乗りものの省エネルギー化技術のひとつに「回生ブレーキ」があります。ハイブリッド車の普及で耳にすることが増えた言葉ですが、鉄道では古くからある技術。
ハイブリッド自動車の普及とともに、「回生ブレーキ」という言葉をよく聞くようになりました。
回生ブレーキなど「省エネ化」の技術が多数採用された東京メトロ6000系電車(2018年12月、草町義和撮影)。
回生ブレーキは、電気モーターを発電機として動かすことで、止まろうとする力を大きくするブレーキです。自動車ではハイブリッド車の登場で近年普及したブレーキですが、鉄道では電車や電気機関車を中心に、古くから普及しています。
小さなモーターと豆電球をつなぎ、手を使ってモーターの回転軸を回転させると豆電球が点灯するという実験を、小学校の理科の授業で体験した人は多いでしょう。モーターは電力を供給することで回転しますが、逆に別の力でモーターを回転させると発電機になり、電力を生み出すことができるのです。
また、自転車の発電機(リムダイナモ)は、発電機の回転部分をタイヤに添わせることで回転し、ライトを点灯させるための電力を発生させますが、このときペダルがちょっと重くなったような感じがします。これはタイヤの回転エネルギーの一部が発電機によって電気エネルギーに変わったことでタイヤの回転する力が弱まり、結果的にブレーキをかけた状態になるわけです。
回生ブレーキは、これらの原理を応用したものです。モーターを使って走る乗りものの場合、モーターへの電力の供給を止めても、しばらくは惰性で車輪が回転し続けますが、この回転によってモーターを発電機として動かすことが可能に。回転エネルギーを電気エネルギーに変換して車輪の外に出すことで、ブレーキがかかります。
ただし、発電するだけなら「発電ブレーキ」といいます。回生ブレーキは、発電した電力を「再利用」するもの。たとえば、線路の上にある電線(架線)に発電した電力を戻し、周辺を走るほかの電車や電気機関車のモーターで消費したり、バッテリーに充電して使ったりします。
これにより、電力会社から購入する電力の量を減らすことができ、電気代の節約にもなるわけです。
当初の目的は「省エネ化」ではなかった回生ブレーキの歴史は古く、日本の鉄道では1928(昭和3)年にデビューした高野山電気鉄道(現在の南海電鉄高野線)の100形電車で、初めて採用されました。国鉄は1935(昭和10)年製のEF11形電気機関車に回生ブレーキを初めて導入。戦後の1951(昭和26)年にも、回生ブレーキを本格採用したEF16形電気機関車がデビューしています。
これらの車両は省エネ化が目的ではなく、山岳地帯に敷かれた急勾配の線路を走るため、回生ブレーキを採用しました。
摩擦材などを押しつけて車輪の回転を抑えるブレーキは、使っているうちにすり減り、メンテナンスの手間がかかります。一方で回生ブレーキは摩擦材を使わないため、特に強いブレーキをかけることが多い急勾配では、大きなメリットがあるのです。
1960年代以降は、消費電力の削減を目的に回生ブレーキを導入した電車が登場。1968(昭和43)年から製造された営団地下鉄(現在の東京メトロ)千代田線の6000系電車は、回生ブレーキなど電力を効率的に使える技術を採用したことで、従来の車両に比べて消費電力を2割ほど節約できたといいます。
さらに、1970年代には石油ショックを機に電車の省エネルギー化が進み、国鉄でも回生ブレーキを採用した通勤形電車の201系が1979(昭和54)年にデビューしました。いまでは多くの電車に回生ブレーキが導入されています。

ハイブリッド式や電気式のディーゼルカーでも回生ブレーキが導入されている。写真は電気式ディーゼルカーのJR東日本GV-E400系(2018年1月、恵 知仁撮影)。
また、近年はJR東日本のGV-E400系など、ハイブリッド方式や電気式のディーゼルカーなどでも回生ブレーキを採用する例が増えました。自動車のハイブリッド車と同様、回生ブレーキにより発生した電力をバッテリーに充電し、あとで加速するときの電力として使います。
【写真】回生ブレーキ付きの国鉄EF16形電気機関車

回生ブレーキを導入した国鉄EF16形電気機関車。奥羽本線や上越線の急勾配区間を走る列車の補助機関車として使われていた(1980年ごろ、草町義和撮影)。