「73式装甲車」は、陸上自衛隊で45年以上使用されている、文字通り古参の装甲車両です。いわゆるキャタピラーを装備するのが特徴で、これが現役たらしめている理由のひとつといえます。

アメリカでの訓練の様子などを追いました。

アメリカでの訓練にも参加、陸自古参装備

 陸上自衛隊が保有する数ある装甲車のうち、古参のひとつといえるのが「73式装甲車」です。

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東千歳駐屯地記念行事で行進する73式装甲車(武若雅哉撮影)。

 73式装甲車は74式戦車の1年先輩にあたり、1973(昭和48)年に制式化され、いまだ現役で運用されています。ロートルとの声も聞かれますが、今年(2019年)の2月にはアメリカで行われた日米共同訓練においても使用されました。

 古さを隠せない装備品ですが、いったいどんな車両なのでしょうか。

73式装甲車は、それまで陸上自衛隊が運用していた「60式装甲車」の後継車両として開発されました。生産台数は約330両、全国の部隊へ配備されており、2019年現在は北海道の部隊が中心となって運用しています。ほか、九州の第8師団でも、火山噴火対応のために少数を保有しているといいます。

 さすがに車内は古さを感じさせるデザインなのですが、実は73式装甲車にしかできないことがあります。それは「戦車に追従することができる移動指揮所」としての役割です。

その強みは「戦車にもついていけること」

 先に触れたアメリカでの日米共同訓練では、73式装甲車が「移動指揮所」としての実力を発揮していました。

陸自73式装甲車が半世紀近く現役のワケ ほかの車両で代替できない、その役割とは?

写真中の73式装甲車に、車内天井をかさ上げする防弾板が見える(武若雅哉撮影)。
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アメリカの広大な演習場で訓練に参加する73式装甲車(武若雅哉撮影)。
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砂漠で訓練する時は、現地の砂を車体に塗って偽装する(武若雅哉撮影)。

 この訓練は戦車が中心となって行動することを前提にした訓練であったため、部隊はおもに装軌(いわゆるキャタピラー)車両で編成されていました。

 東京都の面積とほぼ同じ大きさの規模を持つ、カリフォルニア州のNTC(ナショナル・トレーニングセンター)で繰り広げられたアメリカでの訓練。広大な敷地は一見すると砂漠のように見えるのですが、実は遥か昔は海底であったことから、“砂”漠というよりは堆積したプランクトンなどが固まってできた“土”漠のような感じで、意外と起伏が激しくゴツゴツした地表面をしています。こうした環境ではやはり、タイヤのついた装輪車よりも装軌車のほうが移動しやすいもので、グングン進んでいく90式戦車に追従するのは、73式装甲車が得意とするところでもあります。

 ちなみに陸上自衛隊の「移動指揮車」といえば、「82式指揮通信車」や前途の「96式装輪装甲車」などが挙がりますが、これらはタイヤを装着した装輪式のため、悪路を進む戦車に追従するのは難しい場合があります。

謎の電子戦型ほか、派生型も現役稼働中

 移動指揮所として使用された73式装甲車の一部には、屋根を拡張して中で人が立てるようにしたものもありました。

 そうなのです。実はこの車両の車内は、天井高が低く立ち上がることができないのです。最大車高は2.21mとなっていますが、車内の高さはそこまでなく、中腰くらいにしかなれません。

そのため、簡易的に屋根を作り、そこの空間だけは立ち上がることができるようにし、少しでも仕事のしやすい環境を作っているそうです。

 ほかにも、地雷を処理する装置を取り付けたり、一見すると何に使うのかよくわからないアンテナを搭載したりした車両があります。この「よくわからないアンテナ」が搭載された73式装甲車を運用する部隊のひとつが、第7師団隷下の第7通信大隊です。部隊紹介を見てみると、北海道周辺を飛び交う様々な電波情報の収集などを行っているようですが、具体的に何をやっているのかは秘密のベールに包まれています。

陸自73式装甲車が半世紀近く現役のワケ ほかの車両で代替できない、その役割とは?

迫撃砲分隊の背後に73式装甲車。車内の天井の低い様子がうかがえる(武若雅哉撮影)。

 このように、北海道を中心としていまだに現役で活用されている73式装甲車ですが、将来的に後継となる新型装軌式装甲車が登場してくるという話は、まだ聞きません。戦車に追従することができる汎用装軌装甲車として、これからも大切に使われ続けていくでしょう。

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