ヘリコプターを夜間や悪天候下に飛ばそうとすると、ヘリポートとヘリコプターの両方に相応の設備や能力が必須となります。しかし自衛隊の場合、設備のない演習場などでヘリを運用するための支援装備があります。
飛行場やヘリポートには、航空管制用の無線設備が多数あります。それは大きくわけると、「ナビゲーション用無線施設」、「着陸誘導用無線施設」、「監視用レーダー」、「対空通信アンテナ」の4種類あり、それぞれ周波数帯や用途によって細分化されますが、おおむねこの4種類がそろっていれば航空管制が可能です。
防災訓練でグラウンドに着陸する陸自のUH-1J多用途ヘリ。運航支援設備がない場所では操縦士の目視で離着陸する(2008年10月、柘植優介撮影)。
仮に、これらを外に持ち出すことができれば、空き地や駐車場などを飛行場やヘリポートに転用することもできるでしょう。また既存のヘリポートなどに展開すれば、離着陸機能を拡充することが可能です。
市井の飛行場や空港に設置された上記4設備は、敷地内での固定運用ですが、自衛隊は演習場を含む屋外展開を平時から考えているので、これらをユニット化し車載式にして装備化しています。
また、上述した4種類の航空管制施設は、たとえなくても日中のヘリコプター運用は可能です。しかし急患輸送などの要請は、夜間や雨天時を問いません。操縦士にとって視界が狭いなかのフライトは、これら設備のあった方が心強いというものです。
やっていることは空港施設と一緒自衛隊における、こうしたいわば「飛行場機能のユニット化」は、たとえば戦闘で滑走路が破壊されたり、基地機能が喪失した場合に備えてのバックアップ用という意味合いも含まれています。

東日本大震災で石巻市総合運動公園に展開した陸上自衛隊の着陸誘導装置(2011年4月、柘植優介撮影)。
たとえば「航空管制装置」は、その名のとおり航空機を誘導、管制するもので、「航空気象装置」は運用地域周辺の気象情報を収集するもの、そして「航法援助装置」は飛行中の航空機が位置を把握するのを補助するためのものです。なお、これらはヘリコプターだけでなく、飛行機のフライトサポートも可能です。
ちなみに航空自衛隊は、ヘリコプターだけでなく戦闘機や大型の輸送機などを運用しているため、より大きな管制塔やレーダー進入管制装置(通称「ラプコン」)、戦術航法装置(通称「タカン」)なども、可搬式で装備しています。管制塔は揚降式のトレーラー積載型で、最大8mの高さまで上がります。レーダー進入管制装置は着陸を地上から誘導するためのもので、戦術航法装置は航空機に位置情報を提供するためのものであり、各々上述した陸上自衛隊の航空管制装置、航法援助装置と似た役割を担っています。
東日本大震災で大活躍 可搬式の飛行場設備陸上自衛隊や航空自衛隊のこのような装備は、前述したように有事の際、飛行場が破壊され機能を喪失した際のバックアップや、災害派遣でも有用です。航空機を野外で運用する際に展開先で運航をサポートするために配備されているものです。

富士総合火力演習で、各種航空機の運用に重要な気象情報を収集する航空気象装置(2011年4月、柘植優介撮影)。
実際、東日本大震災では、石巻市総合運動公園や津波で基地機能を喪失した松島基地などで実運用に就いていました。
特に松島基地については、基地のかさ上げや新管制塔の建設などが行われたため、航空自衛隊の移動式ラプコンは2011(平成23)年から2014(平成26)年までの3年にわたって松島基地に展開し続け、その間、周辺空域のサポートを行っていました。
また陸上自衛隊の航空管制装置は、たとえば2014(平成26)年2月の豪雪被害では山梨県甲府市に、2015(平成27)年9月の関東・東北豪雨では茨城県下妻市に展開し、ヘリコプターの離着陸を支援しています。
ちなみに、3年に1度、埼玉県朝霞駐屯地で実施される自衛隊中央観閲式においても、陸海空の航空機による観閲飛行を支援するため会場脇に展開しています。