超高速船ジェットフォイルの新造船が、25年ぶりに起工しました。全国で運航されているものの、メーカーである川崎重工の生産中止により代替ができなかったジェットフォイル、新造はどのようにして実現に至ったのでしょうか。
川崎重工業の神戸工場で2019年5月30日(木)、東海汽船が2020年の導入を予定している新しいジェットフォイルの起工式が行われました。竣工は2020年6月の予定です。
東海汽船が保有する4隻のジェットフォイルのひとつ「セブンアイランド愛」(2018年5月、中島洋平撮影)
「ジェットフォイル」は、船底から水面下へ延びる水中翼で揚力を得て、船体を持ち上げて航行する「水中翼船」の一種で、もともと航空メーカーであるボーイングが開発したものです。搭載された2基のジェットエンジンから、海水を勢いよく船尾へ噴射することで推力を得て航走、そのスピードは約80km/hに達し、国土交通省の定義では「超高速船」に分類されます。
日本では、ボーイングが建造から撤退したのち、川崎重工がライセンスを得て建造していました。同社により1989(平成元)年からの7年間で15隻のジェットフォイルが造られましたが、その後は生産が中止されたため、運航事業者は中古船を購入して若返りを図るなどしていました。今回の新造船起工は、じつに25年ぶりのことです。これにより、伊豆諸島航路で運航している「セブンアイランド虹」(1981年ボーイング製)の置き換えを計画している東海汽船に、詳しく話を聞きました。
――なぜいまジェットフォイルの新造に至ったのでしょうか?
「セブンアイランド虹」は現時点で運航には問題ないものの、船体の鉄板の耐久性などはどうしても落ちてくるため、いま代替しないといけないという認識がありました。これは川崎重工さんも同様で、かつてジェットフォイルの生産に関わっていた技術者の方が当時30代であれば、いまは60~70代になっています。いま造らなければ、その技術も、部品の調達ルートも途絶えてしまうという認識が一致したのです。
離島にはとても重要なジェットフォイル――ジェットフォイルにはどのような需要があるのでしょうか?
土砂災害や火山災害などのリスクを抱える伊豆諸島にとって、ジェットフォイルは非常に重要な存在です。
また当社では2002(平成14)年にジェットフォイルを投入して以降、お客様の層も変化しています。従来型の客船は東京~伊豆大島間を4時間以上かけて結び、東京発の便は夜行になりますが、ジェットフォイルならば最短1時間45分です。ジェットフォイルの投入でお子様連れのファミリーやご年配の方など、夜行の客船が苦手というお客様のご利用が増えました。

川崎重工の神戸工場で執り行われたジェットフォイル起工式の様子(画像:東海汽船)。
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他社の航路で運行中のジェットフォイルも、その多くは1980年代から90年代にかけて造られたもので、老朽化は待ったなしといった状況でしょう。東海汽船は新造ジェットフォイルの発注数を確保すべく、運航各社と話し合っていたものの、その船価がネックとなり、状況は好転していないようです。「当社の場合は東京都の補助があったので実現しましたが……」とのこと。
その東海汽船の新造船も、エンジンは既存船のものが流用されます。1隻だけでは、川崎重工側でエンジンの生産再開には至らなかったためです。また、「セブンアイランド虹」以外のジェットフォイルについても新造船へ置き換える希望はあるものの、2隻目以降については未定だといいます。
なお、今回のジェットフォイル新造船は「セブンアイランド結(ゆい)」の名で、2020年6月下旬に就航する予定です。