名古屋を中心に岐阜や豊橋を結ぶ名鉄線には、ホームの幅がとても狭い駅があります。あまりに狭いため、事故防止を目的に「あること」が行われていますが、これを解消するための改修が決定。

工事が始まる前の同駅を訪ねてみました。

ホームにあるのは駅名標と非常ボタンだけ

 2019年6月19日(水)の午後、名古屋鉄道(名鉄)の名鉄名古屋駅で弥富行きの下り普通列車に乗りました。5分ほどで名古屋本線の西枇杷島駅(愛知県清須市)に到着。ドアが開くと、そこには非常に幅の狭いホームがありました。

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名鉄名古屋本線の西枇杷島駅(2019年6月19日、草町義和撮影)。

 西枇杷島駅は、庄内川を渡って名古屋本線と犬山線の線路が分かれる部分(枇杷島分岐点)から、西へ約300mの場所。

ホームは単に狭いというだけでなく、2本の線路に挟まれた島のような構造(島式ホーム)で、列車を降りると、並行する線路の姿が足元のすぐそばに見えます。

 駅の外に出て、周囲の道路から構内を見渡しました。線路は合計5本。列車が通過、または停車するための線路(本線)が上下2本あるほか、その両外側にも、後続の速い列車を先に行かせるために遅い列車を待避させるための線路(待避線)が上下2本あり、上下それぞれ本線と待避線のあいだに島式ホームが設けられています。このほか、北側にもホームのない線路が1本あり、構内の幅はかなり広いといえます。

 島式ホームの長さは80m(4両分)ほどしかありません。

幅は最大で約4m。ホームの端に至っては、幅が1m未満です。

名古屋の「せま~いホーム」消滅へ 名鉄の西枇杷島駅、改修前に訪ねてみた

駅の構内には5本の線路が並ぶ。
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本線と待避線のあいだにホームが設置されている。
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ホームにあるのは駅名標と非常通報ボタンのみ。

 ホーム上に設置されているのは駅名標と非常通報ボタンだけ。

屋根はありません。跨線橋や地下通路はなく、ホームと駅舎は構内の踏切で結ばれていています。

列車が来る直前までホームに入れない

 駅を拡張すればよいように思えますが、駅のすぐ東側には愛知県道67号の踏切と陸橋があり、すぐ西側にもJRの東海道本線と東海道新幹線の線路が名鉄名古屋本線をまたいでおり、そう簡単には拡張できません。

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西枇杷島駅の駅舎とホームを結ぶ通路。途中で踏切を渡らなければならない(2019年6月19日、草町義和撮影)。

 列車は頻繁にやってきて、駅の東西両端にある踏切の警報器は、数分おきのペースで鳴り響きます。

駅の西側で名古屋本線をまたぐ東海道本線と東海道新幹線の列車も、続々と通過。新幹線のN700Aや、コンテナを搭載した貨物列車など、様々な種類の列車を見ることができます。

 しかし、西枇杷島駅に停車するのは普通列車だけで、特急や急行などほとんどの列車は通過します。停車本数は上下各40本前後で、ほぼ30分間隔。利用者も都市部の駅としては少なく、1日あたりの乗車人員は約800人です。

 駅舎に戻り、16時ちょうどに発車する上り豊明行き普通列車で名鉄名古屋駅へ行くことにしました。

さっそくホームに出ようとしましたが、改札口の上のほうを見ると「ホームへの入場は 列車ごとの改札を行なっています 待合室でお待ち下さい」と記された案内が。ホーム上に客がいる時間をできるだけ短くして、狭いホームでも安全を確保できるようにしているのです。

 発車時刻まで残り8分となったころ、改札口の脇から駅員が現れました。ボタンを操作して構内踏切の遮断機を上げたあと、待合室に向かって「改札を始めます。列車の通過にご注意ください」と、声を張り上げます。

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西枇杷島駅の古びた駅舎。

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普通列車がほぼ30分間隔で停車している。
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列車ごとに改札を行っている旨の案内。

 上りホームに入ってしばらくすると、構内踏切の遮断棒がいったん下がり、特急列車と回送列車が目の前を通り過ぎていきます。ただ、列車の速度はかなり遅く、恐怖感を覚えるほどではありませんでした。

利用者は少なくても重要な駅

 西枇杷島駅が開業したのは、いまから100年以上前の1914(大正3)年1月23日。のちに現在の名鉄犬山線(犬山方面)に抜ける短絡線も整備され、名古屋本線、犬山線、短絡線で構成される三角形の線路(デルタ線)が西枇杷島駅の東側に構築されました。

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名古屋本線をまたぐ東海道本線の普通列車から西枇杷島駅を眺める(2019年6月19日、草町義和撮影)。

 短絡線を走る営業列車はいまはありませんが、デルタの3辺を通ると向きが変わることから、車両の方向転換を行うときに使用。短絡線を含むデルタ線の信号機などは現在、西枇杷島駅で管理されています。利用者は少なくても、列車の運行上は重要な「拠点駅」です。

 戦時中の1944(昭和19)年には旅客営業を廃止して貨物駅になりましたが、庄内川のすぐそばにあった枇杷島橋駅(現在の枇杷島分岐点)が戦後の1949(昭和24)年に廃止されたため、同駅の代わりとして西枇杷島駅の旅客営業が復活しました。国土地理院の空中写真によると、このころに待避線が整備され、狭い島式ホームを上下線にそれぞれひとつ設けた配置になったとみられます。

 西枇杷島駅のような狭いホームは、ほかにも全国にいくつかあります。ただ、安全の確保やバリアフリー設備の整備が難しいこともあり、徐々に減少。阪神電鉄の春日野道駅(神戸市中央区)は、かつて幅2.6mの島式ホームが設けられていて、その幅の狭さが有名でしたが、バリアフリー化のため線路の両外側に幅の広い新しいホームを設けることになり、島式ホームは2004(平成16)年に使用を終了しています。

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西枇杷島駅から犬山線の犬山方面に抜ける短絡線。
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短絡線と犬山線の合流地点。
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枇杷島橋駅があった枇杷島分岐点。名古屋本線(左)と犬山線(右)が分かれる。

 名鉄も2019年3月、西枇杷島駅のホーム改良と駅舎建て替えを2019年度の設備投資計画に盛り込みました。かつては西枇杷島駅の待避線に普通列車を停車させて、後続の準急列車などを先に行かせていましたが、2019年3月16日のダイヤ改正で待避線を使う列車が消滅。これに伴い、待避線を撤去してホームを拡張することになりました。

 工事はまだ始まっていませんが、そう遠くない時期、「狭いホーム」が姿を消すことになりそうです。