構(JAMSTEC)の保有する海底広域研究船「かいめい」が、機体の捜索活動に参加することを発表しました。
海洋研究開発機構の海洋広域研究船「かいめい」(貝方士英樹撮影)。
この海底広域研究船「かいめい」とは、どのような船なのでしょうか。
「かいめい」は2016年に完成した新鋭研究船で、主要な任務は以下の3つです。
・海洋資源分布の広域調査、鉱物・鉱床の生成環境を捉える総合的科学調査を行うこと
・海底下構造探査、地震・津波に対する防災・減災研究を行うこと
・地球規模の気象現象の把握や環境変動の解明を行うこと
つまり、海底の地下に埋蔵されている石油や天然ガスなどのエネルギー資源の在り処を探し出したり、鉄やマンガン、希少金属なども含めた鉱物資源の分布とその生成過程を調査したりすることや、海底下の地質や地層構造を調べ、地震の発生メカニズムを明らかにし、防災対策などに生かすこと、そして、気象観測や海洋観測を行い、気候や地球環境の変化を捉え、分析・研究することです。
実際どのように調査している?「かいめい」の特徴は、海を広い範囲で探査する装備と能力を持ち、海底に有望なポイントを見つけたならば、ピンポイントでその資源サンプルなどを採取する機能を有した研究船だということです。
「かいめい」は海底調査のための、3000mのセンサー内臓ケーブルや音波発生装置、無人探査機、掘削装置などを搭載(貝方士英樹撮影)。
まず海底広域探査能力について。「かいめい」は「MCS(マルチチャンネル反射法探査システム)」と呼ばれる装置を搭載しています。これは音波を利用して、海底や海底下の地層を調べる装置です。
MCSによる探査方法は数通りあって、たとえば長さ3000mのストリーマーケーブルを4本曳(えい)航する方法では、一気に広範囲の海底地形データを取得することができます。調査する海域を行っては戻り、往来を繰り返すことで取得する海底地形データを面的に広げていき、作り出す海底地図は3Dの立体地形図とすることも可能です。海底の山や谷、海底にある物体などをも詳細に捉えます。「かいめい」はこのように、海底を見通す優れた目を持っているのが最大の特徴です。
次に海底試料採取能力について。「かいめい」はROV(Remotely Operated Vehicle、無人探査機)も搭載しています。船内から遠隔操作するこの海中ロボットは、水深3000mまで潜らせることが可能で、2本のマニピュレータという機械の腕を持ち、海底に観測装置を設置したり地質サンプルなどを採取したりといった海中作業ができます。荷物などの搭載可能量は250kgもあるので、重量物を引き揚げてくることも可能です。
なぜ「かいめい」が投入されるの?「かいめい」はおもに日本周囲の海を航海し、MCSを使い海底を広範囲に探り、海底埋蔵資源の存在が有望視された箇所を発見すれば、ROVやそのほかの採取装置を潜航させてサンプルを採取し、引き揚げたサンプルはすぐさま船内の研究室で観察・分析することができる研究船です。
ちなみに海洋研究開発機構は、「かいめい」を含め、8隻の研究船を保有・運航する組織です。1971(昭和46)年に設立され、再来年の2021年には設立50周年を迎えるこの組織は、海洋と地球を対象とする多種多様な研究を行っており、深海や海底下を調査するための装備や資機材の開発も行っています。代表的なものは、水深6500mまで潜航可能な有人潜水調査船「しんかい6500」や、海底下を大深度まで掘り進める科学掘削船である地球深部探査船「ちきゅう」などがあります。
「かいめい」は全長100.5m、5747総トンで、定員65名。船内に研究室などを備える(貝方士英樹撮影)。
こうした海底広域探査能力と海中作業能力を持つ「かいめい」が、F-35A戦闘機墜落事故の捜索活動に投入されることになった意味を考えてみます。
F-35A戦闘機が墜落したと思われる青森県東方の海域では現在もなお、海上自衛隊の護衛艦や潜水艦救難艦、海上保安庁の巡視船などが捜索を続けていますが、海は広く、機体の海没地点の特定どころか、墜落した海域の絞り込みにすら難渋している状況なのだと思われます。
そこで海底を見通す目を持った「かいめい」を投入。先述したMCSを使い、まずは広範囲に調べ、有望な手がかりを海底に見つけたならばピンポイントでROVを投入。ROVの高精細カメラで機影を捉え、海没地点を特定する……こうした捜索方法が考えられたのでしょう。これは「かいめい」の海底探査手法そのものでもあります。
あるいは、墜落した海域は大まかに判明したので、その範囲の中から、機体の海没地点を絞り込み、特定したいという段階にあるのかもしれません。そこで、海底地形を精細に描き出すことのできる「かいめい」の能力が必要になったのでしょう。
具体的な捜索は? 那覇で見られたあの赤い船も一方で、F-35A戦闘機の捜索にはアメリカ軍も協力態勢を敷いています。アメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦や対潜哨戒機などを現場海域へ派遣しての捜索はすでに終了したものの、岩屋防衛大臣は、アメリカ軍が海中探査用の民間船舶をチャーターして派遣する予定であることを示しています。この民間船とは、潜水作業支援船「ファン・ゴッホ」です。シンガポールのウルトラディープソリューションズ(UDS)社が保有運航しており、先ごろ沖縄県の那覇軍港へ展開していることが報告されました。
那覇軍港に停泊中の「ファン・ゴッホ」(2019年4月21日、恵 知仁撮影)。
「ファン・ゴッホ」が搭載する150tクレーンは水深3000mでの作業も可能だといいます。これは150tの重量物を3000mの海底から引き上げられる能力があるということです。F-35Aの機体重量は約13tですから、ウインチの巻き揚げ力は十分なものがあります。また、水深300mまで潜航可能な18人乗りの作業艇や、無人遠隔操作車両も装備しているといいます。
では、「かいめい」と「ファン・ゴッホ」はどのように捜索、引き揚げ作業を行うのでしょうか。
まず「かいめい」がMCSを使ってF-35Aの海没地点を特定し、ROVを潜航させて高解像度TVカメラで機体の損傷具合など海没状況を船上へリアルタイムで送信。捜索本部は引き揚げ作業の策定を開始します。ROVは音響トランスポンダなど信号発信装置を機体へ取り付け、さらに位置を明らかにして浮上します。
「かいめい」のROVと「ファン・ゴッホ」の無人遠隔操作車両はともに潜航し、引き揚げ用のワイヤーを取り付けるための工作を海没機体へ施します。そして「ファン・ゴッホ」の150tクレーンからワイヤーを延ばし、ROVが海底で接続、ウインチで海没機体を引き揚げます。
以上はあくまで仮定ですが、「かいめい」と「ファン・ゴッホ」の機能を比較すると、こうして作業を分担する様子が想像できると思います。最適な引き揚げ方法は、機体の損傷具合や海底の状況により決められることでしょう。
【写真】水深3000mでも活動可能、「かいめい」搭載のROV(無人探査機)
「かいめい」に搭載されているROV。ROVとはRemotely Operated Vehicleの略で、遠隔操作可能な無人探査機の意(貝方士英樹撮影)。