「報復兵器」とはWW2期、ドイツが対イギリス攻撃のために開発したミサイルやロケット兵器のことです。そのひとつ、V-1飛行爆弾はこれまで巡航ミサイルの元祖と見られていましたが、実は自爆ドローンのほうがより近いかもしれません。

サウジアラビアの油田をミサイルと無人兵器が襲撃

 2019年9月14日、中東・サウジアラビアの東部に位置する石油生産施設2か所が突如、何者かによる攻撃を受け、製油所などで火災が発生するなど施設の機能に大きな損害が生じました。この事件について、サウジアラビアの隣国イエメンで活動している反政府勢力の「フーシ派」がすでに犯行声明を出していますが、一方でアメリカ、イギリス、フランス、ドイツの各国は、かねてからサウジアラビアと対立しているイランが攻撃に関与していると主張しています。

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イギリスのダックスフォード帝国戦争博物館に展示されるV-1飛行爆弾(画像:Chris Dorney/123RF)。

 ところで、サウジアラビアが攻撃現場付近で回収した残骸などから、今回の攻撃には「ジェットエンジンを搭載して長距離を飛行できる巡航ミサイル」と、「あらかじめ設定された目標に向かって飛んでいく自爆型無人機」が用いられたことが分かっていますが、これらの兵器の元祖ともいうべき存在が、実はいまから70年以上前の第2次世界大戦中にドイツですでに開発されていました。それが、「報復兵器1号」こと飛行爆弾「V-1」です。

ロンドン市民を恐怖のどん底に陥れた「ブンブン爆弾」

 V-1は、1944(昭和19)年からドイツ空軍で運用が開始された無人兵器で、弾頭を搭載した本体後部上面にパルスジェットエンジン(間欠的に燃焼する簡単な構造のジェットエンジン)を搭載し、両側面に大きな主翼を備え付けたその見た目は、まさしく「飛行爆弾」です。また、搭載するエンジンが発する独特な音から、連合軍からは「ブンブン爆弾(buzz bomb)」とも呼ばれました。

ドイツ渾身の報復兵器「V-1」の恐怖! WW2期ロンドンを襲った自爆ドローンの元祖とは

ロンドンの帝国戦争博物館に展示されるV-1(写真中下)と、同じくWW2期にドイツが開発した世界初の弾道ミサイルであるV-2ロケット(写真右)(稲葉義泰撮影)。

 V-1は、地上に設置された射出装置から発射され、その後は内蔵式の誘導装置によって目標地点へと飛翔する仕組みで、射程は約250kmを誇ります。当初はフランスから発射され、イギリスの首都ロンドンを標的とした攻撃に用いられましたが、戦局の悪化にともない、連合軍に奪取されたベルギーの都市なども標的となりました。

 このV-1の最大の特徴は無人であるという点で、長射程ミサイルがない当時、兵士の命を危険にさらさずに敵国を攻撃できるというのは非常に大きなアドバンテージとなりました。また、V-1の構造は比較的簡素なもので、かつほぼ同時期に運用された弾道ミサイルの始祖である「V-2」よりも安価に製造することができました。

このように見てみると、これまでV-1は巡航ミサイルの元祖として知られてきましたが、現在でいえば自爆ドローンのほうがより近い存在なのではないかと、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は思います。

 ちなみに、一般的に知られているこの「V-1」という名称は、あくまでもドイツ語の「報復兵器1号(Vergeltungswaffen 1)」の略称で、この兵器の正式名称は「フィーゼラー Fi 103」といいます。

精度はイマイチながら約2万発も発射すれば…

 V-1がはじめてロンドンを攻撃したのは1944年6月13日、「史上最大の作戦」として有名なノルマンディー上陸作戦から1週間後のことです。それ以来、V-1はドイツが降伏するまでの間に約2万発以上が発射されましたが、その多くが目標地点に到達することはありませんでした。

ドイツ渾身の報復兵器「V-1」の恐怖! WW2期ロンドンを襲った自爆ドローンの元祖とは

ドイツ空軍のハインケル He111爆撃機に吊られたV-1。一部のV-1がこのように爆撃機から発射されたが、あまり成功はしなかったという(画像:アメリカ空軍)。

 その理由として、まず連合軍が戦闘機や対空砲火を効果的に運用してV-1を迎撃する体制を整えたこと、そしてもともとV-1の誘導装置などに関する信頼性が低く、目標に到達する前に墜落するか、あるいは目標を大きく外れた場所に着弾したということがいわれています。特に連合軍による迎撃に関しては、戦闘機が機銃を発射して迎撃すると自機が爆発に巻き込まれる恐れもあったため、戦闘機の主翼をV-1の翼にぶつけてバランスを崩し、墜落させる方法などさまざまな手法がとられました。

 しかし、少ないながらも目標に到達したV-1は絶大な被害をもたらしました。たとえばV-1の主要な攻撃目標だったロンドンでは、死者約6000人を含む合計約2万4000人が被害に遭っています。

 こうした絶大な威力と、さらに前述した独特のエンジン音も相まって、V-1はロンドン市民に心理的なダメージをも与える恐ろしい兵器となったのでした。

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