アメリカ海軍の艦載戦闘攻撃機F/A18-E/F「スーパーホーネット」が、アップデートし運用延長されることになりました。自衛隊は採用していませんが、在日米軍が運用しており、日本にも縁のある機です。
ボーイングは2019年3月1日、アメリカ国防総省とのあいだで、同国海軍のF/A-18E/F「スーパーホーネット」戦闘攻撃機を最新仕様の「ブロックIII」にアップデートし、運用寿命を6000時間から1万時間に延長する契約を締結したと発表しました。これにより「スーパーホーネット」はさらに能力が向上し、今後数十年間に渡って運用されることになります。
編隊飛行するアメリカ海軍のF/A-18E「スーパーホーネット」。写真は単座型で、同軍はほかに複座型のF/A-18Fを運用している(画像:アメリカ海軍)。
「スーパーホーネット」はアメリカ海軍の空母に搭載されている艦載戦闘攻撃機で、空対空戦闘、対地攻撃、対艦攻撃、偵察に加えて、空中給油までこなします。アメリカ海軍にとって不可欠な機ですが、実のところある航空機の開発計画が潰れたことから急遽開発された、いわばリリーフピッチャーのような存在でした。
アメリカ海軍は1980年代当時、空母に搭載する攻撃機として運用していたA-6「イントルーダー」の後継機として、マクドネル・ダグラスとジェネラル・ダイナミクスへ委託し、ステルス攻撃機A-12「アベンジャーII」の開発を進めていました。しかし1991(平成3)年のソ連崩壊により冷戦が終結したことで、アメリカの国防費が大幅に削減されたことと開発コストが高騰しすぎたことから、同1991年に開発が中止されてしまいます。

テキサス州フォートワースの航空博物館にて、A-12の実大模型(竹内 修撮影)。

空中給油ポッドを使用してF/A-18Eに給油するF/A-18F(画像:アメリカ海軍)。

F/A-18E/Fの最新仕様「ブロックIII」のイメージCG(画像:ボーイング)。
アメリカ海軍だけで620機の生産が計画されていたA-12の開発中止は、当時、経営状況が悪化していたマクドネル・ダグラスにとって大きな痛手となりました。このため同社はアメリカ海軍と海兵隊、フィンランド空軍などに採用されたF/A-18C/D「ホーネット」の主翼と胴体を大型化して、より強力なエンジンを搭載する輸出仕様機として計画していた「ホーネット2000」をアメリカ海軍に提案。アメリカ海軍はこの提案を受け入れて、「スーパーホーネット」が誕生したというわけです。
似て非なる「ホーネット」と「スーパーホーネット」「スーパーホーネット」の外見は、一見すると「ホーネット」によく似ています。しかし、主翼の大型化や強化型エンジンの採用、胴体と主翼が大型化したほか、ステルス性能を高めるため、空気取り入れ口の形状を「ホーネット」の楕円形から、レーダー波を反らしやすい平行四辺形に変更するなど、よく見るとかなり違っているのがわかるでしょう。また内部の構造も大幅に変更されたことから、「スーパーホーネット」と「ホーネット」の部品の共通性は1割程度しかなく、まったく別の戦闘機になったといえます。

F/A-18E/Fの原型となった、単座型のF/A-18C「ホーネット」(画像:アメリカ海軍)。
ただ、F/A-18A/B/C/DとF/A-18E/Fの外観が似ているのは確かで、また「ホーネット」という愛称も共通していることから、軍事関係者は混同を避けるため非公式に、F/A-18C/Dとその原型機であるF/A-18A/Bを「レガシーホーネット」、F/A-18E/Fを「スーパーホーネット」と呼んで区別しています。
最初期に量産された「スーパーホーネット」は、「ホーネット2000」のコンセプトをそのまま形にしたものでした。しかし、メーカーであるマクドネル・ダグラスが1997(平成9)年にボーイングへ吸収合併された後の2003(平成15)年から量産が開始された「ブロックII」仕様機は、レーダーを航空自衛隊のF-2戦闘機やF-35A「ライトニングII」戦闘機などと同様に、探知距離が長く故障が起こりにくい「アクティブ・フェーズド・アレイ・レーダー」へ変更されたほか、通信機能や自己防御能力が強化されるなど、大幅に能力が向上しています。
また2006(平成18)年度から発注された「ブロックIIプラス」仕様機は、コンピューターが更新されたほか、レーダーでは捉えにくいステルス性能の高い目標を探知できる「IRST」(赤外線捜索追尾システム)を内蔵した燃料タンクの搭載が可能になりました。
現状の他機種比較と今後「スーパーホーネット」は、最大速度や運動性能などの面では、同世代のライバルであるユーロファイター「タイフーン」やダッソー「ラファール」などに比べると、やや見劣りする感がありますが、現代の戦闘機にとって重要な「頭脳」と「目」、つまりコンピューターとレーダーなどのセンサーの能力では、これらのライバルたちを凌駕しています。
冒頭で述べた最新型の「ブロックIII仕様機」は、「スーパーホーネット」同士や、F-35などのほかの戦闘機、早期警戒機などと情報をやりとりするネットワーク戦能力の強化と、それにともなう通信能力の強化に加えて、大型多機能ディスプレイを使用する先進コクピットシステムの導入、さらには胴体上面にコンフォーマル燃料タンクを装着することで、航続距離の延伸と、兵装搭載量の増加が図られました。
ボーイングは、今後も「スーパーホーネット」の能力をさらに向上させるため、次世代型レーダーと電子戦装置の搭載、機体全周のステルス性能と、飛行性能を向上させるためのデザインの一部変更、エンジンの改良などを計画しているとのことです。
2019年5月末の時点で、「スーパーホーネット」はアメリカ海軍とオーストラリア空軍、クウェート空軍に採用されていますが、ドイツ空軍やフィンランド空軍などにも提案が行なわれており、ボーイングの能力向上計画が実現すれば、さらに採用国が増える可能性もあります。

空母甲板上にズラリと並んだF/A-18E/F「スーパーホーネット」(画像:ボーイング)。
ところで、「スーパーホーネット」には単座型のF/A-18Eと、複座型のF/A-18Fのふたつのタイプが存在しますが、F/A-18Fからは電子攻撃機のEA-18G「グラウラー」が開発されています。
電子攻撃機とは、搭載する発信機から発信する電波で敵のレーダーによる探知や通信を妨害して、味方の戦闘機などに対する攻撃を阻止すると共に、レーダー波や通信信号を受信して、その発信源に向けて飛翔する「対レーダーミサイル」によって、敵のレーダーや通信施設を破壊する「敵防空網制圧」の、ふたつの任務をこなせる航空機です。
電子攻撃機は自衛隊にも採用されるのか?電子攻撃機の開発には、攻撃対象となるレーダー波や通信信号のデータベースが必要なことから、高い情報収集能力を持つ国にしか開発できません。それゆえに機密性も高く、「グラウラー」はアメリカと情報収集網を共有し、相互に利用する協定を締結しているオーストラリアにしか輸出されてきませんでした。

F/A-18Fをベースに開発された、電子攻撃機のEA-18G「グラウラー」(画像:ボーイング)。
しかしアメリカ政府は今年になって「グラウラー」の輸出方針を変更し、現在フィンランド空軍が運用しているF/A-18C/Dを後継する新戦闘機調達計画「HX」へ、ボーイングが「スーパーホーネット」と「グラウラー」をセットで提案することを認め、この提案が採用された場合は「グラウラー」を輸出することも許可しています。
日本では北朝鮮の弾道ミサイルの脅威が顕在化して以来、その被害を最小限に抑えるために弾道ミサイル発射基地などを攻撃する「策源地攻撃」の是非をめぐる議論がなされており、仮に策源地攻撃を行なうのであれば、電子攻撃機を導入すべきとの意見も根強く存在しています。
実のところ2018年12月18日に発表された、おおむね10年後までを念頭に置いた日本の安全保障政策の指針となる「新防衛大綱(防衛計画の大綱)」と、防衛大綱の適用開始から5年間の間にどのような政策を実施し、どのような防衛装備品を導入するかを定めた「新中期防衛力整備計画(中期防)」には、電子攻撃機の導入が盛り込まれる可能性も大いにありました。
最終的に航空自衛隊のF-35Aが一定の電子攻撃能力を備えていることや、策源地攻撃の是非をめぐる議論に結論が出なかったこと、さらには予算の不足もあって、新防衛大綱と新中期防での電子攻撃機の導入は見送られています。
しかし国内外の急激な変化によって、日本の安全保障のあり方が変化しつつある現状を考えると、再び電子攻撃機の導入の検討が行なわれる可能性は高いと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思いますし、仮に日本が電子攻撃能力を獲得するのであれば、現時点で実用化されているもののなかで最良の選択は「グラウラー」であるとも思います。
【写真】F/A-18E/F「ブロックIII」仕様のコクピット

F/A-18E/Fの「ブロックIII」仕様コクピットのイメージ。F-35などと同様のタッチパネル式大型液晶ディスプレイが採用される(画像:ボーイング)。