まず品川~名古屋間での開業に向け、建設が進むリニア中央新幹線。将来500km/hで超電導リニアが駆け抜けるその本線トンネルを取材したところ、「リニアの強み」を実感。

トンネル掘削で発生する土砂についての工夫も注目です。

山あいを行く「空中のミニ鉄道」?

 JR東海が、まず2027年の品川~名古屋間開業を目指し、建設を進めているリニア中央新幹線。そのとき実際に500km/hで超電導リニアモーターカーが通るトンネルが2019年11月26日(火)、報道陣へ公開されました。超電導リニアが将来通る「本線トンネル」の公開は、今回が初です。

 このたび公開されたのは、岐阜県の御嵩町と恵那市にまたがる全長およそ14.5kmの日吉トンネル、そのうちの「南垣外(みなみがいと)工区」です。日吉トンネルのうち、約7.4kmをこの工区が担当します。

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中央新幹線「日吉トンネル」の掘削現場。将来ここを、超電導リニアが500km/hで駆け抜ける(2019年11月26日、恵 知仁撮影)。

 岐阜県瑞浪市の中心市街地から北へ、風景が山あいになってきたなかに、その工事ヤード(作業所)はありました。

 まず目に付いたのは、山間に延びていた「ミニ鉄道の鉄橋」のような構造物です。トンネル掘削で発生した土砂を、工事ヤードの外へ運搬するためのベルトコンベアとのこと。これにより土砂を運搬するダンプの台数が減り、一般交通への影響や騒音、振動を低減できているといいます。

なお、このベルトコンベアは全長およそ2000m、高さ約20m。近隣で行われているほかの埋め立て事業地へ続いているそうです。

中央新幹線のルート選定にあたって避けられたもの

 工事ヤードには、トンネル掘削に使うコンクリート製造設備や湧水などの処理設備のほか、2種類の「土砂ピット」が設けられていました。発生土を一時的に仮置きする設備で、ひとつは露天、もうひとつは屋根のある遮水型。発生土に、基準を超えるような自然由来の重金属などが含まれていた場合、遮水型の土砂ピットを使用。仮置きした土砂が環境へ影響を与えることを防ぐ、というわけです。

ここを500km/hで超電導リニアが走るのか!工事中の中央新幹線トンネル こうなっていた

南垣外工区の工事ヤード。奥へ延びる白い屋根付きのものが外部へのベルトコンベアで、左側の白い建物が遮水型の土砂ピット(2019年11月26日、恵 知仁撮影)。

 なお、この工区周辺にはウラン鉱床が存在すると見られていますが、JR東海によると、中央新幹線のルート選定にあたってそれを避けているほか、万が一、土砂にそれが含まれていた場合でも、このような遮水、放射線量を抑える措置を行い、対応できるようにしているとのこと。現時点で、管理基準値をこえる濃度のウランは検出されていないそうです。また、重金属はトンネル掘削において出てくるものであるため、ここでも発生しているそうですが、こうした設備で適切に処理しているといいます。

 さて、このリニア中央新幹線の日吉トンネル、掘削はかんたんにいうと、地上にあるヤードからまず約0.4kmの斜坑を掘り、その先からリニア中央新幹線の列車が通る「本線」のトンネルを掘る、という流れ。

この斜坑を通って、いよいよトンネル内部へ入ります。

掘っている途中でも「超電導リニアの強み」が分かるトンネル

 斜坑を進むと、ほどなくより大きなトンネルとのT字路に出ました。超電導リニアモーターカーが500km/hで走る、日吉トンネルの本線トンネルです。その高さは約8mで、幅は約14m。東海道新幹線よりやや太い具合です。

 掘削は「NATM(ナトム)」という工法で行われています。

掘削した部分にコンクリートを吹き付け、「ロックボルト」という長い棒状のものを周囲に打ち込むなどし、山が持っている保持力を活用する工法だそうです。なおこの付近の地盤は固い花こう岩で、土かぶり(地表からトンネルまでの距離)は、最大で140mとのこと。

ここを500km/hで超電導リニアが走るのか!工事中の中央新幹線トンネル こうなっていた

大きな工事機械が並ぶ中央新幹線日吉トンネルの本線トンネル(2019年11月26日、恵 知仁撮影)。

 将来、超電導リニアモーターカーが500km/hですれ違うこともあるだろう、そのトンネルの中央に立ってみると、名古屋側に向かって下がっているのが分かりました。このトンネルにおける最大勾配は30パーミル(1000m進んで30mの高低差)。鉄車輪を使う従来の新幹線では速度に制約も出る急勾配です。

「勾配に強い」という、摩擦によらず宙に10cm浮いて走る超電導リニアの特徴が伺えました。

 この南垣外工区では1日25人(最盛期は70人)、24時間体制で作業が進められており、本線トンネルは約14.5kmのうち890mの掘削が終わっています(11月26日時点)。工期は2026年9月30日までの予定で、順調に進んでいるそうです。なお、斜坑はリニア中央新幹線の営業運転開始後、非常口として使用されます。