名鉄名古屋駅は、線路とホームが限られているため、ひとつの乗り場から様々な方面、種別の列車が次々と発車していきます。その状況から「カオス駅」や「迷駅」とも称される名古屋鉄道最大のターミナル駅の工夫を見ていきます。
名古屋鉄道(名鉄)最大のターミナル駅である名鉄名古屋駅は、JR東海、近鉄、名古屋市営地下鉄、名古屋臨海高速鉄道あおなみ線との乗換駅としての役割だけではなく、日本各地への高速バスが発着する名鉄バスセンターや、駅直結の百貨店、さらには同社の本社オフィスまでも立地する名鉄の中核となる駅です。
名鉄名古屋駅(2019年6月、草町義和撮影)。
そんな名鉄名古屋駅は、平日の8時台は上り28本、下り28本の発着本数を誇る、東海地方どころか日本でも屈指の忙しい駅とも言っても過言ではありません。それが影響してか、いつしか「カオス駅」や(名古屋駅を意味する「名駅」にかけて)「迷駅」とも称されることも多く、一部ではカルト的な人気になっています。
そもそもこの駅が「カオス」と呼ばれる原因は、駅構造にあります。名鉄最大のターミナル駅である同駅は頭端式(行き止まり式)ではなく通過式のターミナル駅であり(一部、名鉄名古屋行き列車あり)、なんと線路は上下1線ずつ、ホームはその2線を挟む形で3面しかありません。それにもかかわらず、上りは豊橋方面・中部国際空港方面の2方面、下りは岐阜方面・犬山方面・津島方面の3方面というように、ひとつのホームから複数の路線、行先、種別の列車が、1時間あたり上下最大56本発着しているのです。
このような状況のもと、利用者が列車を間違えないようにするため、ホームの床に示す整列の線や、電光の発車案内は、方面別に乗車位置と色を分けています。しかしそれでも時間帯によっては編成両数やドア数が変動することがあり、それにあわせて乗車位置も変わります。
自動案内放送だと間に合わない!極めつけは、同駅で種別が変わる列車が存在することです。「準急」で到着した列車が名鉄名古屋駅に停車中、「急行」に変わることもあります。

様々な様式を駆使して列車の方面や停車駅などが案内されている(2019年6月、草町義和撮影)。
このような状態だと混乱するのでは、と心配になりますが、毎日の利用者にとっては慣れたもの。皆さん、乗車位置にきちんと整列して目的の列車を待っています。とはいえ、観光客や外国人旅行客など普段使わない人にとっては大変分かりにくいことに変わりはなく、この特徴的な「初見殺し」が「カオス」状態を招いているのです。
名鉄名古屋駅のホームでの案内は、自動音声が導入されておらず、上下線とも駅係員による肉声です。
これは先述の通り列車の発着本数が多く、特にラッシュ時間帯は前の列車が発車したらすぐその背中を追うように次の列車が入ってくる状態で、駅手前のトンネルはいつも次の列車が順番待ちをしています。自動放送だと、言い終わる前に次の列車が入って来てしまいます。そのため係員が直接マイクを使い、列車の動きにあわせて案内を始めるのです。先ほど述べた通り行先・種別・乗車位置など、利用者への案内事項も多くあるため、確実に係員から直接案内する手法が選ばれています。
長く続く「四面楚歌」状態に解決の兆し仮にどこかの路線で遅延があれば、名鉄名古屋駅を発着させる列車の順序に変更が生じることもあります。そのような場合に、係員が直接放送をすることで臨機応変に対応しているのです。加えて、駅の線路がカーブしている構造上、車掌が列車のドアを閉める際にその状態を目視できないため、ホーム上部にある案内ブースからあわせて乗降完了を確認しています。
「こんなに不便な環境なのであれば、お金をかけてでも敷地を拡げて線路やホームを増やせば良いのでは」と考える人もいるかもしれませんが、それが大変難しい理由がこの駅の立地にあります。
しかしそれでも、2017年に名鉄がリニア中央新幹線の開業にあわせた「名鉄名古屋駅地区再開発」計画で駅拡張を検討している旨を発表し、さらに2019年3月には同駅を南北方向に延長し4線化を計画していることも公表しました。具体的な内容は未定ですが、中部国際空港行き列車の専用ホームを設けることが検討されており、海外からの利用客などが間違えにくいような構造になるようです。
長く続いたこの状態も、近い将来に解決の兆しが見えてきたともいえます。今後リニア開通にあわせて名古屋名物の名鉄名古屋駅がどのように変わっていくか、注目したいところです。