かつてベトナム戦争を戦ったベトナムとアメリカの両国が軍事的に接近しています。兵装面でも、ベトナム軍はロシア製兵器からの転換が進むかもしれません。
2019年10月3日、ロッキード・マーチンの日本法人がツイッターの公式アカウントで、戦術輸送機「C-130J」の最新状況をまとめたファクトシートの日本語版を公開しました。同社は今後も日本語版C-130Jファクトシートについて、最新版を随時発表していく方針も明らかにしています。
イタリア空軍のC-130J。同空軍のほか20か国の空軍に採用されている(画像:ロッキード・マーチン)。
C-130Jは「ハーキュリーズ」の愛称で知られるC-130シリーズの最新仕様機です。基本設計は航空自衛隊も運用しているC-130Hと大きな違いはありませんが、出力の強化されたエンジンと新設計のプロペラの採用により、最大速度や航続性能などが向上したほか、離陸時の滑走距離もC-130Hに比べて短くなっています。
C-130Hの操縦席はアナログ式の計器が多数並んでおり、それらを監視するためにフライトエンジニア(航空機関士)が搭乗していますが、C-130Jは大型の液晶ディスプレイが並んだ、近代的な「グラスコックピット」を採用しており、フライトエンジニアを必要とせず、操縦士と副操縦士の2名で運航できます。
航空自衛隊のC-130Hは1984(昭和59)年から運用が開始されており、そろそろ後継機の検討が必要な時期を迎えています。アメリカの航空軍事メーカーであるロッキード・マーチンの日本法人が、まだ自衛隊に採用のないC-130Jのファクトシートをわざわざ日本語に翻訳までして公開したのは、同機を航空自衛隊のC-130Hの後継機としてアピールするためだと考えられます。
ロッキード・マーチンは新たな受注を獲得すべく、日本をはじめとする国々にC-130Jを提案していますが、そのなかにはちょっと意外な国も含まれています。
売り込むのは輸送機のみにあらず2019年10月2日から4日までの3日間、ベトナムの首都ハノイで、同国初の防衛装備展示会「DSEベトナム」が開催されました。

「DSEベトナム」で展示されたF-16Vの大型模型(竹内 修撮影)。
F-16Vは高性能コンピュータの搭載や、探知距離の長いAN/APG-83 AESAレーダー、大型液晶ディスプレイを使用するグラスコクピットの導入といった改良が加えられたF-16の最新仕様機で、台湾とスロバキアが導入を決定しているほか、ブルガリアやインドなどにも提案されています。
ベトナム人民空軍は現在、ロシアから導入したSu-27「フランカー」を11機、Su-27をベースに開発された多用途戦闘機Su-30MKVを35機、旧ソ連時代に導入したSu-22戦闘爆撃機を35機保有しています。ベトナム人民空軍では長年に渡って、ベトナム戦争にも投入されたMiG-21が主力戦闘機として運用されていましたが、2015年に退役しています。
ベトナム人民空軍はMiG-21を後継する新戦闘機の導入を検討しており、「フランカー」シリーズの最新仕様機「Su-35」、スウェーデンのサーブが開発したJAS39「グリペン」と共に、F-16も候補のひとつとして名前が挙がっています。
やはり敵の敵は味方かつて激しく戦ったアメリカの開発した戦闘機が、ベトナム人民空軍の新戦闘機の有力候補となっている背景には、中国の存在があります。
現在のベトナム社会主義共和国の前身であるベトナム民主共和国は、中国と良好な関係を築き、ベトナム戦争でも中国から軍事的な支援を受けましたが、統一後の1979(昭和54)年に親ベトナム政権を樹立するためカンボジアに侵攻したことで、カンボジアの対立勢力を支持していた中国との関係が悪化。同年2月に武力衝突(中越戦争)が発生しています。
近年、中国は人工島を建設するなど、南シナ海にて南沙諸島の領有化を進めていますが、南沙諸島の領有権を主張しているベトナムは中国に対して神経を尖らせています。このためベトナムは、中国の力による現状変更を認めない、かつての宿敵であるアメリカと軍事的な結びつきを強めており、2018年3月にはアメリカ海軍の原子力空母「カール・ビンソン」がベトナムのカムラン湾に寄航しています。

ベトナムへ6機が輸出される「スキャンイーグル」(竹内 修撮影)。
アメリカとベトナムの軍事的な結びつきは防衛装備品にも及んでおり、アメリカ政府は2019年6月に、ボーイングの子会社であるインシツが製造している偵察用UAV(無人航空機)「スキャンイーグル」6機の売却を決定しています。
またベトナム空軍は、アメリカのテキストロン・アビエーションが開発したターボプロップ練習機T-6「テキサンII」の導入を希望しており、アメリカ政府も前向きな姿勢を示していることから、F-16Vがベトナムに提案される可能性は高く、将来的にはベトナムのアメリカ製防衛装備品の導入は増えるのではないかと、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。