艦艇に対するミサイル攻撃への対処は、撃墜するか回避するかの2択ですが、この回避するためのツールのひとつ、デコイ(おとり)が進化しています。これをめぐる世界各国の動向から、日本企業も開発に乗り出しました。

ミサイルを「落とす」か「かわす」か

 海上自衛隊が保有している艦艇のうち、敵との戦闘をおもな任務とするいわゆる「護衛艦」には、敵の艦艇や航空機が発射してきた対艦ミサイルを無力化する方法が、大きくわけて2種類存在します。

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IHIエアロスペースとイギリス企業ケムリングカウンターメジャースの共同開発による空中浮遊式デコイ「トレロ」(画像:IHIエアロスペース)。

 ひとつは、対空ミサイルや艦載砲などによって接近するミサイルを撃墜するというもので、これは「ハードキル」と呼ばれます。もうひとつは、電波を反射する小さな物体を多数射出する「チャフ」と呼ばれる装備により、ミサイルのレーダーに対して目くらましを仕掛けるというもので、これは「ソフトキル」と呼ばれます。これらの違いをシンプルにとらえれば、ミサイルを「落とす」か「かわす」かの違いともいえます。

 しかし、目標を見分けるための先進的なシステムを搭載する現代の対艦ミサイルに対しては、チャフの有効性にも限界が見え始めているという現状があります。そこで、各国の海軍艦艇にはチャフに加えて、敵のミサイルを回避するための「デコイ(おとり)」の搭載が進んでいます。

各国で運用されている「デコイ」どんなものがある?

 たとえば、アメリカ海軍やオーストラリア海軍の艦艇には、この2か国が共同で開発した「ヌルカ(Nulka)」と呼ばれるデコイの配備が進んでいます。

 オーストラリアの先住民族であるアボリジニの言葉で「素早く」を意味するヌルカは、ロケットモーターにより空中を浮遊しながら電波を放出し、これにより敵のミサイルに対して、まるでそこに目標の艦艇が存在するかのような錯覚を与え、何もない海原へと誘導することができます。ちなみに、このように自ら電波を放出するタイプのデコイを「アクティブデコイ」といいます。

艦艇に迫るミサイルどう回避?撃墜できなかったら…進む「デコイ(おとり)」開発配備

「水上浮遊式デコイシステム(FDS)」の、射出、展開の様子。開発はイギリス企業のアーヴィンGQ社(画像:アーヴィンGQ)。

 このアクティブデコイに対して、自らは電波を出さない代わりに電波を反射する物体を展開して、レーダー上ではそこに軍艦のような大きな目標が存在しているように見せかける、「パッシブデコイ」と呼ばれるものがあります。その代表例として挙げられるのが、イギリスの企業が開発した「水上浮遊式デコイシステム(FDS)」です。

 FDSは、円筒形の射出装置と、そこから射出されて風船のように膨らむ浮遊体から構成されていて、レーダー上では、艦艇よりも大きく映るこの浮遊体と目標艦との区別がつかなくなり、そして浮遊体のほうにミサイルがひきつけられるという仕組みです。シンプルかつ安価なシステムながら非常に有効的なこのFDSは、イギリス海軍のほか、最近ではカナダ海軍やアメリカ海軍でも採用されています。

IHIエアロスペースが出展した浮遊式デコイ

 そうした各国の動向も踏まえ、日本企業もデコイの開発に乗り出しています。

 2019年11月18日(月)から20日(水)にかけて、千葉県幕張メッセで開催された日本初の総合防衛装備品展示会「DSEI Japan」において、日本のIHIエアロスペースが展示したのが、空中浮遊式デコイ「トレロ(TORERO)」です。

艦艇に迫るミサイルどう回避?撃墜できなかったら…進む「デコイ(おとり)」開発配備

空中に浮遊する「トレロ」のイメージ(画像:IHIエアロスペース)。

 このトレロについて、IHIの担当者はその性能を次のように説明します。

「トレロは、電波を反射する物体をパラシュートのように空中に浮遊させる仕組みのデコイで、チャフの後継という立ち位置です。現代の対艦ミサイルは、チャフと目標艦との識別が可能になってきています。しかし、このトレロはチャフを用いた際よりもレーダー上には大きな物体として現れるため、レーダーを用いる全ての対艦ミサイルに対して素早く有効に妨害を行うことができます」

 さらに、アメリカ軍が運用するヌルカについて、「システムが複雑なぶん、高価であるという問題があります」とし、その点、トレロは非常に安価で、かつ優れた性能を有しているうえ、「既存の護衛艦が装備するチャフ発射器から運用することができます」といいます。

 現在、軍事力を拡大する中国が特に力を入れている分野のひとつが、各種対艦ミサイルです。

海上自衛隊の艦艇にも、そろそろこうしたデコイの配備を検討する必要があるのではないでしょうか。

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